練習場の「インショップ」と言っても様々です。ティーやグローブなど消耗品だけを並べるところ、クラブやボール、ゴルフウエアまで本格的に販売する大型のインショップもあり、中古クラブに注力する店舗も珍しくありません。
そこで今回の経営塾は、打席・スクール・ショップの3部門が連携した「三位一体運営」による、通常の専門店に対抗できる練習場インショップの構築がテーマです。インショップは売れないよとか、在庫ばかり増えて儲けは少ないから割に合わない、といった声をよく聞きます。
しかし、本当にそうでしょうか?
筆者が経営指導する練習場インショップは年商2000万円、粗利25%を継続的に確保しています。粗利額は500万円、これによりフロントの正社員2名相当の人件費を賄ってきた実績があります。
秘訣はコスト削減と、「適正価格」で販売するシステムの構築。さらに販売の主要顧客であるスクール生を増やしていくこと。本号から2回にわたり、練習場インショップのマーケティング手法について述べていこうと思います。
最初に検討すべきことは、「商品力」と「販売力」のいずれかの販売方式を選択することです。むろん両方あればいいのですが、話を明確にするために二者択一で考えてみましょう。
商品力による販売の最たるものは「売れ筋商品」の販売であり、これには取扱いメーカーの数と在庫量が必要です。集客力、資金力、さらに返品可能な仕組みも必要となるため、大型量販店などに限られた販売方式となります。
一方の販売力を重視する方式は、レッスンプロを中心にスタッフが商品知識を持ち、顧客のゴルフスタイルに合った商品を販売するもの。
メーカー数を増やさず、少ない在庫で営業できるため、不良在庫の発生も抑えられます。筆者はこの方式こそが練習場インショップの目指すスタイルと考えます。
次に取扱い商品と販売規模についてです。
取扱い商品を大別すると別掲1のようになります。
練習場インショップの多くが最寄り品(ついで買い商品)の販売にとどまり、買い回り品(目的買い商品)まで扱う店は少数です。さらにファッション系商品となると大都市近郊のインショップにほぼ限られます。
この「商品別特性」によるショップ形態を表したのが別掲2です。ついでに買う最寄り品だけの販売では、販売数量を伸ばすことが難しい。クラブを中心とした買い回り商品の売上が増えるとショップ売上も急速に伸びます。
クラブ関係が売上の7割
収益向上策は別掲3に示した販売促進、値引き抑制(適正価格での販売)、コスト削減の3項目です。
年商2000万円の店舗ではクラブ販売が50%前後、グリップ交換を含めた工房の売上が20%前後と、クラブ関係で全体の約70%を占めるため、収益向上策もクラブ関連の項目が多くなります。
クラブ販売主体の練習場インショップ、量販店、ゴルフ専門店をチャネル別に特徴づけたのが別掲4です。
練習場は来場客数が圧倒的に多いものの、購入目的の来店客が少ないのが弱点。特に「値引額」の面で量販店やネットショップに負けますが、そもそも練習場インショップは仕入れ価格が高いため、値引対抗するのは無理。
適正利潤を確保するには、値引率を20%程度に抑えることが必要です。これで果たして勝負になるのか? もちろん勝機は十分にあります。
まず、スクール生中心のクラブ販売です。我々の店ではクラブ売上の80%をスクール生が占めています。過去の実績では生徒1名の年間クラブ購入額が1万9000円なので、300名で570万円、500名で950万円のクラブ販売が見込めます。
そのための具体的な手順を列記しましょう。
レッスン時に生徒の「クラブチェック」を行って、スペックの合わないクラブや飛距離などで歯抜けとなる番手を見つけます。見つけたらレッスン時に「試打クラブ」の使用を勧めます。
その試打の感触を見て、購入見込み客をA・B・Cの3段階に分け、A・Bランクを試打会に誘います。あまりガツガツせず、今月はドライバー、来月はアイアンなど、月ごとのテーマで徐々に誘導する方法もあります。
複数のレッスンプロがいる場合は、カルテや連絡ノートにクラブチェックの結果・試打クラブの推奨状況を記して共有しましょう。
2番目の対策は試打クラブの有効活用です。推奨の試打クラブを随時レッスンに持って行き、新商品の発売時期には試打クラブをスクールの打席に並べて、生徒の興味喚起に務めます。試打クラブの運用にはフロントスタッフの役割が欠かせません。
手ぶらの来場者には試打用ではなく「貸しクラブ」を提供。試打クラブの破損・盗難防止が目的です。破損防止にはヘッドスピードに見合うスペックの提供が不可欠なのでネックにカラーテープを巻くと女性用、R、S、X、レフティー用が一目瞭然です。
また盗難防止策として、保管中は女性の小型髪留めにリングを通し、商品名を書いた札等でクラブのネック部分を挟んで留めておけばOK。
クラブを貸出す際は髪留めを外し、フロント内の所定の場所に置いて、どのクラブを貸し出しているかがひと目で分かるようにしておきます。まだまだありますが、続きは次号で。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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