練習場経営塾 第4回 差質化による入場者増加対策

練習場経営塾 第4回 差質化による入場者増加対策
「どうやったら入場者を増やすことができますか?」 と、よく聞かれます。大規模な改修工事や、広い敷地に様々な施設を組み合わせれば入場者増も可能でしょうが、コストをかけず、瞬時に入場者を増やすマジックみたいな方法はありません。 全国の商圏のゴルフ人口は、一定数に近い状態です。こちらが入場者を急に増やせば、競合施設の入場者は急減する。結果的に相手を刺激して、価格競争などの対抗策を講じられ、得策ではありません。そのため急に増やす方法ではなく、永続的な「差質化」によって時間をかけながらじわじわ増やす方法が一番良いのです。 その方法にはハードとソフトの2種類がありますが、施設のハードによる差質化は、残念ながら効果が持続しないケースが多々見られます。 大規模改修工事で一定期間入場者が増えたとしても、時間の経過と共にその効果は薄れてしまう。 過去には自動ティーアップ機の導入で「入場者が増えます!」と喧伝された時期もありましたが、結局、多くの施設が導入したので差質化にはなりませんでした。 メーカーが、同一商圏の同業者に製品を供給しない「テリトリー制」を導入すれば別ですが、そうではない以上、ハードは永続的な差質化にはなりません。 ただ、こうしたハードも使い方を工夫すれば差質化につながるケースがあります。 例えばリライトカードやICカードです。多くの施設が導入していますが、これを精算用に使うだけなら差質化にはつながりません。カードから得られるデータを活用して、各種の集客対策や客単価向上策に活用すれば、永続的な差質化対策となります。詳細は今後紹介しますので本号では割愛します。

凡事徹底が基本

次にソフトによる差質化ですが、こちらは「実務」と「システム」による差質化の2種類あります。実務による差質化で最も一般的なのは「接客力向上」でしょう。場内をクリーンに保つ6S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ・スマイル)も重要なポイントです。 2種類のソフトを組み合わせて「徹底して継続」すると、他施設との差質化につながり、入場者も6か月経った頃から徐々に増え始めます。こうした差質化の動きを競合施設は感じにくく、たとえ感じたとしても追随しません。なぜなら、最初はやろうとしても継続することが難しいからです。 難しさの一つ目の理由は、接客サービスなどによる入場者対策は効果がすぐに出ず、たとえ入場者が増えたとしても、それが接客による効果なのかどうか判断できないからです。やったことに対する手ごたえが感じられず、中途半端に終わるケースが多いのです。 二つ目の理由は、経営者の強い信念の欠如です。 筆者が施設を訪れ「6Sをやってますか?」と質問すると、どの施設も「やってます」と答えますが、経営者が中途半端に妥協するためそれぞれのレベルは大きく異なります。 スタッフは経営者の様子を眺めて「この程度でいいや」と自分で基準を決めてしまいます。だからこそ、経営者の強い信念と指導力が必要ですが、そこまで徹底する経営者は多くありません。 凡事徹底――。接客力や6Sなど、やって当たり前のことを徹底すると、必ず差質化の決め手となります。 ソフトによる差質化のもう一つは、システムを活用したものです。 スクールの章でもお伝えした「三位一体運営」などがこれに相当します。 地道な活動ですが、まずは来場者に声掛けしてスクールに誘導し、同時に継続したスクールの受講と予習・復習の大切さを伝え続けます。 これを繰り返し行うと500名の生徒で受講総数が年間2万2000人、レッスン以外の「自主練」打席利用が年間1万人、合計3万人超という、とてつもなく大きな数値になります。 年間入場者が7万人以上で60打席以上の施設であれば、どこでもこのような数字を達成することが可能です。

「永続的」の本義

ここで永続的な差質化の「永続的」について考えてみましょう。 筆者が描く「永続的」のイメージは「相手が対抗できない、もしくは対抗しようとも思わない手段」となります。対抗しようとも思わない、だから永続的だとも言えるのです。筆者が賃借して運営を始めた施設は築50年でしたが、改修資金がなかったため、清掃を徹底していました。60打席を営業終了後の23時から3時間、2名のスタッフが清掃し、さらに営業開始後はフロントスタッフが1時間に1回、全打席を回って清掃します。 来場者から「ここはきれいだねえ!」と褒められましたが、このとき筆者が実感したのは、「きれい」は施設の新旧だけではなく、「清潔感」によって感じて頂ける。清潔感という、数値化できない魅力の価値をこのとき初めて知りました。清掃コストは年間200万円。そのせいかどうか、入場者は徐々に増え始めました。 集客効果がはっきりとは見込めないこのような作業に、多額な費用をかけようとは思わない経営者は多いはず。だからこそ、差質化につながるのです。 接客も、当初はコイン精算方式で個人名がわからないため「笑顔で元気よく挨拶しよう」から始めました。3年目にリライトカードを導入してからは、挨拶に名前を挟むように変更。さらにその後、ワンモアリップサービスを伴った接客に変えました。接客したフロントスタッフが打席清掃で巡回し、体調を気遣ったりイベント案内をすることで、自然と施設のファンが増え、開業して7年後には入場者が2倍になったのです。 重要な点は、価格競争や施設改造ではなく、コミュニケーションで増えたこと。徐々に増えたため同一商圏の競合施設はあまり気づかず、万が一気づいても、うちのフロントはあそこまでは出来ないと諦めてしまい、対抗意欲を失ったのではないでしょうか。だから永続的な差質化が図れたのです。 先述したカードシステムの活用も、接客力の向上も、差質化を図るには継続した工夫と改善が必要です。その過程を知らずに結果だけを見ている競合他社は、どこから始めたらよいのかわからないため、最初から追随を諦めます。永続的な差質化を図るには、何らかの内製と改善の過程が必要なのです。 外部から購入したハードによる差質化は、内製やハードのオリジナル化が難しく、永続的な差質化が難しいのです。 先述の施設が投資した主な費用は、イニシャルコストとしてコイン式からカード式への切り替え費用1000万円、ランニング費用として年間の清掃費用200万円と、パートと比較した正社員の労務費の増加分が年間500万円ほどでしょうか。 カードシステムが一般化していることを考えれば、増加費用はランニングコストの700万円だけ。この支出増で入場者が大幅に増えるのであれば、試してみたくなりませんか?
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら