ツアープロとその家族が経営する 千葉・美里ゴルフセンターのポリシー~シリーズゴルフ練習場ビジネス~

ツアープロとその家族が経営する  千葉・美里ゴルフセンターのポリシー~シリーズゴルフ練習場ビジネス~
都内から約1時間、常磐自動車道の柏インターから約20km、国道16号線から少し入った千葉県柏市増尾に「美里ゴルフセンター」はある。近隣は学校、公園、城跡などがあり、車でのアクセスがよい。2階54打席230ヤードのメインレンジとは別に、フィールドを直角に共有する1階19打席180ヤードのノースレンジがあり、主にスクールやアプローチ、バンカー練習で使用する。同施設の成り立ちやコンセプトについて、美里ゴルフ株式会社の代表取締役会長・伊能一郎氏、支配人・金田二郎氏に取材した。金田支配人は伊能氏の二女と結婚している。 開業は1969年4月で、創業者は伊能会長。伊能家は代々この地で農業を営み、伊能会長で20代目。同氏が練習場経営のきっかけを話す。 「父親の代まで農業を営み、私も農業を継ぎましたが、若い頃に家を離れ、横浜で社長の運転手をしていた時期があったんです。そのとき、ゴルフ練習場にも行きましてね、『面白そうだな』と思ったことが、家業に戻ってからも頭に残っていた。もともとスポーツ好きで、ボクシングなどの経験もあったので、農業以外の事業も考えていました」 [caption id="attachment_82153" align="aligncenter" width="788"] 美里ゴルフセンター 打席[/caption] 転機は1967年、伊能家の土地の一部をニッカウ井スキー株式会社が買収したいとの話があり、売却した。現在もニッカウ井スキーの柏工場が近隣にあるが、売却のタイミングで父親を説得し、売却資金を元にゴルフ練習場経営を決断した。他の練習場を調べ、土浦で練習場を始めたばかりの施設にも日参して、 「柏なら場所柄いいんじゃないか」 と太鼓判を押され、確信した。 ただ、当時は伊能会長も父親もゴルフの経験は全くなかったという。 1969年4月、伊能会長が24歳のときに1階30打席230ヤードで開業。開場式には茨城ゴルフ倶楽部の関水利晃プロが来場し、 「プロの打球の凄さに驚きました。自分も開業式で振ったんですが、3回も空振りしてしまった」 と苦笑いを浮かべる。 [caption id="attachment_82154" align="aligncenter" width="788"] 美里ゴルフセンター 外観[/caption] 当初は農家をやりながらの「兼業練習場」だったが、以後、ゴルフブームの到来で来場者が増え、開場から2年後には農業を止めてゴルフ練習場を専業とした。 この間、伊能会長はゴルフの魅力にハマっていき、25歳のときに、 「プロになりたい」 と一念発起。ゴルフと無縁だった素人が練習場経営を機にプロを目指すという、異例の経営者と言えるだろう。全日本ゴルフ練習場連盟の研修会などで腕を磨き、プロテストを受けるも、9回落ちた。 「それで名前を『一郎』から『伊知郎』に変えましてね、そのせいかどうか、10回目のテストで念願が叶った。1980年、35歳の時です」 プロになるまで10年間、本気度が伺える話である。 ツアーでは未勝利だが、何試合かは上位に食い込み、注目を浴びた。1996年にはシニアツアー「第一生命カップ」で4位に入った。 [caption id="attachment_82157" align="aligncenter" width="788"] 美里ゴルフセンター フィールド[/caption] 「自分は遅くしてゴルフを始めたから、この成績で終わったのかもしれない。もっと早く始めたら、もっと上にいけたかも……」 との思いがあり、若い人にゴルフ練習場に来てほしいとジュニアスクールも開校。この練習場から多くのプロゴルファーを輩出している。 「その結果、近隣の練習場よりも、来場者は多いと思いますよ」 ツアープロが経営する練習場は、ひと味違うのだろう。多くの上級者が集い、金田支配人も日大ゴルフ部出身で、この練習場に足繫く通う一人だった。それが縁で伊能会長の二女と結婚し、息子の金田直之氏もプロゴルファーとなっている。

孫はショップの店長

[caption id="attachment_82155" align="aligncenter" width="788"] 美里ゴルフセンター ジュニアレッスン[/caption] 美里ゴルフセンターの名称は、伊能会長が命名した。元々、この界隈の地名は柏市増尾字本郷だから「増尾ゴルフ」にしたかったが、ほかに同業で「増尾ゴルフ」があり、本郷の「郷」と「美」を合わせて「美郷ゴルフセンター」とした。ただ、オープン直後に父・健喜氏が「字数が良くない」と主張。同じ発音で「美里」に変えた経緯がある。最初、ゴルフ練習場に反対した父親だったが、息子の事業に成功してもらいたいとの思いが伝わってくる。 経営は順調で、開業から5年後に打席を増設。営業しながら、打席の後方に2階建ての打席を新設し、クラブハウスも改修。1997年にはノースレンジを増設した。直近ではネットの自動昇降機も取り付け、安全にも配慮している。 美里ゴルフセンターの特色・ポリシーについて、伊能会長は、 「ゴルフを通じて人を育てたい。ゴルフは英国発祥の歴史の長い素晴らしいスポーツなので、この練習場を起点にして広げていきたい」 [caption id="attachment_82156" align="aligncenter" width="788"] 美里ゴルフセンター ショップ[/caption] 練習場事業の基本的な考え方は、 「ゴルファーが研鑽する場であるとともに、新たにゴルフを始める人の上達の場でもあるので、事業の継続が何よりも大事だと考えています」 また、金田支配人は、 「お客様に来て頂けることへの感謝の気持ちと、初心者のお客様にはきちんと対応して不安を解消することがモットーです。練習場は打席、スクール、ショップの三位一体が大事で、ゴルファーを育てるためにもそれが必要だと思ってます」 と強調する。スクールは伊能プロの弟子のティーチングプロ6名が美里ゴルフジュニアアカデミーを展開中。また、ショップについては2011年からゴルフパートーナーのフランチャイズとして自社で経営しており、伊能会長の孫の伊能智規氏が店長 を務めている。 商圏は柏市、流山市、我孫子市を中心に年間11万人以上の来場者がある。10年を費やしてプロになった伊能会長の人柄が慕われ、地域に根差した練習場だ。次世代のプロやティーチングプロを輩出し続けるこの場所が、末永く地域に愛されることを筆者は願う。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年6月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら