練習場経営塾 第15回最終章「労務・人事管理」(2)

練習場経営塾 第15回最終章「労務・人事管理」(2)
前号ではスタッフの採用、教育、退職、勤怠管理について書きました。今回はスタッフの「評価」「育成」がテーマになります。 その際、重要なのはスタッフとのコミュニケーションです。私はこれまで、育成を目的とした業績考課のための個人面談を3~6ヶ月に1回のペースで行ってきました。同時にスタッフの悩みも聞くのですが、本音を引き出すことは難しい。働き方や労働に対する価値観が大きく変わり、世代間のギャップも痛感します。 このような問題を解決するために有効だと思えるのが「1on1ミーティング」で、職場の先輩や上司と1週間に1回程度、悩みを聞き出しアドバイスを行う方式です。お互いの距離感が近いため率直に話し合える。頻度も多いことから、最初はぎこちなくても徐々にフランクに話せます。 このミーティングを行う目的は「離職防止」「成長促進」「成果の達成支援」の3点であり、「1 On 1」はコミュニケーション形成に優れるため導入を推奨します。ただ、大事なことは、スタッフが本音を語り始めるまでは辛抱強く待ってあげることです。本音を語り始め、社内の意思疎通が図れるようになってくると、「スタッフの評価」が次のテーマになってきます。 評価には、当期の業績を評価する「業績考課制度」とスタッフの成長を促すための「職務能力考課制度」があります。 まず、前者の評価基準は「6ヶ月計画」などの計画値です。これをどんな方法で達成したかが評価基準になるので、計画値の「妥当性」が重要となります。計画数値の作成は、担当部門から出された数値を全体方針や社会情勢を勘案しながら調整・作成します。こうした一連の流れを通して、納得した計画値にすることが大切です。 計画値が決まったら、次に行うのが6ヶ月間の業務目標の設定です。「業績考課シート」に目標とする3項目を記入して、上司との個人面談を行い、項目の是非や実施方法、難易度について話し合う。最終的にはトップまで上申して目標が設定されます。 このような擦り合わせを行ってから新年度を迎えますが、重要なのは「3ヶ月経過」の後に行う中間面談です。目標に対する進行状況などを話し合い、目標達成が難しそうなら、対策を一緒に考えてアドバイスする。さらに6ヶ月経過した時点で、業績考課シートに実施状況と自身の評価を記して提出、上司との個人面談を行います。 ここでは6ヶ月を振り返って総括するわけですが、中間面談の時点で目標達成/未達の原因や対策を共有しているので、この時点で意見や評価が食い違うことはまずありません。面談終了後、支配人経由で経営者に業績考課表がまわされて、最終判断がなされます。 重要なのは、最終評価の結果を支配人も上司も共有し、状況によってはその評価を本人に伝える必要があることです。そのためには合理的な評価が不可欠であり、評価の精度も格段に向上します。

大事なのは客単価

次は「職務能力考課制度」についてです。この制度は、優れたスタッフを基準(参考)にして仕事の進め方を指導する、スタッフ全員の能力アップが目的です。業績考課制度が当期の収益を見据えているのに対して、職務能力考課制度は社員の能力向上による中長期での業績向上を目指しています。 評価シートは「管理職」「インストラクター」「フロント」の3種類で、「コミュニケーション能力」や「オペレーション能力」は3つの職種に共通の項目ですが、それ以外は職種によって異なります。管理職には「労務管理能力」や「総合力」の項目があり、インストラクターは「スクール運営能力」「ティーチング能力」「商品販売能力」など。フロントは「接客能力」「生活態度・知識」などの項目があります。 職務能力基準書では、優れたスタッフの行動を分析。その行動や考え方を評価基準として、職務能力考課の項目に取り入れます。それにより「基準書」の評価が高まれば個人のスキルが向上し、その結果、練習場の活性化や業績の向上につながります。 重要なのは「評価項目」であり、各項目の評価が上がれば成果が上がる仕組み作りが大切です。例えばコミュニケーション能力の項目では①職場の仲間と基本的な挨拶や言葉使いが出来ている。②お客様との挨拶や言葉使いがしっかり出来ている。③お客様や職場の仲間とのコミュニケーション形成が出来ている。④スタッフとの信頼関係を築き、相談相手になっている。⑤至らない点を指摘し、愛情を持った指導が出来ている。以上の5段階評価になっています。 職場の挨拶→顧客との挨拶→相談相手→愛情を持った指導といった形で、レベルの違いを具体的に表現しますが、この表の内容も徐々に改定を繰り返して最適なものにすることが大事です。 この職務能力基準書は、スキルはあるが、管理能力の乏しいスタッフの育成に効果的です。生徒から人気があり、受講者は多いけど後輩の指導ができない者。ショップでの販売能力は高いのに、売上管理ができない者など、一芸に秀でているが管理職として不適格な人材を、ゆっくり育てるには適していると感じます。 スタッフの育成で大事なのは、適性に沿った育て方です。インストラクターの場合であれば①将来の管理職候補、②レッスン技術を指導するマスターインストラクター候補、③ショップ運営責任者候補、④クラブ工房を主宰するクラフトマンの4タイプに分けて育成を考えます。フロントの場合は①チームリーダータイプ、②接客が得意なタイプ、③データの収集分析が得意なタイプ、④SNSが得意なタイプなどに大別できます。 約1年にわたりお付き合い頂いた「経営塾」も、本号をもちまして終了となります。そこで最後にお伝えしたいのは『顧客満足、従業員満足、経営満足という三つの満足の鼎立』です。私は、三つの満足の中で「従業員満足」を最重要視しています。顧客満足を高めればロイヤルカスタマーが増えて客単価も上がるので、経営満足も向上する。しかし、大元の顧客満足を向上させる施策として、値引きや設備投資に注力すれば収益は伸びません。そうした値引きや投資ではなく、従業員の接客力を向上させ、気付きの感度を上げて顧客満足度を高めれば、健全経営が可能になり、他施設が真似できない永続的な差質化が可能となります。 「従業員満足」の向上には、労働環境の向上が欠かせません。急がば回れではありませんが、収益向上に一番遠いと思われる従業員満足から手掛けることで「正のスパイラル」を回せるのです。その意味を込めて、練習場経営の60%は労務管理だと、筆者は言い続けているのです。コロナ禍により一時的に来場者は増えましたが、2030年以降はさらに厳しい状況となります。経営の発想を「入場者増」から「客単価向上」対策に切り替えて、経営改善を図られることをお勧めして、筆を置かせて頂きます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら