<進化するゴルフ練習場の舞台裏5>長期的経営に不可欠な 「安定化率」を考える(前編)

<進化するゴルフ練習場の舞台裏5>長期的経営に不可欠な 「安定化率」を考える(前編)
私がゴルフ練習場システムに関わるようになった8年前は、プリペイドカードに対してリライトカードやICカードのメリットは「カードを使い捨てしないですむこと」くらいでしたが、熱心な練習場経営者と交流を続ける中で、「顧客情報を預かる代わりにきめ細かなサービスを提供できる」メリットを学びました。 さらに「来場分析をして、料金体系などのサービスを検討する大事な判断材料」として活用できることも学び、当社のシステムを導入する際に「こういう帳票を出して欲しい」と要望されることもありました。 当初、帳票は経理的な活用だろうと考えましたが、そうではないということを、福島県いわき市の荒川ゴルフクラブ佐藤社長と、福岡市の小戸ゴルフセンター川上支配人から教わりました。練習場経営のポイントは多岐にわたりますが、特に「価格改定の考え方」「打席使用率を上げる方法」「リニューアルなど投資の判断基準」等が大事であり、データ分析→予測→決定に活かせます。 このような学びを経て、我々がやるべきことは「ゴルフ練習場が将来に向けて発展を続けるためのお手伝い」だと考え始め、分析システムの開発に着手。株式会社ONE Story山﨑代表のコンサルティング手法をシステム化し、練習場の要望に応える形で「現状分析機能」を追加。さらに昨年、ゴルフ需要調査研究所の山岸代表と出会い、マクロ分析や「山岸流分析手法」をシステムに取り込む。それが当社の現在地です。 山岸代表の「来場者が増えた・減ったの大雑把な視点では本質は見えない」という言葉は、目からうろこでした。なぜなら来場者の増減は、コロナ禍の影響はもちろん、気象状況や景気など様々な外的要因に左右されるため、単に増減だけを見ても本質は見えないからです。山岸代表は、「新規来場者を増やす工夫は大事だが、同時に、新規来場者をどれだけ『常連客』に育てられたかを見続けなければ、練習場の安定経営は難しい」と話しており、同氏はこの基準を「安定化率」と呼んでいます。 来場者を年間来場回数で階層分けし、各階層の来場者がどのように変化したかを観察すれば「常連になった顧客の数」や、逆に「来場回数が減ったり離脱した常連客数」など、具体的な動向が観察できます。

「来場詳細分析」とは?

以上を前提に、山岸代表の指導を受けながら開発したのが「来場詳細分析」です。次にこの点を説明しましょう。なお、文中のデータは金額など生々しい情報は含みませんが、架空のサンプルデータではなく実データを用います。当社の分析システム導入施設の中で最も「安定化率」が高かった、栃木県宇都宮市の西の森ゴルフパーク・中川支配人よりデータ使用の許可を頂きました。 同施設は2021年2月に当社ICカードシステムでリニューアルしたため、それ以降のデータが分析できます。リニューアル後は来場者の評価も高まっており、その声は、私が著した「ゴルフ練習場行脚録」でも紹介しています。(https://ncad-golf.com/?p=396) [caption id="attachment_82461" align="aligncenter" width="640"] 図1[/caption] 来場ゴルファーを図1のように階層分けして分析します。ポイントは年間来場回数11回以下を細分化した点ですが、大きな括りで見ると、年間来場回数11回以下を「不安定(常連化前)ゴルファー」と位置づけ、同12回以上を「安定(常連化)ゴルファー」と定義します。 「12回」で分けた根拠は後述しますが、これまでの分析画面同様、来場詳細分析でも集計期間と比較対象期間を指定できます。今回は、2022年の来場者が2023年にどう変化したのかを見ていきます。「来場者数」と「来場回数」の2視点で見ますが、まずは来場者数から。 最初に図3の顧客数クロス集計の表を説明します。集計期間(2023年1年間)と比較対象期間(2022年1年間)のクロス集計表ですが、比較対象期間である2022年の顧客数を見ると、一番下の「総計行」の右端により、2022年に来場した「顧客数総計」は、7061名から「消滅」「休眠」の1545名を引いた5516名となります。同様に、週1ゴルファーは下から2行目の右端にある460名です。 [caption id="attachment_82462" align="aligncenter" width="1000"] 図2[/caption] 各階層の顧客が翌2023年にどう変化したのかは、縦に見ていくとわかります。たとえば右から2列目の週1ゴルファーは、上から2022年に一度も来場しなかった人から16名60回以上来る(週1ゴルファー)ようになり、1回だけ来ていた人のうち2名が60回以上来るようになり、2~4回来ていた人から0名、5~11回来ていた人から9名、12~59回来ていた人から94名、60回以上来ていた人から311名が、そのまま60回以上来てくれた、という感じです。また、2022年の週1ゴルファーは総計460名だったので、2023年の432名と比較すると28名減でした。 ここで大事なのは、2022年にそれほど来場しなかった人がどれくらい「常連化」したか、です。青色の部分が2022年に1~11回来てくれた人、つまり常連化していなかった人の総計です。 次にオレンジ色の部分です。2022年に1~4回来場した人のうち2023年に月1ゴルファーになった人は26名、82名、154名で、2023年に週1ゴルファーに育った人も2名、0名、9名いる。その様子をまとめた表が図4です。2022年の1年間で1~11回しか来なかった常連化前の人が図3の青色部分合計の3499名。そのうち月1か週1ゴルファーになった人が273名なので、常連化した人、つまり「安定化率」は7.8%です。 [caption id="attachment_82464" align="aligncenter" width="788"] 図4[/caption] 当社の分析システム導入施設の平均が5.9%なので、7.8%は高い値ですが、一見客が多い練習場の安定化率は高くなりにくいので、高ければ良いという単純な比較はできません。他の練習場と比較するより自社の練習場が以前と比べてどうかを見るのがよいでしょう。次回は安定化率をもっと深掘りします。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら