2019年の全英女子オープンを渋野日向子が制したのは記憶に新しい。その時、彼女を優勝に導いたコーチとして一躍脚光を浴びたのが青木翔氏だ。以来、青木氏はメディアに引っ張りだこで、今でも多くのプロゴルファーがその門を叩いている。
今では個人レッスンはなかなか予約が取れないほど人気だが、横浜にある練習場「PALM SPRINGS Family restaurant & Golf range」(パームスプリングス)では青木氏のレッスンイベントが定期的に行われており、次回は7月8日(土)と9日(日)を予定している。
そこで5月に行われた青木氏のレッスン会にGEW記者が潜入。レッスンを体験してきたのでその模様をレポートする。
青木翔氏のレッスンを体験

一般的なレッスンは最初にゴルファー本人の悩みを聞きだし、それに沿ったレッスンをしていくケースが多いが、青木氏の場合はまず好きなクラブでいつも通りにショットさせることから始まる。「〇〇流」「〇〇理論」などの型にはめず、そのゴルファーに向き合うのが基本的なスタイルだ。
記者はまず7番アイアンで3~4球ほどショットした。すると、
「まずクラブが重すぎますね。アイアンでダフリが多いんじゃないですか?」
と普段の悩みを見抜かれた。さらに、
「セッティングを見るとウッドとアイアンのシャフト重量が合っていない。ウッドやユーティリティがアイアンに比べて軽いので、アイアンに合わせてスイングしていくとウッドやユーティリティがチョロしてしまいます。大半のアマチュアゴルファーはオーバースペックになりがちです。本当に合うクラブというのはいきなり打ってそれなりのショットが出るクラブなんですよ。できればなるべく軽いシャフトを使ってスピードを利用して打ってほしい。まずは大矢さんに合うシャフトを探しましょう」
そこでまずパームスプリングスの試打クラブを借りて記者に合うスペックのフィッティングが始まった。青木氏はギアにも精通しているためショットを見ながら次々とシャフトスペックを変えていく。結果的にマイアイアンの110g台のスチールシャフトから、70g台のスチールに変更。すると特にスイングを変えていないのにナイスショットが出始めた。
「無理のないスペックに変えたことで自然とタメのあるスイングになりました。ギアも含めてトータルにレッスンしていくのが僕のスタイルです」
通常のレッスンでは一度に全てを変えないのが青木流だ。少しの修正で起こった変化や反応を定着させてから次のステップに進むスタイルをとっている。
「普段は1回のレッスンで教えるのは1~2つ程度。それを次回のレッスンまで反復して続けてもらいます。そして次回のレッスンで反応を見て少しずつ変えていく。一気に色々変えようとしてしまうと頭がパンクしちゃいますから」
今回は体験レッスンということもあり、短縮して先に進んでもらった。記者に合うクラブスペックを見つけてもらった後は、左手のグリップを少しだけ修正。その際も右手は全く変更しなかったので違和感を感じることなくスイングできた。するとさらにつかまった力強いショットが出始めた。普段記者は7番アイアンでキャリー125ヤード程度だが、この時点でキャリー140ヤードまで到達した。
続いて青木氏から右手を外し、左手だけでグリップするように指示される。代わりに青木氏が記者の左側に立って右手をグリップ。そのままハーフショットをしたところ、これまでほとんど感じたことのないボールが潰れる感覚が手に伝わってきた。それを何球か続けてもらうと手に球を潰していく感覚が記憶される。

「難しいこと考えずに、今のフィーリングを『こんな感じかな』程度で良いので自分なりに再現してみて下さい」
と言われる。早速やってみると球が潰れた心地良い打感と共に、伸びのあるアイアンショットが出た。
「フィーリングってなかなか言葉じゃ伝わりにくいでしょ?だからこういう風に体感してもらって、自分で何となくそれを再現してもらう方が理解しやすいんですよ。一番怖いのは理論や専門用語を並べて、分かったような気にさせてしまうこと。それでお金を取っちゃダメでしょ!と僕は思っています」
確かにここまで青木氏は一切専門用語を使っていない。一連のレッスンはアイアンのハンドファーストを覚えさせるものだと思われるが、「ハンドファースト」という言葉さえも一切出していない。表現も「右上から叩き込む」という実にシンプルな表現だ。
「理屈先行型の指導を好む方もいるので、もちろんそういう方には理論で教えることもできます。ただ僕はまずは体感してもらって後から理屈を教えていくという方が良いと思っています。専門用語をあえて使わないスタイルはプロに対しての指導でも同じです。大矢さんの場合もシャフトを変えただけでタメができたように、なるべくナチュラルに変化させていくことを大切にしています」
続いてドライバーも見てもらうことに。数球打っただけで青木氏はカチャカチャを取り出し調整。するとスライスボールが真っ直ぐ飛び出した。変化の理由を聞くと、
「ドライバーのソールを見るとヒール側に傷が多くついているので、ヒール側に当たる傾向が強いと思い、ライ角をフラットに変えました」
確かに記者はヒール側にボールをセットする癖がある。それをわずか数球で見抜かれてしまった。さらにフェースの打痕がヒール側についている点も加味し、ボールの位置を若干トゥ側に移動させてアドレスするように指示された。すると今度は球がつかまって左に飛び始めた。
「今度は逆に左に飛んだので、大矢さんの場合はフェースの真ん中にボールをセットすれば良いということになります。やってみて下さい」
言われるがままに真ん中にセットして打ったところ、真っ直ぐな強弾道のドライバーショットが出た。またしてもスイングを特に変えることなく劇的な変化が起きてしまった。
以上、今回は体験ということもあり駆け足で進めてもらったが、青木氏のレッスンは、まずは無理なく自然に改善てきる点を行い、その後出てきた問題点を一つずつ直していくスタイルが特徴だ。これまでのスイングをガラッと変えられたわけではないので、記者もストレスなく変化を体感できた。
ジュニアへのレッスンを通して人間形成を

今や多くのプロを指導する青木氏だが、彼のゴルフ人生は最初から順風満帆というわけではなかった。ツアープロを断念し、レッスンプロの道に入ったのは青木氏が27歳の時。当時は月収10万円程度でレッスンの枠を埋めるのに必死だったという。
それでも彼が一貫して大切にしてきたのがジュニアゴルファーのレッスン。
「『ジュニアゴルファーのレッスン』というとプロを目指している子だけを教えていると捉えられがちですが、そうは思われたくはありません。私は子供達にとってゴルフは大人に成長していくための一つのツールだと思っています。だから私のレッスンでは技術だけではなくて、親御さんと協力しながら人間性を養える内容にしています。そしてその子達が大人になった時に、『あの時に青木のレッスン受けて良かったな』と思い出してくれたら嬉しいなぁと思うんです」
このようにジュニアへのレッスンを続けてきた結果、彼らが後にツアーを牽引するトッププロになり、今の青木氏の活躍に繋がった。想いだけで続けてきたことが図らずも実を結んだと言える。
青木翔のレッスンが受けられる横浜の練習場

今回青木氏のレッスンを体験させてもらったパームスプリングスは、ゴルフレンジとレストランを併設する。ゴルフレンジは全打席トップトレーサー・レンジを導入しており、幅広い年代のゴルファーが訪れる。
またレストランはアメリカン調のモダンな雰囲気で女性やファミリー層などゴルファー以外の利用も多い。季節ごとのメニューも豊富で、その味も一級品だ。
さらに毎年こどもの日に練習場のフィールドを開放して地域住民との交流を目的としたイベント「パームまつり」を開催するなど、ゴルフ練習場の枠を越えた取り組みを行っている。
同練習場の相原裕太社長と青木氏は2年前に知り合い意気投合。今回のような定期的なレッスン会の実現に至ったという。
「『パームスプリングス』は居心地が良くて、食事だけでも気軽に訪れられる。スタッフも温かいし、女子プロも練習に来ている。相原社長は損得勘定のないタイプなので付き合っていて気持ち良い。ここでのレッスン会は関東のゴルファーと触れ合える場所だと思ってます。これからも続けていきたいですね」
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パームスプリングスの相原裕太社長(左)と青木翔氏(右)[/caption]
次回のレッスン会は既に空き枠が埋まり始めている。一度青木氏のレッスンを受けてみてはいかがだろうか。
■施設概要
PALM SPRINGS Family restaurant & Golf range
住所
〒223-0061
神奈川県横浜市港北区日吉5-15-33
TEL
045-562-2894
https://www.greencross-inc.com/index.html
東急東横線日吉駅よりバス5分
(系統 日93 日94 日95「一本橋」下車)
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