地域の社会課題を解決する ワンストップ機能を目指したい、湘南衣笠ゴルフ~シリーズゴルフ練習場ビジネス~

地域の社会課題を解決する ワンストップ機能を目指したい、湘南衣笠ゴルフ~シリーズゴルフ練習場ビジネス~
「湘南衣笠ゴルフ」は神奈川県横須賀市にある。横浜横須賀道路の衣笠インターから2分とアクセスが良く、少し高台にある。練習場は1969年創業、昨年53年を迎えた横須賀地区で一番古い練習場だ。 取材で訪れたのは昨年12月であったが、翌週に開業53年のコンペを開催するということで入り口に賞品が展示してあった。この練習場の成り立ちやコンセプトについて株式会社湘南衣笠ゴルフ・代表取締役社長の 岩﨑聖秀氏に話を伺った。 岩﨑社長は現在46歳、社長になって12年経つ。以前は飲食業に勤めていたが、24歳で家族から頼まれ練習場に入った。訪れた際、岩﨑社長が来場客と楽し気に会話をしていて、アットホームな雰囲気であった。 「湘南衣笠ゴルフ」の創業者は岩﨑社長の父・聖金氏である。 「現在の練習場は東京湾の埋め立て用の砕石場跡で、砕石の役割が終わり約1万坪の敷地が売りに出たのです。何かの開発がらみで使えるのではないかということで、父親を含め3名共同で取得しました。当初は住宅等にすることを考えたそうですが、開発許可の関係で難しく、しばらく寝かせなければならず、遊休地の活用としてゴルフ練習場を始めたのです。父親は当時ゴルフをしておらず、ゴルフ好きだからという理由ではありませんでした」 当初は、現在の練習場がある山の下に受付があり、バッグを担いで上まで登ってもらったそう。創業当時は土の打席で、来場客自身がローラーをかけて平らにしていた。そこにゴルフブームが到来し、 「本格的に再投資して練習場をやっていこうと父親が決意。他の2名から土地の権利を買い取ったのです。父は昭和11年生まれで、18歳でガソリンスタンドを創業、マイカーブームが訪れて軌道に乗った」 というから、機を見るに敏なビジネスマンだったのだろう。その後、同地区を大手ゼネコンが開発するとのことで、ガソリンスタンドを売却して30歳で水道工事事業を始めた。最初に砕石場跡地を3名で買い取る時は自己資金だったが、 「他の2名から買い取る時は借り入れをして、77歳の母によれば『大きな借り入れをするのが怖かった』そうです」 父親は次々と事業を始め、育った事業を社員や後輩等に会社譲渡する志向の事業家で、今でも資本関係のある会社とはグループとして交流を深めている。

年中無休の「居場所」

岩﨑社長は3男だが、長男は早世し、父親も岩﨑社長が高校生の時に他界したため、現在は家族で父親が残した事業を継承発展させている。兄弟仲は良いそうで、月に1回役員会として、母親と兄弟で昼食を共にするファミリー企業である。 ゴルフ練習場では岩﨑社長の姉も働いている。大神グループとして建設事業、不動産事業、飲食事業等を展開し、ゴルフ練習場もグループ法人の1つという位置づけだ。 「このような事業体制なので、ゴルフ練習場の継承についてもスムーズにできると考えています」 近年、ゴルフ練習場は単に球を打つだけの場所ではなく、様々な事業方針を掲げる施設が目立つ。同社の場合、どのような事業ポリシーを描いているのだろうか? 「当社は、地域に開かれた情報発信の場と考えています。サービス業として『楽しい』をフックに、地域が抱えている高齢化、空き家、子供の教育といった社会課題を、自分の事業を通じて少しでも解決できればと思っています」 と、明快に答える。ゴルフが貢献できることについては、 「東日本大震災の後、長期休業後に開業したとき、お客様の何気ない一言『いい気晴らしになったよ』が忘れられないんです。テーマパークのように夢を与えることはできないかもしれませんが、⽇常のちょっとした幸せを、自分たちの力でお客様や地域に提供したい」―。 「湘南衣笠ゴルフ」は地域密着であるが、商圏は意外と広く、三浦半島全域だとか。1973年に建て替えて、現在の設備になっているが、設備投資を抑えるため、以前導入したティーアップ機もメンテナンス費用の削減で全て撤去。ボールは籠売りに変更している。 毎日気楽に来場できるよう、安い時間帯は1球5・5円、計1000円ちょっとで楽しめる。打席は2階110打席の230ヤード。営業時間は朝5時~夜10時。年間来場者は15万人を数える。 「高齢者に一日でも長くゴルフを楽しんでもらいたいのです。ここに来れば誰かと会話ができ、毎日ルーティンのように来場してくれるお客様もいらっしゃる。『居場所』として365日開場しています」 特筆すべきは「プロジェクト90」だ。90歳になってもゴルフを楽しもう、を掲げており、地域の看護士の団体が月一度、血圧測定、健康相談等を行う「町の保健室」を実施中。またヨガ教室や、自動車学校の先生に来てもらい交通安全教室にも取り組んでいる。月例コンペには4つの同好会があり、岩﨑社長も4か月に一度、各コンペに参加してコミュニケーションを深めている。 ジュニアの取り組みは、横須賀地区の4つの練習場が共同で小学生にゴルフ体験を促す「すかゴル」に参加。また、所属の岩室智章プロがジュニアスクールを続けている。同プロはここを拠点に、ゴルフを通じて子供の健全な教育を図るだけではなく、逆に子供を通して大人にもゴルフの楽しさを伝え、ゴルフを家族や地域のコミュニケーションツールとして機能させるべく「横須賀ジュニアゴルフ推進協会」を立ち上げた。18歳未満の子供は年間3万円で打ち放題だ。 コロナ禍で増えた若い世代にゴルフを継続してもらうためにも、岩﨑社長は月に一度ゴルフ練習会をして交流を深めている。気楽にゴルフを楽しんでもらえるイベントとして評判は上々……。 「ゴルフの魅力は世代間の交流です。それができる場となっていくことが大事だと思っています」 最後に将来ビジョンを聞いた。 「土地が広いので、複合化を目指したいんですよ。例えばメディカルやジムなどの施設も揃え、ここに来ればゴルフを中心に健康を維持できるワンストップ機能をつくりたい。それが今後のビジョンです」 練習場が持つ、地域コミュニティとしての役割を実践する。このコンセプトの広がりを期待したい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら