東京都江東区大島にある大島ゴルフセンターは、地下鉄都営新宿線の大島駅から徒歩3分の至便なところにある屋外ゴルフ練習場である。3階48打席で100ヤード。駐車場は52台収容と十分な広さがあり、
「ゆとりがあるため、駐車場が満車になったことはありません」
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大島ゴルフセンター 受付[/caption]
同練習場を経営する株式会社スガエンタープライズの菅登志夫社長は笑みを浮かべる。同氏は昨年10月に社長へ就任、ちょうど1年が経ったところである。
菅家のルーツは四国とのこと。菅という苗字は、菅原道真が由来だという。菅原道真が船で大宰府に向かっている途中、暴風雨に遭い立ち寄った土地が、愛媛県越智郡小西村星之浦。その時、菅家の先祖は大破した船の修理を行い、その功績により「菅」姓を賜ったという。
「ですから当家の家紋は『丸に梅鉢』で、天神様・道真に由来していると聞いています」
菅社長の祖父・菅金助氏は、その四国愛媛の出身で、広島の造船所に勤め、その後、三重県鳥羽の造船所で重量物設置などの技術を習得・考案し、1920年に鳥羽で「菅組」を創業した。創業1年後、台風で根元から折れた伊勢の二見浦夫婦岩の40t以上ある女岩の修復工事を請負い、会社の基礎を築いた。
その後1923年の関東大震災の復興に「菅組」の技術を役立てたいとの思いから、現在ゴルフ練習場のある江東区で「東京菅組」を立ち上げた。1986年に社名変更して株式会社スガテックとし、大手製鉄メーカーなどのプラント設備の設計・製作・建設・整備など、幅広い分野で活動している。その「菅組」の倉庫があった場所が、現在の大島ゴルフセンターである。
菅氏の伯父で金助氏の長男・光孝氏がゴルフ好きで、社長時代、会社の資材置き場などの倉庫があった現在の台東区大島に、1976年「大島ゴルフセンター」を創業した。この練習場の名称は地名の「大島」からとり、創業時から現在まで変っていない。もとは「菅倉庫」という別会社を、株式会社スガエンタープライズにし、ゴルフ練習場の運営を始めている。
菅氏は大学卒業後スガテックに入社、その後外資系金融機関で働き、昨年7月にスガエンタープライズに入社、10月から社長という経緯である。練習場の運営会社は代々親族が社長を務め、現在の菅社長で4代目。同氏は社会人になってからゴルフを始め、20年ほど前にカレドニアンGC(千葉県)のメンバーに。スコア90前後のゴルフを楽しむ。
「自宅が大島ゴルフセンターの近くなので、この練習場には以前から一人のゴルファーとして通っていました。従兄の現会長が70歳を超えたので、自分が社長をやることになりましたが、前社長はゴルフをしなかったので、自分はゴルファー目線で練習場の経営に取り組みます」
と、顧客目線を大事にする。
有意義な待ち時間を提供
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大島ゴルフセンター打席[/caption]
大島ゴルフセンターの創業当時は2階建て32打席だったが、開業10年後に3階48打席に改修。それ以降大きな改修はないという。社長就任後、同施設の周辺人口や年齢構成などを調査会社に依頼した結果、
「この地域は特に高齢化が進み、現状のままでは先行き不透明であることがわかりました。より広いエリアの若い世代や、違う客層を取り込む必要があると思っています」
そこで、社長就任直後の昨年11月にトラックマンレンジを導入。100ヤードの屋外練習場では飛球がすぐにネットに当たるため、
「弾道や飛距離が判ることが必要だと考えたのです。この商圏にはほかに大型の練習場があり、その顧客を取り込めるチャンスが増える。計測器やシミュレーションを備えた屋内練習場も増えているので、屋内よりも打音や球の打ち出しが良くわかる屋外のメリットを訴求することもトラックマンレンジ導入の理由です」
3階に『トラックマン4』を使ったシミュレーションルームを設置して、スピンやクラブの入射角など高度なショット分析で、上級志向のゴルファーを満足させるレッスンも可能。また、今年10月にフロント周辺の内装を中心にリニューアルした。
特に来場者に喜ばれるのが1階にオープンした「コスタコーヒー・カフェ」だという。ヨーロッパでナンバー1のコーヒーブランドだそうで、練習場利用者だけでなく、近隣住民が気楽に利用できるようカフェ用の入り口も用意した。
「練習場利用者には割引価格で提供し、混雑時の打席待ちや練習後の休憩に利用されています。スタバなどで30分ほど、ゆっくりコーヒータイムを過ごすことは普通ですし、フリーWi-Fiも用意してあるので待ち時間を楽しく有意義に過ごせます」
10月のリニューアルに合わせてスクールも一新、データに基づいた練習メニューをインストラクターが提供し、スクール生400人を目標に施策を打つ。ICカードの導入で来場者の年齢構成も明確になり、
「20代が一番多くICカードを作っています。若者は車離れをしているので、駅近のロケーションが効いているんでしょうね」
と分析している。
同施設の東側には荒川が流れ、千葉に近く、東側在住のゴルファーは千葉側の低価格な練習場に行く傾向が強いため、商圏は西側10km圏内。ポスティングやSNSでの発信もこの地域が中心だ。年間来場者は9万人前後で、今回のリニューアルにより幅広い
地域からの来場を期待している。
菅社長のポリシーは、
「地元に愛され続けるゴルフ練習場であり、カジュアルで若い世代にも気軽に来場頂ける雰囲気づくりを目指しています」
東京23区内の屋外ゴルフ練習場は、承継問題や業態転換で減少傾向が続いている。その中で安定経営の「大島ゴルフセンター」は、貴重な存在になることは間違いない。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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