練習場経営塾 第9回 必勝、競合対策の戦略づくり

練習場経営塾 第9回 必勝、競合対策の戦略づくり
練習場経営者の皆さんは、近隣練習場の状況が気になるはず。そこで今回は、マーケティングの発想に基づいた競合対策を考えていきたいと思います。 突然ですが、あなたが誰かと戦うことになったら最初に何を考えますか? まず思い浮かべるのは相手がどんな技や武器を持っているのかでしょう。その上で、どうやったら勝てるかを考えますが、練習場のマーケティングも同じです。まずは自社や競合施設を取り巻く市場環境を調査。敵を知り、己を知れば百戦危うからず、です。 そのため本来は、練習場を取り巻く「外部要因」と自社の強みや弱みといった「内部要因」を精査しますが、紙面の都合上これらを割愛して、本稿では「一般市場調査」から説明します。 自社商圏内にどんな人が住んでいるのかを調べる方法が一般市場調査です。朝日新聞発刊の「民力」が優れた資料でしたが、2015年に廃刊となったため調査が大変になりました。 対象地域の人口、年齢別人口構成比、世帯当たり人口、年少/労働/老齢/従属人口指数、人口伸び率、新設住宅着工件数、昼夜間人口比、産業3部門別就業人口比、1人当たり民力水準、小売吸引力指数などが主な調査項目になります。 世帯当たり人口や老齢/従属人口指数が高ければ、可処分所得が少ないことを表し、産業3部門別就業人口比で第一次産業従事者が多ければ、ゴルファーが少ないことを表す。逆に第三次産業従事者が多ければ、ゴルファーが多いことを示しています。 年少人口比率や人口伸び率が高く、新設住宅着工件数が多ければ若くて伸びていく街となります。「小売吸引力指数」は、買い物で人が集まる街か、買い物に出かけていく街かを表します。 あまり耳慣れない言葉ですが、練習場の入場者に影響するのが「昼夜間人口比」です。これは昼と夜の人口を比較する指数で、東京の中心部は高くベッドタウンは低くなります。昼夜間人口比が高ければ「職住接近型」の都市となり、夕方の来場時間帯が早くなります。 逆に低い地域は、周辺都市への通勤者が多いので、来場し始める時間帯が19時以降となり、総入場者数が相対的に減ります。営業時間を繰り下げて対応しても、翌朝の出勤時間が早いため増え難いことに留意しましょう。 次に行うのが「将来人口調査」ですが、これは自社の商圏内のゴルフ人口がどのように変化するかを知ることが目的です。 「民力」は廃刊しましたが、(株)ゴルフ産業需要調査研究所では、指定した商圏の〇〇市〇〇町〇丁目といった詳細な区切りで将来人口のデータを廉価で販売中、お勧めです。ちなみに私は、車での移動時間が「20分以内」を練習場の商圏とみており、都心部なら2㎞程度、地方都市なら10㎞程度でしょう。

「007」の気持ちで臨む

以上の基礎データを把握したら、次は「競合調査」です。これは競合施設の価格、営業時間帯やハード面に変化がないかを知ること、さらにソフト面で優れている点の把握が目的です。 相手の良い点を自社で吸収すれば、競合先の良い点を消すことができます。競合調査でとかく目につくのがハード面ですが、これはコスト面等で導入が難しいため、比較的容易なソフト面に注目します。相手の粗捜しは無意味です。 別図を参考にしてください。調査はゴルフを熟知するスタッフと女性スタッフの2名体制が望ましいでしょう。駐車場の一番奥に車を停め、自社と比較しながら駐車している車を眺めると客層の違いが分かります。次にフロントへ行って料金と同時に接客や装いなどのソフト面をチェックします。 打席はフェアウェイに向かって左奥を選びます。この場所は来場者の背中側に回るので当方の動きが目立ちません。マットやボールなどを含めた打ちやすさ、打球の見やすさ、打席周辺の清潔感などをチェックし、必要があれば同伴スタッフの写真を撮る雰囲気を装って必要な写真を撮ります。 トイレは練習場の接客レベルが最も分かる場所でしょう。まずは臭い、便器の汚れ具合、洗面台の清潔感、清掃用具の収納状況をチェック。洗面台は「花無し」「造花あり」「生花あり」などに施設の姿勢が表れます。また、フロントで「妻を通わせたいのでスクールについて教えて下さい」と聞くと、スクールへの取り組み姿勢が分かります。 カウンター上にチラシが置いてあればスクールに注力している。棚から持ってくる施設はその逆です。掲示物は当該練習場の掲示物が多いか、用品、コース、飲料など施設外の掲示物が多いかでレベルが分かります。「施設情報」も、打席/スクール/ショップと区分して掲示してあれば、かなりの強敵だと思って間違いないでしょう。 以上の「競合施設調査表」に自社の分を記入したら、いよいよ分析のスタートです。前記の集めた情報量が多いほど混乱し、対策の糸口が見えなくなります。 これを解決するのがマトリックスによる分析で、まずは自社や競合施設の長所・短所をランダムに書き出し、自社の改善点を考えます。 「距離が短い」は改善できませんが、「接客が劣る」「マットが硬い」などは改善可能。相手が打席中心の営業ならば、当方はスクール中心で打開策が描ける。縦軸と横軸の二次元で、マトリックス表を作成しますが、縦・横の項目は施設の状況に応じて自由に変える。これをスクールやショップに置き換えて検討しても面白いでしょう。 大切なのは、当該商圏における自社のポジションを認識することです。御社が地域の一番店なら他社の強みをマネして消せば勝利できます。二番手以下の挑戦者ならニッチな部分で独自性を出していく。その際に「選択と集中」を徹底して、やること、やらないことを明確に絞ることが大事です。 前述したソフト面の改善で「笑顔の接客」「清潔感の向上」などが改善の第一歩になりがちですが、私の経験上、効果が出るまでに6か月はかかります。そこまで粘り強くできるのか? 日々変わる商圏状況を睨みながら、冷静に取捨選択することが必要です。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら