横須賀市にある「横須賀グリーンゴルフ」はネットまで230ヤードの距離があり、緑の山に向かって打てる、自然あふれる練習場だ。今回は同施設を経営する株式会社グリーンスポーツの代表取締役・古敷谷(こしきや)敬二氏に取材した。身長が180cm以上、学生時代はサッカーをやっていたスポーツマン。最初の質問は「古敷谷」という珍しい苗字の由来である。
「横須賀には親戚が4~5軒あるんですが、もともとは現在の千葉県市原市(下総)に『古敷谷』という地名があって、そこの出身ではないかと思います」
千葉の古敷谷にはゴルフ場が3つある。巡り巡って横須賀の地にゴルフ練習場を構えるところに、筆者は何かの縁を感じる。
「横須賀グリーンゴルフ」のオープンは1990年11月で、90年代にゴルフ練習場の建設がブームとなった頃。他の練習場に比べて開場は少し遅い。現在の場所は以前、牧場で、そこを練習場に変えたのである。
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横須賀グリーンゴルフ全景[/caption]
「私の父は、この地で畜産業をしていました。戦後、父親が祖母と一緒に肉屋を始め、最初は群馬や埼玉などで牛・豚を仕入れて肉を販売していたのですが、その後、この地で牛や豚を育て、販売までする畜産精肉事業を『古敷谷畜産』という名称で行っていました。今は横須賀市内でおじが精肉業を続けていて、いとこの代になっています。都市化も進み畜産業の餌やし尿処理等の問題があり、牧場の継続が厳しくなった。また、この地域には採石場があり、三菱鉱業セメントが建築資材をつくるプラントもありましたが、80年代後半に閉鎖して、テニスコートの事業を始めたのです」
それも一つのきっかけとなり、父親がゴルフ好きだったこともあり、ゴルフ練習場への事業転換を決意したという。
開業時は、現状とほぼ同じ建屋・スペースで、2階各100打席の練習場としてスタートした。1年後に3階打席を増築し、全部で150打席230ヤードの練習場となった。
「当時父親は55歳で、銀行からの融資を含めて十数億円の投資を決意したのです。私は現在58歳で、当時の父親とほぼ同年。だけど、父親がした決断は自分ではできません。凄いなぁと思いますね」
と笑顔で振り返る。

古敷谷氏は大学卒業後、衣料系のジーンズ会社(リーバイス)に入り営業職を務めていたが、家業として練習場を開業するにあたり、開業の半年前に練習場の責任者として戻ってきた。開業から30年以上、責任者として同施設を育ててきた。
「最初は右も左も分からず大変だったですね」
前職でデパートなどの販売も経験していたので、接客しながら顧客ニーズを探ることに役立った。開業してしばらくは、認知が広まらなかったが、バブルの余波もあり、平日もほぼ満員の来場者でにぎわった幸運もある。特に休日は順番待ちの来場者がフロントにあふれる活況で、年間20万人以上来場した。
横須賀地区を盛り上げる
様子が大きく変わったのは2011年、東日本大震災の影響で来場者が大きく落ち込んだ。ゴルフなんかしてる場合じゃない、という暗雲が全国を覆っていた。そこで、
「当時はいろんなセミナーに参加したり、船井総研のコンサルティングを受けて練習場経営を見つめ直したのです。それで現在の『地域に愛される練習場』という経営理念を作り上げました」
また、顧客に対しては「スポーツを通じて心と体の健康を育むコミュニティを創造する」。地域に向けては「地元に根ざす企業として地域社会との繋がりを創造・貢献する」、従業員に対しては「スポーツ・地域との繋がりを通じて、従業員の成長と生きがいの場を提供する」などの方針を確立している。
地域への貢献は、横須賀地区は三浦半島の比較的限られたエリアを商圏としているが、横須賀の4ゴルフ練習場がタッグを組んで「すかゴル推進委員会」を立ち上げ、横須賀のゴルフを盛り上げている。
現在はコロナ禍で活動をセーブしているが、コロナ前は「冬休み!小学生ゴルフ無料券プレゼント!」として横須賀市内の小学生を対象に2万部を配布。各練習場1回ずつ、最大4回分練習ができる無料券を配布した。近隣の湘南学院高等学校のゴルフ部には、土日を含めて格安で練習場を開放しており、高校生が放課後練習に来ている。同校出身のプロには原英莉花、鶴岡果恋がおり、原は今も時々来場するとか。

顧客は地元企業のOB(日産、東芝、自衛隊など)が多く、コンペ等の活動を中心に「横須賀グリーンゴルフ」のオフィシャル倶楽部として公認サークルも多い。連絡用の専用BOXを練習場内に設置してコミュニケーションを深め、HPにもコンペの結果などを載せている。YGG(横須賀グリーンゴルフ)地縁店として、横須賀を中心に地域店舗の情報をHPやパンフレットを作って積極的にPR。この活動もスタッフが積極的に広げている。
もう一つの特色は24時間営業だ。
「24時間営業は2001年7月から始めました。山に向かって打つロケーションで、音や照明の問題もない。夜の9時からフリー打席で、お客様が直接打席に行き、ICカードを使い練習してもらうシステムです。練習場に来ることが日課になっているお客様も多く、日常の健康に役立っていることは間違いないでしょうね。現在、10万人以上が来場されています」
古敷谷氏の父親は現在88歳で健在とのこと。ゴルフ練習場の継承について、「横須賀グリーンゴルフ」は会社組織であり、父親も個人財産は持たず、練習場の継続は問題ない。今後について古敷谷氏は、
「継続することが大事だと思っています。練習場は地域の方にとって必要な存在であり、休場すると『居場所がない』という常連さんからの声もありますが、若い方にゴルフの良さを知ってもらう練習場になりたいですね。ゴルフ練習場はまだまだ閉鎖的で、他の業種との交流も少ないように思います。地域との交流をもっと進めなければ」
と語気を強める。古敷谷氏の子息も入社して、三代目への承継も視野に入れる。地域に愛される練習場として、末永く地元に根差してもらいたいと願う。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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