練習場経営塾 第8回 練習場の「客単価向上」対策

練習場経営塾 第8回 練習場の「客単価向上」対策
売上を入場者数で割ったものが客単価ですが、客単価には2種類あります。打席売上に限定した客単価と、打席にスクールやショップ売上なども加えた総売上の客単価です。細かい話をすれば、打席の客単価にも入金ベースと使用ベースの2種類があります。 客単価を上げる方法は(1)「販売数量の増加」(2)「値上げ」(3)「両者の中間」の3種類ですが、まずは(1)についてみていきましょう。 これには「打球数の増加」と「打席外収入」(スクール、ショップ含む)の増加があります。打球数を増やすためには、目標グリーンの設置などアプローチ環境の整備が挙げられます。これにより1人1球増えたとして、1球10円の施設の場合、入場者8万人×単価10円で年間80万円の純益となります。 もう一つの「打席外収入」の向上には、レッスンプロやフロントの正社員化などが必要なため、踏み切れない経営者が多いようです。 また(3)の「中間方法」は、単価を上げずに量を増やす方法です。例えば1球10円、1カゴ50球で500円を、60球で600円にする。あるいは60分打ち放題を80分に伸ばしたり、打ち放題でも時間オーバーをOKにして「割増料金」を稼ぐ方法などです。 さて、残るは「値上げ」による客単価向上です。こんなご時世で値上げは無理と思われる読者は多いでしょうが、筆者が関わった練習場では過去、数回にわたって値上げをしています。どうやって?そのあたりを中心に話を進めます。 打席もスクールも、値上げをする前には環境の整備が必要です。接客や6S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ・スマイル)を良くすると共に、三位一体運営を行えば徐々に入場者が増えて待ち時間が発生します。閑散期でも、平日の夕方や週末に待ち時間が出るようになれば値上げのチャンス。フェアウェイや打席の改装工事、打球測定機器の導入などにタイミングを合わせて値上げをします。 日頃から顧客とコミュニケーションが取れていれば、大きなクレームにはならないでしょう。値上げに対する反応が厳しい場合は、値上げ分をポイント還元する方法もあります。入場料を100円値上げし、一定部分をポイントで返せば不満は収まるでしょう。ポイントはすぐに還元しない来場者が多いので、値上げとの差額分が実質的な増収となります。 そもそも練習場は打席数が限られています。限られた打席でより多くの売上を得るには、入場者を増やして回転率を上げる、時間当たりの単価を上げる、客単価を上げる、の3点しかありません。 過去にこの連載で述べたように、様々な施策で入場者を増やし、入場者が増えたら値上げを行って一時的に入場者を減らす。また努力して入場者を増やして値上げを行う。その繰り返しが客単価向上に適しています。値上げをしても、顧客に逃げられないための対策は、当連載の「打席の項」で詳述した永続的な差質化です。 練習場が単にボールを打つだけの場所なら、価格競争のレッドオーシャンになる。そこでしか出会えないスタッフの笑顔や気遣い、仲間との語らいの場になるとブルーオーシャンになる。価格ではなく、価値で選ばれる施設になれば値上げしてもロイヤルカスタマーは絶対に離れません。

レッスン値上げの時機は?

スクールも同じです。単にボールを打つだけなら近くの練習場を選ぶでしょうが、良いレッスンを受けたいとなると遠い練習場でも通います。フロント業務や施設管理まで担うレッスンプロの場合、生徒数は120名程度が限界です。レッスンの評価が高まり、生徒が限界数になるタイミングが月会費を値上げするチャンスです。 一斉値上げではなく、新規入会者から上げていけば、既存会員からのクレームはゼロなので、スムーズに値上げできます。5年経つと多くの会員が入れ替わるので、値上げ効果が徐々に浸透します。 一方、チケット料金は打席料金との見合いです。7人70分のレッスンを行っている場合であれば、打席の平均客単価より200円高い金額設定が目安です。打席客単価が1200円であればチケット料は1400円という感じです。 チケット料の場合は全会員に影響するので、値上げの理由も必要です。スクール打席を改装したり、新しいレッスンプロを採用し、レッスンを始めた時期が値上げのチャンスですが、1か月前に値上げを告知して、事前に旧単価のチケットをまとめ買いしてもらうなどで不満を抑えます。 スクールを新規開校する施設は集客に自信がなく、料金設定は控えめにしがちです。このため、生徒が集まった時点で料金設定を見直して、値上げに取り組んでいくケースが多いかと思います。 これとは別に、客単価向上を目指す「入金」キャンペーンを行っているケースをたまに見ます。練習場のカード残高を大幅に増やし、競合施設に流れることを阻止すると共に、売上を増やす一石二鳥の作戦と考えられているようです。しかし、カードをまとめ買いするお客様はそもそも常連客なので、浮気の心配はありません。おまけに割引特典を設けて販売するため、結果的に常連への割引販売となっています。 プレミア率の高い券種の購入を促したり値引き販売することは、客単価の大幅な下落要因となり、月次の売上が乱降下します。購入者は残高が減るまで追加入金しないので、一時的な販売増となるだけでメリットはありません。 筆者は過去、習慣的に安売り販売している施設に、それをやめるようアドバイスしたところ、恐れていた入場者の減少は起こらず客単価の上昇だけが残りました。おまけに売上が平準化して、入場者動向が見えるようになりました。 2万~3万円の超高額カードも同じです。2万円、3万円のカードがあるばかりに、20%や30%の高いプレミアを付与することになり、結果的に客単価を落とします。しかし、その対策は簡単です。2万円、3万円のカード販売を無くせばよいだけなのです。 支配人などに運営を任せているケースで気になるのが、サービス券の発行です。サービス券の発行には(1)イベントや賞品としての発行、(2)お詫びの印としての発行、(3)来場促進を図るための発行の3種類があります。 イベントやコンペ賞品としてたまに発行する分には特に問題ありません。待ちが多すぎて帰る客や停電などで帰る客にはお詫びの印として積極的に配るべきでしょう。これは「来なければよかった」と後悔している客の心理を逆転する効果があるため、日頃から用意し、いつでも使えるようにする必要があります。 一方の来場促進用は、発行枚数が増えることから客単価の下落につながる場合が多く、制限して使うようにします。来場促進用のカード発行を自由に出来るようにすると乱発が起こり、客単価が下落します。このため来場促進用のカード発行には「社長決裁」が必要など、発行に一定の制限を設けなければなりません。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら