BOXGOLFは新宿三丁目駅のE7出口から、歩いて1分もかからない便利な場所にある。住所は東京都新宿区新宿4―3‐15レイフラットB館2F。だが、筆者は取材で訪れた時に迷ってしまった。入り口が、ビルの裏側の非常階段のようなところを上がった2階にあるので、ここが練習場の入り口かと、入ることに躊躇したのである。
BOXGOLFは7打席のインドアゴルフ練習場だ。これまでの経緯やコンセプトについて、代表取締役の日向敏之氏と業務統括の上野美和氏に話を聞いた。
創業は2007年、日向社長が40歳で創業した。それまでネイルサロン、エステなどの美容業界で活動し、今もそのビジネスは継続中。
「高校卒業後、一度旅行会社に入社したんですが、その後大学に入り直して経営学部で学びました。当時から独立志向があったのでこの学部を選んだのです。卒業後は食品流通の会社に入って29歳で独立・起業。ネイルサロン事業を始め、その後エステサロンも含めて店舗展開をしてきました。ただ、30代の半ばから自分の好きなことを事業化したいと思ったんですね。それがゴルフでした。ゴルフ好きの父親の影響で、学生時代にゴルフを始めました」
BOXGOLFでレッスンをしている秋原博史プロとは小学生時代からの友人で、学生時代には父親と3人で一緒にゴルフを楽しんでいたという。そんなわけで、日向社長はシングルの腕前だ。
とはいえ、ゴルフ市場参入にはきちんと商機を窺っている。

「この会社の創業当時は、東新宿の日テレゴルフガーデン、都心の芝ゴルフ練習場が姿を消したタイミングなので、インドアゴルフでも需要があると考えたのです」
ゴルフバーなどにシミュレーションゴルフが入り始めた頃でもあり、当時は設備費が2000万円以上したが、練習には有効だと思っていた。毎年1月に米フロリダ州で開催されるPGAショーで格安のセンサーを見つけ、米国のメーカーと直接交渉。50台の購入を条件に、日本で販売する契約も取り付けた。
ゴルフ練習場ビジネスを始めるにあたり、このセンサーを活用した事業企画を考えたが、そのイメージが面白い。まず、出店場所は「コインパーキングの上」を発想した。通常のコインパーキングは地面だけを活用するから、その上には「空気」しかない。そこで、駐車スペースの上にプレハブやコンテナでゴルフ練習施設をつくれば行けるだろう、と考えた。コインパーキングの運営会社に足を運び、提案した。
「1階はコインパーキング、2階はゴルフ練習場。双方の収益にシナジーが出ますという企画でしたが、先方にイメージが伝わらなくて」
実現には至らなかった。いずれにせよ、社名のBOXGOLFは「箱の中のゴルフ、箱の中で行うセンサー付きゴルフ練習場」というコンセプトから来ている。
練習場からコースへ送客会社を立ち上げた

次に、センサー付きのゴルフ練習場というコンセプトを明確にするため、自ら練習場をつくった。それが現在の場所のBOXGOLFだ。場所の選定は、エステ・ネイルサロンの経験から、リピート率を高めるには利便性が大事であり、特に駅が近いことが必須と考えた。何より「駅チカ」を優先し、表通りなどに面する必要はないとの判断だ。
「ゴルフ練習場は来場者の目的意識が明確なので、最初は探してでも来てもらえます。一度場所を覚えてもらえば問題ないと考えて、現在の場所に決めました」
表通りに面していない物件で、わかりにくいことから賃料が安い。筆者がBOXGOLFを訪れた時に感じた第一印象は、そのような背景によるものだ。わかりにくいが、近隣には一日350万人以上の乗降客数を誇る新宿駅がデンと構える。そこへの期待が大きかった。
2年間は赤字が続いて、事業を軌道に乗せることはできなかった。日向社長が来場客に「なぜうちに来ているのか?」と質問したところ「車がなく、駅の近くだから」という返事が多かった。車がなくて、どうやってゴルフ場へ行くのかと尋ねたら「あまりゴルフには行けない」と聞いた。そこで、練習場からゴルフ場へ連れて行くことをビジネスの柱に据えたという。
ゴルフ練習場でコンペを主催する施設は多いが、BOXGOLFは徹底している。わざわざ別会社を立ち上げて、練習場からゴルフ場への送客ビジネスを立ち上げたのだ。社名は「株式会社ボックスツアー」で、旅行業登録などを完了、ゴルフ場へ送客する認可を得ている。ボックスツアーで業務統括を担当する上野氏がこう話す。
「当社を立ち上げたのは2017年です。『GOLFPAQ』の名称で『日帰りバスゴルフツアー』を365日運営中。関東40か所のゴルフ場と提携しています。BOXGOLFのすぐ横からバスが発着。前日21時まで予約可能で、ツアーは最大16名まで。1名でも行います」

と、細かいサービスが持ち味だ。参加者の98%がおひとりさまで、女性比率は4割。上野氏は、
「おひとりさま、車を持たないゴルファーや、50代から始めた女性の参加も多く、女性ゴルファーの増加を実感しています」
BOXGOLFは会員制で3万人を突破した。ゴルフツアーに参加するためには会員になる必要がある。施設は7打席で、スカイトラック、フライトスコープmevo+、トラックマンなど装備は充実。練習だけや、ゴルフスクール、ツアーへの参加など、ゴルファーの多様な要望に応えている。練習だけの会員も、平日の15~17時はレッスンプロによるアドバイスが無料で受けられるので、この時間帯が人気だとか。
また、BOXGOLFの隣のビルに工房もつくり、クラフトマンを常駐させて、グリップ・シャフト交換も行っている。
コロナ禍でゴルファーが増えているが、練習場からゴルフ場へのつながりは相変わらず未解決で、大きな課題となっている。BOXGOLFの取り組みは、特に車を持たない若い世代や女性にとって、一つの解決策を提案している。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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