神奈川県伊勢原市にある伊勢原ゴルフセンターは、大規模な改修をして2022年4月1日、リニューアルオープンした。78打席、250ヤードの施設である。
この練習場はかつて、中村寅吉プロが練習拠点としていた。中村プロは1957年、霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)で開催された国別対抗戦・カナダカップ(現ワールドカップ)で小野光一プロと組み優勝。個人としても優勝したことがきっかけで、日本にゴルフブームが起こっている。この伊勢原ゴルフセンターについて、取締役支配人の濱田翔太氏に話を伺った。
同センターの親会社は濱田精麦株式会社で、濱田支配人も親会社の営業部長を兼務している。なぜ精麦会社がゴルフ練習場を経営するようになったのか。濱田精麦は1913年に静岡県田方郡戸田村井田( 現在の沼津市)で、濱田氏の曽祖父が創業した。精麦は米の精米と同じように、大麦を精麦する事業で、あまり聞きなれない業種だが、当時は家畜用の飼料を生産していた。
1923年の関東大震災時に沼津工場が倒壊し、神奈川県足柄上郡吉田島村(現在の松田町)に転居。さらに1936年に神奈川県中郡伊勢原町(現在の伊勢原市)へ移転した。戦後の食糧難時代に家畜用の飼料から、麦ごはんの精麦業にも力を入れ会社が成長した。

「スポーツに理解があり野球が好きな経営陣で、1960年に都市対抗野球大会を目指す社会人野球チームを結成しました。野球チームをつくることで全国から人材を集めることも出来ましたが、1961年に本社工場が火災で全焼、会社を復興するために野球チームは休部となったのです」(濱田支配人)
その専用グラウンドが、現在の伊勢原ゴルフセンターの場所である。2代目社長、その弟で濱田氏の祖父に当たる3代目社長が、ともにゴルフが好きで鷹の台CC他のメンバーであった。2代目社長が中村プロと縁があり、当時砧に居を構えていた中村プロに練習場のプロデュースを依頼、1969年に練習場が開業した。そんな経緯で中村プロも伊勢原に引っ越し、ここを拠点として樋口久子、岡田美智子、丸山智弘らプロを育てた。中村プロは2008年に他界したが、晩年まで伊勢原ゴルフセンターでプロ・アマを問わず交流を深めていた。

1969年の開場当時の写真では、中村プロのショットを大勢の来場者が見つめている。当時は平屋で土の25打席だったが、30年前にクラブハウスのある2階建ての練習場に改装した。
地域住民に喜びを
濱田支配人が練習場にかかわったのは今から10年前。子供の頃にこの練習場に父親と遊びに来ており、高校時代はここでアルバイトをしていたことで、伊勢原ゴルフセンターへの愛着は強い。練習場にかかわった当時は、練習場は別会社の組織で、本社・濱田精麦の一部門という位置づけのため、現場と本社の連携が取れず来客数が徐々に減少していた。施設も老朽化し、ティーアップ機も5機種が混在していた。
「そのような状況で、私は練習場をグループの中でも輝く存在にしたかったのです。そこでまず、外部に委託していたスクールを直営化。スクールと打席は連携しないと上手く機能しないと考え、フロント、フィールド、スクールと、個別にチームリーダーをたて、スピーディーな組織を目指しました」
同時にプリペイドカードのIC化やボール回収の改善を進め、ショップは2016年からゴルフパートナーを入れた。年間来場者は現在13万人だが、濱田氏が事業に参加した10年前は8万人であった。
さらに今回、リニューアルを手掛けている。その意図は、
「“ゴルフのボールパーク”をつくりたいとの思いがゴルフ練習場にかかわった当時からありました。メジャーリーグのボールパークのイメージで、飲食を含め様々なゴルフの楽しみを提供したいと思っています」
もともとボールの飛び出しの問題もあり、今回のリニューアルでネット用鉄柱も新しく14本立てた。また従来ショートコースであったエリアを、ティーを使用できる青空ガーデンを5打席、アプローチ練習場も距離表示がわかる白線が引かれているエリア、フェアウェイ、ラフから練習できるエリア、バンカーエリアなど、様々な状況から練習ができる施設に整備した。
シュミュレーションゴルフの屋内施設も設置し、デジタルへのニーズにも対応。スクール用の部屋にもシミュレーション設備を入れ、打席後方のカフェ設置で“ゴルフのボールパーク”が一歩実現した形である。総工費は2億円以上、次の50年を視野に入れる。
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青空ガーデン[/caption]
「ゴルフが好きだった父、祖父の思いを残したい。地域貢献としても、この伊勢原の地にゴルフ練習場があることで、この地域に住んでもらってよかったと思えるような施設にしていきたい」(濱田支配人)
伊勢原ゴルフセンターの来場者の年齢構成は、ICカードの所有は40代が一番多いものの、実際の来場者は50代以上が半数以上を占め、また女性は10数%である。コロナ禍で若い世代の来場者も増えているとのこと。練習場単体の売上は3億円に迫り、以前に比べて倍増している。今後については、
「人材の育成も重要な課題だと考えています。ただのフロントやただの打席係だけでなく、例えばIC会員を増やす活動でお客様に積極的に声がけをするなど、従業員の育成・活性化に取り組んでいます。次の目標は、ゴルフの楽しさを提供する“練習場を究める”ことで、ゴルフ練習場として成長し、発展できる事業であることを示していきたい。練習場を拠点として、スクールを含めて来場者を増やしていきたいですね」
と、練習場ビジネスを広げる積極的な意思を示している。
「お客様の為にではなく、お客様の立場に立って物事を考えたい」
と話す濱田支配人は現在35歳。これからのゴルフ界を担う存在となることを期待したい。
企業が運営するゴルフ練習場も、経営者のゴルフへの思いがあるからこそ継続できる。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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