埼玉県鴻巣市関新田に鴻巣ジャンボゴルフセンターはある。関東平野の外周を回る圏央自動車道の桶川加納ICから車で20分、広大な関東平野に広がる水田の一角に練習場のネットが見えてくる。300ヤード、88打席。グループ企業の鴻巣カントリークラブが隣接している。
両社を経営するのは関東文化開発グループの三宝開発(株)。関文グループは東京八王子のGMG八王子ゴルフ場と埼玉県寄居町の長瀞カントリークラブも経営するが、練習場は鴻巣ジャンボゴルフセンターだけである。この練習場の成り立ちについて、関文グループ総本社の森川幸三副社長と、鴻巣CC・鴻巣ジャンボゴルフセンターの森川宗介支配人に話を聞いた。
3ゴルフ場、1練習場を経営する関文グループは森川幸吉氏(故人)が創業した。現在は三代目が経営に携わっており、今回取材した幸三副社長は幸吉氏の長男の息子で、宗介支配人は長女の息子。二人はいとこの間柄にある。幸三氏は次男で、長兄の英幸氏がグループ総本社の社長を務めている。
その英幸社長は、日本ゴルフ場経営者協会の筆頭副理事長を務めている。「ゴルフ」は家業であるだけにゴルフ界全体を盛り上げる意識が強い。ゴルフ未経験の大学生にコース体験を促す「Gちゃれ」に、GMG八王子と鴻巣CCは意欲的に取り組んでいる。
鴻巣ジャンボゴルフセンターは1991年12月に44打席、160ヤードでオープンした。それ以前、隣接の鴻巣CCには鳥かごのような練習スペースしかなかったが、シニアトーナメント(ミサワリゾート)を開催することになり、練習場が必要となってゴルフ場隣接の現在の場所に造成したという経緯である。
開場してみると、この地区の練習場需要が想像以上にあり、その要望に応えるため1995年に設備投資。距離を300ヤードに伸ばし、2階建て88打席に改修。同時に6ホールのショートコースも造成してゴルフのアミューズメントパークを標榜した。名称も開業時の「鴻巣ゴルフ練習場」を、300ヤードの大型施設にふさわしく「鴻巣ジャンボゴルフセンター」に改称している。
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鴻巣ジャンボゴルフセンター 300ヤード[/caption]
地域密着で地域貢献
森川家はなぜ、ゴルフ業界に入ったのか?
創業者の幸吉氏は、旧制開成中学の出身で、その人脈を生かし戦後大倉財閥関連で働き、伊豆や八ヶ岳、多摩カントリーのゴルフ場開発にかかわった。という経緯の中で、幸吉氏は、昔の東京よみうりカントリークラブの特徴的なドーム型クラブハウスを見て、ゴルフ場経営に強い関心を抱いたという。
1967年にGMG八王子ゴルフ場、1968年に長瀞CC、そして1976年に鴻巣CCを開業している。同コースの所在地区は当時、川里村と呼ばれ、東京の新空港候補地となっていたが、その話が流れ、代わりにゴルフ場開発が浮上した。そもそも沼地だったため、近隣の山を購入し、その土を使って沼地を干拓、ゴルフ場を造成した。
練習場を開業したのは2代目の森川幸美氏で、前述のとおり現在は三代目の経営。練習場経営のポリシーについて森川支配人は、
「近隣の練習場にはない300ヤードの広さがあり、ショートコースも完備しているため天然芝からのショットも練習できます。アプローチ、バンカー専用練習場も当施設の特徴です。鴻巣CCを割安で利用できる会員制度もあり、900名強の会員が在籍しています。ポリシーは、お客様が気持ちよく練習できる環境作りが一番大事ということ。建物やサービスも大事ですが、一番はボールや人工芝が奇麗であること。私が支配人になってから、特にこの点に注力しています」
アイアンで摩耗した打席マットはボールが沈んだら即交換。ボールも年間4万球を入れ替えている。
年間来場者は13万人を超え、売上も2億円超。従業員はパートを含め15名で、鴻巣市と近隣市町を商圏とする。コロナ禍も含めて女性比率が2割から3割に高まったが、女性が嫌う「教え魔」の排除や「喫煙BOXの設置」、ショートコースを活用したコンペでは女性が喜ぶ賞品のチョイスにも気を配る。
5名のインストラクターが約460名のスクール生に対応する。12回コースのスクールでは、特典として鴻巣CCのハーフラウンドレッスンを付けるなど、練習場とコースが隣接する強みを生かしている。
地域貢献にも前向きだ。鴻巣市ゴルフ協会と連携し、年1回の鴻巣市初級ゴルフ教室(全7回)や、市役所勤務者を対象としたクラス毎のゴルフスクールを開催。また、自社主催で今年3回目となる鴻巣シニアオープン開催時には、練習場の駐車場で鴻巣グリーン夏祭りも開催する。

「地元企業の協賛もあるため、できるだけ長く続けたい。シニアプロは夏祭の会場で表彰式をするので、有名プロが地元住民と一緒に屋台を楽しんでいるんですよ。弊社は関東では珍しく、ゴルフ場、ショートコース、練習場が三位一体となっており、この環境を上手く活かして『ゴルフパーク』を築きたい。今後は家族で楽しめるゴルフを考えていきたいですね」(森川支配人)
同氏が掲げる地域貢献の在り方を巨視感で捉えると、森川副社長のこんなイメージになる。
「鴻巣市は首都圏から50km圏内で、かつ圏央道が通るため将来のスーパーシティになる可能性があるんですよ。日本のテクノロジーを用いて、地域住民の暮らしをより便利に快適にすることを目指す中で、ゴルフがウエルネスに組み込まれることも考えられる。例えばこのゴルフ施設が自動運転のステーションになれば、レストランを含めて地域にもっと貢献できると思います」
と、大きく位置付ける。
練習場、ショートコース、ゴルフ場が同じ経営で同じ場所にあることは、ゴルフのこれからの可能性を試す絶好の条件が揃っている。地域貢献・地域密着の事業展開で将来像をクリアに描く。三代目経営の手腕を含めて、今後に期待したいゴルフ施設である。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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