練習場経営塾 第7回 接客力向上の実践的教育

練習場経営塾 第7回 接客力向上の実践的教育
「接客力」の中身は、店によって異なります。高級ブティックやホテルでの挨拶は「いらっしゃいませ」が多いでしょうが、私が指導する練習場では「いらっしゃいませ」はNGでした。 来場頻度の多い顧客に「いらっしゃいませ」では親近感がわかず、「おはようございます」なら「おはよう」と返せますが、「いらっしゃいませ」では返せないのも理由です。 「〇〇さん、おはようございます」が挨拶の基本ですが、若い方や常連ではない方の実名を呼ぶことは控えました。 このように挨拶ひとつにしても店の格、地域性、年令、来場頻度、取扱商品などによって異なるので、接客は難しい。その半面、独自色を打ち出すチャンスとも言えます。 そこで今回は、接客力を高める施策について述べていきます。 接客で一番大切なことは店の方針です。ホテル並みのてきぱきとした接客でお客様との距離感を保つ接客を志向するのか、フレンドリーな接客で一人一人のお客様をもてなすやり方かが問われます。大型店舗や都会の施設は前者が多く、地方の施設は後者が適していると思います。 二つ目に重要なのが人材です。接客は「施設の文化」ですから、継承する必要があります。早番/遅番があるため、長期間勤務するスタッフが最低2名は必要ですが、同時に週25時間以上勤務するスタッフの確保も大事です。教えても短期間で辞めていく学生バイトなどは論外です。 三つ目は「フロント」の仕事内容です。カード販売機や自動入金機でカードを販売し、打席指定をして送り出すだけなら軽作業ですし、電話・質問への対応をきちんとこなす手堅いタイプでOKです。 ところが「三位一体運営」(打席、スクール、ショップ)のフロント業務は総指揮官としての役割が求められます。 受付/精算にとどまらず、試打会の声掛けによる集客や打席清掃、イベントの企画・実行など各種業務が期待されます。前者は待ち(さばき)の接客であり、後者は攻め(売り込み)の接客です。良し悪しではなく、業務内容によって大きく異なってきます。 ここまでの大枠が決まってから、実務としての接客です。まずは攻めの接客を行うための新入社員教育を詳述しましょう。 最初に教えるのは会社としての取り組み姿勢です。 経営理念に始まり、お客様第一主義や三位一体運営など、考え方について学ばせます。次いで挨拶と発声です。お客様に体を向けて、目を見て、来場を感謝する気持ちを表すのが基本です。レジを打ちながら目も見ずに挨拶をするなどは論外です。 指導社員と一緒にフロントに立ってこうした挨拶ができるようになったらレジ操作の習得です。 まずは入場料、ボール料、打席指定の仕組みについて教えます。覚えたら挨拶は指導社員が行い、レジ操作に集中させ、レジに慣れてから挨拶を入れます。部分的に教えた方が習得が早いからです。 次の段階はお客様の「名前覚え」です。来場頻度の多いベスト100~200人のリストを渡し、3ヶ月程度で顔と名前が一致するように指導します。 名前を覚えて挨拶すると、お客様もスタッフの名前を覚えてくれ、仕事の楽しさが増えていきます。 以上と並行して行うのがワンモアリップサービスの習得です。最初の段階は時候の挨拶からです。暑いですねえ、寒いですねえなら誰にでも言えるので、声掛けの練習に適しています。 慣れてくるに従って「お久しぶりですねえ!どうされていたんですか?」とか「最近はコースに行かれているんですか」といった質問系の会話が増え始めます。 このやり取りを顧客データのメモ欄に記入、スタッフ間で共有できれば接客レベルはかなり向上していると思います。

懲戒免職の三原則

以上は基本的なコミュニケーションスキルです。攻めの接客を行うためには、「営業の声掛け」を行う実践訓練(ロールプレーイング)を繰り返し行う必要があります。 スタッフ役とお客様役とで二人一組となり、テーマに沿って台本を見ながらロールプレーイングを行います。私は「新規来場対応」「新規客が複数回来場された時の対応」「打席会員勧誘」「体験レッスンの声掛け」「体験レッスン2回予約」「休会届け提出時の対応」といった台本を用意しました。 台本を見ながら3~4回ロープレを行うと、台本なしで話せるようになります。話せると自信がつくので実践したくなります。やらせるのではなく、試してみたくなる雰囲気を作り、うまくいったら盛大にほめましょう。 ロープレを二人で行って、みんなで見る方式は無用なプレッシャーを与えるのでNGです。2~3組が同時に行い、指導者が巡回する方式が最適です。 体験レッスンなどは断られるケースが多いので、「体験渋り用」のロープレ原稿も用意します。そうしないと、声掛けにためらいが生じるからです。 次に、スタッフの「無駄話」についてです。フロントのスタッフ同士が会話をすることは当然ありますが、そのときは二人が横に並び、互いに壁を背にして前を向きながら話すよう指導します。お客様の動きに合わせた速やかな対応ができるからです。 無駄話は適切な仕事がないから生じるので、ノートパソコンを使って仕事ができる環境をフロントに作り、具体的な業務を委嘱します。無駄話を禁じるのではなく、客待ちの時間を有効利用する方策が大事なのです。 次は食事やゴルフに誘われた時の対応です。私の会社では入社時に、飲酒運転、お金に手をつけた時、不倫行為の3点は即時懲戒免職と伝え、年に一度はこの言葉を繰りした結果、20年間でそうした事例は皆無でした。 顧客に誘われると、最初は割り勘でも、次第に昼食やプレー代を出してもらうことになり、断れなくなるケースが増えます。これに備えて「会社の規定で同行は禁止されています。コンペがあった時に一緒に回らせて下さい」といった言い方をさせます。 行きたいけれど会社の規定があるので・・・・・、というニュアンスをにじませることがポイントです。 スタッフの装いやお化粧への配慮も大事です。同じ服でも他人と違う着こなしをするのがお洒落のポイントですが、制服は全員が同じ装いをしているから統一された美しさ(様式美)が強調されます。 ポロシャツの裾を出す/出さないもこの基準で考えることです。 私は「スポーツ産業で働いているのだから健康で爽やかに見える装いをしましょう」「お客様より控えめな装いをしましょう」と言い続けました。「結婚式に花嫁さんより目立つ装いで行かないでしょう!それと同じだよ」と。 耳につけるタイプのピアスはOKですが、イヤリングみたいにぶら下がるタイプはお客様の目線を散漫にするので禁止です。いずれも単純に禁止するのではなく、明確な理由を設けなければ若いスタッフには届かないようです。 接客のレベルは、その店の一番劣るスタッフによって判断されがちなので、根気よく底上げを図り続ける努力が大切です。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら