製造業の標語でよく使われる5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)に「スマイル」を足して、6Sと称して設備の美化に努めます。「6S屋っていますか?」と尋ねると、多くの施設から「やっています!」という声が返ってきますが、そのレベルには大きな差があります。「これくらいでよし」という基準を作るのは、その施設の経営者やスタッフなので、基準によって清潔度は上下します。
私は営業時間中の清掃では徹底できないと考え、清掃員による営業時間外の清掃を行って年間約200万円を支出してきました。この額を必要経費と考えるかどうかは経営者の判断によります。
現場での「6S状況」をチェックするのが6Sパトロールです。フロントとインストラクターを組み合わせて2名1組となり、場内を巡回します。異なる目線の者が毎月交代で巡回するので、新たな気づきや指摘ができ、業務として行うので後輩も遠慮なく先輩に指摘できることなどが利点です。
月初のパトロールで指摘し、それを月末までに改善するというのが基本パターンです。指摘のポイントは①(お客様の目線で)清潔感を感じられるか?②(スタッフの目線で)使い勝手が良いか?③(経営者の目線で)無駄がないか?④(危険防止の観点で)危ない場所や危ない置き方がないか?の4点が挙げられます。「6S担当者」の仕事は、定期的な実施のサポートと指摘事項の改善促進です。
次にトラブル対応です。日々発生するトラブルに臨機応変かつ誠実に対応しなければならず、スタッフによって対応に差があってはいけません。そのため各種トラブルの「対応マニュアル」をA4サイズにまとめ、ハードカバーのケースに入れて個々に保存。トラブル発生時には関係するマニュアルを抜き取り、現場に持参して対応する方式が最も確実です。
最初は「停電時」の対応です。事前訓練としてブレーカーの位置と通電のための復帰手順を確認しておきます。ブレーカーが分散している場合は、どのブレーカーがどの系統なのかを配電盤の内側に図示しておきます。実際に停電したら外に出て、施設周辺をチェックすることが初期動作。自社だけなのか、周辺一帯の停電なのかを知るためで、復旧作業を行いつつ来場者に情報を伝えます。
多くの施設には無停電電源装置が組み込まれていますが、来場者には早めにカードを抜き取って頂きます。LEDライトはすぐに再点灯しますが、HID系ライトは再点灯に10分以上かかります。帰宅者には料金を払い戻すなど、お客様が損をしない措置も大切です。不測の事態に備えてサービス券の常備が必要ですが、無い場合は日付と金額を書いた手書きのカードでもOK。手早く渡します。
「駐車場での事故」は保険の対象外なので言動には注意が必要です。事故が起きたら所轄警察の交通課に連絡して出動を依頼し、保険適用に必要な事故の「受理番号」を取得します。受理番号の受け取りには当事者双方の立ち合いが求められるので、両者を警察到着まで引き留めます。迅速に対応するためにも交通課の電話番号はあらかじめ調べておきましょう。
警察の到着までは当事者に付き添うか、喫茶などで待機してもらいますが、事故に関するコメントはしないように注意します。
「急病人の発生」では、起き上がろうとするお客様が多いので、動かずその場にいてもらいます。床に寝た状態の場合はバスタオルなどをかぶせて体が冷えないようにし、周囲の視線を遮る工夫も必要。救急車の出動を要請したら、スタッフが練習場の入口に立って誘導、警報音を早めに止めてもらいます。救急車の出動要請と同時にご家族など関係者への連絡も必要です。周囲に知人がいない場合はスタッフが救急車に同乗します。同乗の際には携帯電話と治療費や帰りの交通費など現金が必要です。
心臓疾患などで救急車が来るまで待てない場合は、AEDを使用します。定期的な使用・作動訓練と電池の交換も念入りに。自販機メーカーがAED設置を支援してくれる場合もあるので、未整備の施設は相談してみましょう。
大切な「動産保険」
打席での「盗難や車上荒らし」は保険の対象外なので、言動には注意が必要です。駐車場への監視カメラの設置や車内に物を置かないなどの注意喚起も必須。クラブが当たったり打ったボールが跳ね返って人に当たる練習中の「打球事故」は、施設賠償保険もしくは第三者賠償保険などが適用されると思われがちですが、意外に保険対象外のケースがあります。事故が起きてからでは遅いので、早めに保険対象と「対象外」のケースを文書で保険代理店からもらっておくことをお勧めします。
担保されていない部分は新たに契約を結ぶなどで更新しましょう。レッスン中の生徒の打球事故は保険対象外のケースもあるので、契約内容を事前に必ず確認します。スクールの「運営主体」が練習場ではなく、レッスンプロ個人の場合でも、練習場の契約がそのまま適用されるかどうかなど、細部にわたる確認を強くお勧めします。
なお、インストラクターやフロントスタッフの事故を担保する労働保険は「高額」なため、未契約の施設が多いと思います。よってクラブで叩かれるなどの事故には細心の注意が必要です。
ボールの「飛び出し事故」は一般的に保険の対象となりますが、被害者が興奮している場合も多いので、冷静になって被害者の話を聞くことが大切です。相手の言い分をよく聞き、持ち帰って保険会社と相談して、できるだけ早く回答します。同時に、飛び出した原因を調査して再発防止に努めます。私はクレームのついた翌早朝にネット点検を行うことと、クレームのついたお宅へのお中元とお歳暮を欠かしませんでした。これらによって感情的なもつれが少しは収まっていたかもしれません。
「動産保険」に入っていれば、レジスター内や金庫の現金はすべて保険がおりるので盗られても大丈夫です。ただ、動産保険での保険請求には、金庫内などにいくらの現金があったのかを示す証拠資料が必要なので、現金明細表や現金出納帳などを金庫の中に入れて一緒に保管してはいけません。
レジスターが閉めてあると中に現金があるのではと思ってレジを壊そうとするので、レジスターは開けておきます。こうした動産保険は社内だけでなく、銀行への入金途上に襲われた際も担保される場合が多いので、襲われたら抵抗しないでお金を渡すように徹底指導しておくことが望まれます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら