みかん、ブルーベリー狩りも楽しめる 家族が集う「ガーデン」を目指して、千代ゴルフガーデン ~シリーズゴルフ練習場ビジネス~

みかん、ブルーベリー狩りも楽しめる 家族が集う「ガーデン」を目指して、千代ゴルフガーデン ~シリーズゴルフ練習場ビジネス~
静岡駅から、車で12分の静岡市葵区千代に千代(せんだい)ゴルフガーデンがある。県道から折れて坂道を上がり、静岡市を一望できる小高い丘の上に位置していた。これまでの成り立ちやポリシーについて、株式会社千代ゴルフガーデンの代表取締役、千代和年氏に取材した。 同施設は、駐車場を含めて1万5000坪の敷地に、山に向かって250ヤードネットなしの開放感あふれる練習場。昭和50年10月10日の開場で、今年48年を迎える。 千代家は、和年社長の父・紀(おさむ)氏で19代目の家柄という。ルーツは山梨県。祖先は甲斐の武士で「秋山」という苗字であった。 今でも城跡が山梨に残る。戦国時代、戦いに敗れた秋山一族の残党が静岡に逃れ、この地に根付いた。その後同地で農業を営んでいたが、武士の家柄で地域のとりまとめ役となり、200年以上前に駿府城主から「千代」を名乗るように言われたとか。地域には千近くの田があり、「代」は田を表す。それが由来で年貢の取りまとめをする代官の役割を担ってきたとのことである。 千代家は長男が代々土地・家を受け継ぎ、明治以降もその伝統をつないできた。和年社長は次男でゴルフ練習場の代表を務め、長兄は農業法人を経営している。父親は市会議員も務め、ミカン栽培を中心に農業を営んでいた。 ある時、父・紀氏は他の地区を視察する機会があり、機械化が進んだ農業を目のあたりにした。そこで昭和32年頃、現在ゴルフ練習場がある山を削り、農業の機械化を目指しはじめる。ところが、思うように工事が進まず、紀氏は自ら土建会社を設立し、土木機械も購入して工事を進めていったという。 丁度、最初の東京五輪を控え、世の中は建設ブーム。削った山土の需要もあり、事業は順調に推移した。土地の改良も進み、さらに隣接の山も削る計画だったが、その土地の所有者から同意が得られず、オイルショックも重なって、土建会社の営業を中止した。そこで、すでに削ってしまった土地の活用をどうするかが問題となり、親族が集まって話し合う。牧場やクレー射撃場などいくつかの案が出されたが、親族の一人がゴルフ練習場を発案した。和年社長がこう話す。 「それ以前、父を含めてゴルフの経験はなかったのですが、親族に連れられて練習場の見学やゴルフも経験し、面白さを理解できたそうです。最初は事業者に土地を貸して練習施設を整備する話もありましたが、土地を貸すことに躊躇いがあり、自ら設備投資を行った。市街化調整区域で開発許可がなかなか下りなかったことも影響し、2年をかけて2階建て56打席、250ヤードの今の練習場をつくりあげたのです」 社長業は、父親の方針で、最初から和年氏に任された。 「千代ゴルフガーデン」の名前は創業当初から変わらず、今風だが、名付け親はゴルフ練習場の話を持ってきた親戚で、当時練習場を「ゴルフガーデン」と命名するところが多かったからだという。

「カフェ」の構想も

経営ポリシーは、 「ゴルファーの立場にたったゴルフ練習場を目指します」 ということで、コースボールを採用している。練習場のボールは、ボールの飛び出し問題があり、弾道を低く飛距離を抑えたものが多いのだが、同施設は山に囲まれるためボールの飛び出し問題がなく、コースボールを採用している。当初はコースボールの供給が間に合わず、練習ボールを混ぜた時代もあったが、現在は全てゴルフ場で使うものと同じボールだから、コースと同じ球筋で練習できると好評である。 もう一つは「土打席」を残していることだ。現在、静岡県で土打席が残っているのはここだけである。土打席はクラブの入り方が明確にわかり、ミスをミスとして認識できるので練習には優れている。 「だけど管理が大変なんですよ。明日の天気を気にしながら、夜に水を撒く加減を調整する。翌日が雨であれば少なく、風が予想されれば乾いてしまうので多くする。土を叩いて転圧をかける必要もあります」 管理の問題もあり、徐々にマット打席を増やしてきたが、土打席を2打席残しているのがこだわりだ。 [caption id="attachment_76898" align="aligncenter" width="788"] 千代ゴルフガーデン 土打席[/caption] これらのことがコアゴルファー層に支持されている。来場者の9割以上が男性で、来場者は年間8万人。年商は1億円を超えるとか。 個人レッスンの要望も多い。コロナ禍が始まる1~2年前から、松山英樹や若手ゴルファーの活躍が目立ち、その影響でプラスに転じてきたという。これにコロナ禍による特需が重なって2桁アップが続いているが、昨年4月、静岡市内で年間12万人以上来場者があった練習場が閉鎖したこともプラスに働いた。 商圏は静岡市の北側で、夜の11時15分まで営業している。 「静岡市内の商店街は夜9時までの営業が多く、その後、練習したいとの要望があったのです。閉場時間はそれに応えて決めました。コロナ禍の影響で、最近は若い世代のグループや女性の来場も増えています」 千代社長は静岡県ゴルフ練習場協会の会長も務め、子供たちがゴルフに触れる機会の提供にも意欲的。 「市内のイベントにこちらから出向き、プロのレッスンやスナッグゴルフなどの体験機会を設けています」 また、静岡県ゴルフ場協会が学校の授業や部活動で「ゴルフ」の魅力を伝えるスクールゴルフプロジェクトを実施。それに関連して近隣の高校生の来場もある。 「そのほか、子供たちがゴルフに触れる遊びのスクールやジュニアゴルフスクールも行っていますが、ゴルフ界の課題は、ゴルフに触れたことがない人に、いかにゴルフに触れてもらうかです。一案ですが 『ゴルフ場で野鳥を見る会』なども面白いと思います」 ゴルフへの強い想いを感じる。 「千代ゴルフガーデン」はミカンやブルーベリー狩りなども楽しめる場所で、静岡市内が一望できる高台にある。今後、カフェなどをつくり家族で楽しめる場所にしたいとの構想もある。地域に密着し、未経験者がゴルフに触れられる「ガーデン」になることを期待したい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら