今回は、前段で顧客データを活用した来場者の増加対策について、後段では顧客データがない施設でもデータ収集できる方法を紹介します。まず、顧客データを活用した「入場者増加対策」を行うための条件について説明します。
一つ目の条件は、その施設がリライトカードかICカードを導入していること。
二つ目は、来場者が施設発行の顧客カードを持っていることです。
現金との併用や、顧客カードを積極的に勧めていない施設では、来場者を特定できないゲストカードの使用者が多く、対策が甘くなってしまいます。
そのため「ビジターカード利用者」に「顧客カード」へシフトしてもらう必要があります。ビジターカードと顧客カードの利用単価に差をつけて、カードを作成するメリットを訴求しましょう。入場料を数回無料にするのも一案です。
入場料を無料にしても、カードの作成費用は顧客持ち。しかも何回も来場して、ボール料を払ってくれるのでメリットは大です。
一度「顧客カード」を作ってしまえば、誰がいつ、どれだけ来場しているかが把握でき、「顧客対策」が打てるようになります。
まず、新規来場者対策を考えてみましょう。
自社の練習場を「知らない」「来たことがない人」を来場させるには多大な労力が必要ですが、たまたま初めて来た人に印象的な接客をすれば、再来場につなげられます。具体的には、新規来場 ⇒ リピーター ⇒ 常連固定客化の流れが新規来場者対策です。
そのための手順は、新規カードの作成を依頼する ⇒ 新規来場者限定の入金特典を説明する ⇒ 1回では消費しきれない(カード残高が残りそうな)入金を推奨する。その上で、接客を担当したスタッフが打席まで案内して、利用方法などを丁寧に説明します。
フロントに戻ったらタイマーを15分後にセットして、レッスンプロが打席を訪れスイングのアドバイスをします。
レッスンプロがいない場合は、フロントスタッフが行って「お困りのことはありませんか?」と尋ねます。さらに、お帰り時に「サービス入金」などを行って、カード残高が残るようにする。再来場を促すためです。
新規から再来場者になった人を「リピーター」と呼びますが、上記の施策を行なった施設のリピーター率は40%台だったものが、今は60%台になっています。新規来場者10人のうち6人がもう一度来場するのは凄いことです。
筆者は、これで良しと思っていたのですが、データを詳しく調べたら、3年前に新規で来てリピーターになった人が、3年後も利用している率はわずか15%しかなく、愕然としました。
その一方、累計来場回数が5回以上の人は、3年後の利用確率が高いことも分かりました。そこでまず、2回、4回、7回というステップを踏み、目標値はそれぞれ60%、40%、20%として、複数回来場して頂くための対策を考えることにしました。
施設によって異なりますが、1施設の年間新規来場者数は1000名前後。累計来場回数は5000名にもなります。年間入場者10万人の施設でも、5%を占める大きなボリュームなので、取り組む価値は十分にあります。
クイズで情報収集
新規来場者対策の次は「消滅顧客対策」です。
様々な理由で疎遠になるケースは珍しくありませんが、リライトカードかICカードを導入していれば、誰が来なくなったか分かるので個別の対策が打てる。それが消滅顧客対策です。
まず、一定期間来場が途絶えた顧客に「特典付きのDM」を送り再来場を促します。ある施設の年間DM発送量は4000枚、回収枚数900枚、回収率は23%で、回収後の累計来場回数は5000名となっています。
その際、DMの発送対象者ですが、カード残高と回収率の関係性は低く、未来場期間と回収率の関係性が高いことが分かりました。
未来場期間が長くなると「通う」「練習する」習慣がなくなるのだと思います。期間別では「2~3ヶ月未来場」の回収率が最も高いため、主に3ヶ月間の未来場者を対象にDMを発送します。
この時に注意したいのは、DMの「特典目当て」で来場するケースです。
DMの特典が付いた時だけ来場されるのでは困りますね。入金された消滅顧客の再来場率も高いので、入金ポイント5倍などの特典で入金を促し、再来場率を高めること。
また、DMを送って再来場した人へのDM発送は、その後半年は行わず、特典目当ての来場を抑えます。
ただし、消滅顧客対策のポイントは、定期的にDMを出し続けることです。消滅期間が長くなると、回収率が20数%から一桁台へと極端に落ちるからです。放置すると縁が切れるので、賞味期間があるうちに発送しましょう。
このような対策は、ゴルフ人口減少時代で顧客の争奪戦になったとき、大いに威力を発揮します。
さて、ここから後段の始まりです。話は分かった。でもうちには設備もスタッフもいない、とおっしゃる経営者のために、いくつかの方法を紹介しましょう。
筆者が20年前に練習場を賃借した時、そこはコイン精算方式でした。フロントスタッフは筆者を含めて3名、レッスンプロ2名の5名体制。
資金も乏しく、この5名で接客、打席清掃、ネットの修理、レッスン、朝の立ち上げから夜の閉め作業まで行いました。
このような状況で、どうしたら顧客データを集められるのか、筆者らは知恵を絞ります。結果、来場者が楽しく、自らデータを提供してくれる方法を考えたのです。
まず、練習ボールでもいいのできれいなボールを200個ほどと、これを入れる透明な容器と投票用紙、ポスターを用意。
ボールの「数当てクイズ」をするためです。投票用紙に名前、住所、電話番号、メールアドレス、誕生日を記入して投票してもらうのです。
これを3週間~1ヶ月間行い、期間中は何度でも来場の都度、投票してもらいます。賞品が当たった時の「連絡用」の記入なので、来場者は楽しそうに記入します。
名前を書くのを嫌がる来場者はそもそも投票しないので、トラブルは起きません。
賞品を「1~3時間打ち放題」や「1週間無料パス」にすればコストはゼロ。投票期間を長めに設定したのは、来場頻度もチェックするためです。
これとは別に、回数券やプリペイドカードと同じ金額の券種を、10枚集めたら1枚プレゼントしました。
1枚プレゼントする際に交換された方の顧客データをすべて記入してもらえば、来場頻度が分かります。
単に「お名前や住所を書いてください」とお願いすると、多くの来場者は抵抗しますが、賞品を受け取るメリットがあれば話は別。そこが狙いです。
前々回の号で差質化対策について書きましたが、今回も差質化による入場者増加対策です。消滅顧客対策などは、隙間時間に消滅顧客のデータを拾い、DM発送するだけの単純作業なので、パートさんに適していると思います。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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