関越道の所沢ICから15分、所沢と狭山を結ぶ広々とした2車線の所沢掘兼狭山線に面した、交通至便な埼玉県所沢市下富に「新富ゴルフプラザ」はある。所沢の緑に囲まれ、解放感を感じる、2階62打席250ヤードの屋外練習場だ。同施設の成り立ちやコンセプトについて、有限会社新富ゴルフプラザ・坂東枝美子専務に取材した。
「新富ゴルフプラザ」の敷地面積は約3万㎡。これまで訪れた多くの練習場と同様、元々地主で、自分の農地や牧場などを活用した練習場だと思っていた。ところが、事情はかなり違うらしい。坂東専務いわく、
「この練習場は34年前、1990年に父(故・実氏)が創業したのです。父は北海道出身で、大学卒業後、兄と不動産業を千葉で起業。その後独立して埼玉の清瀬、入間で不動産事業を営んでいました」
実氏は、事業を始めた後30歳ぐらいでゴルフにハマり、競技ゴルファーの道を歩む。スコアも60台で回る腕前になっていた。坂東専務が母親に聞いた話では、
「父がある日突然、ゴルフ練習場を始めたいと。それで現在の土地を一緒に見に行ったそうです」実氏は事前に家族には相談せず、練習場開業の準備をしていたそう。
一部は借地だが、練習場用地を買収し、4年の歳月を費やした。住まいも所沢に転居している。「母親に相談もせず、よく始めたと思います(苦笑)」
この、所沢市下富の地を選んだのは、田園の中で隠れ家的な練習場をつくりたかったことと、まとまった土地を手配できたからだという。不動産業をしていたので、この地域に道路を通す計画があることを逸早く察知したことも、思い切って買収できた一因である。
ただ、道路はもう少し早く開通する計画だったが、開業から20年以上過ぎた10年前にやっと開通した。開業前、よく練習に通っていた入間の金子ゴルフセンターのオーナーと親しくなり、そこからの情報が役立ったとのこと。開業当時、一人娘の坂東専務は中学生であった。
「新富ゴルフプラザ」の名称を最初に聞いた時、筆者はこの地区の地名かと思ったが、「新富」という地名はない。現住所の「下富」の「富」と、新しいゴルフ施設をつくるとの想いで「新」をつけて「新富ゴルフプラザ」とした。プラザは人が集まる「広場」の意。練習場のキャッチコピーは「楽しいゴルフをクリエイトとする緑のゴルフ&ウエルネスパーク」で、「新富ゴルフプラザ」の名称は父・実氏が命名した。
「あとで父親の友人に聞いた話では『坂東ゴルフ』や『東武ゴルフ』などの名前も候補だったそうです」
父親の急逝で決断した
開業時は2階45打席250ヤードの規模であった。この地区にはゴルフ練習場がなく、また実氏が様々なゴルフ大会・競技で優勝し、ゴルフを通じて知り合った仲間にPR。経営は順調に推移していった。100名規模のコンペを開催すると、すぐに定員が埋まった。実氏はいつも2番打席で練習していたという。
その父親が4年前、急逝した。「当日の午前中まで仕事をしていて、電話で話もしていたので、本当に驚きました・・・」
と、坂東専務は言葉少なに振り返る。一人娘であり、その日から仕事を引き継いだというが、それ以前は週2回のアルバイトで、フロントの手伝いはしていたものの経営にはノータッチだった。
「父はあと20年ぐらい頑張るだろうと思っていたので、突然のことで、誰も私が継ぐとは思っていなかったですし、母も継ぐことを薦めませんでした。でも、父が苦労してつくった練習場を、自分の代では潰せないと思ったのです」
ただ、事業承継の可能性を見越し、10年前からゴルフ練習場の勉強会に顔を出して業界関係者とのつながりは持っていた。
「父は時々、『ゴルフは3世代で楽しめるスポーツだ』と、ゴルフの素晴らしさを話していたので、継がせたい思いはあったかもしれません。母は経理を担当していたので当社の代表を務めていますが、実質的な経営は私が担っています」
経営を引き継いで最初の3年は、練習場事業の把握に努め、リスク回避のための防球ネット整備などに力を注いできたが、これから自分の色を出したいと意欲を示す。今年は60ヤードのアプローチエリアを整備。
「力の弱い女性やシニアがスコアアップするためには、アプローチが重要なので、その点を改善しました」
同施設の特徴のひとつは、開業時からコースボールを使用していることで、このことがアプローチ練習にもプラスに働いている。インスタグラムにも力を入れており、フォロワー数も3000を超えた。練習場業界の中では多い方で、SNSでの情報発信が若者ゴルファーの来場を促進しているという。
また、スクールも「新富らしさ」を打ち出す構え。スクール用のオリジナルノートや、スイング動画を共有できるソフト等を整備してきた。可視化やプロとのコミュニケーションが重要と考え、「新富ゴルフアカデミー」のカラーを鮮明にしていく。現在、年間10万人以上の来場者があるという。
父・実氏の立てたコンセプトに加え、一人娘の専務の野望は、
「男性ゴルファーが女性を連れてきやすいNO.1のゴルフ練習場を目指します」
と、新たな旗を立てている。女性がゴルフを始めるときには、男性の存在が大事。このあたり、女性経営者ならではの視点と言えるかもしれない。
「女性が入りやすい、快適な練習場をつくりたいですね。それと、女性でも練習場経営を承継できる好例になりたいと思っています」
ジェンダーフリーの時代だが、ゴルフ界はまだまだ女性経営者が少ない。筆者は、新風を吹き込んでほしいと願っている。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら