時代の節目で挑戦してきた 大阪・桜宮ゴルフクラブの歴史~シリーズゴルフ練習場ビジネス~

時代の節目で挑戦してきた 大阪・桜宮ゴルフクラブの歴史~シリーズゴルフ練習場ビジネス~
桜宮ゴルフクラブは、大阪市都島区にあるゴルフ練習場である。アクセス抜群で、JR環状線・京阪・地下鉄の「京橋駅」、JR東西線「大阪城北詰駅」、JR環状線「桜ノ宮駅」からそれぞれ徒歩10分、大阪梅田からも約4Kmの場所にある。 クラブハウスは天井が高く明るく、受付スタッフが笑顔で迎えてくれた。120ヤード3階94打席で、年間13万人以上が訪れる。正三角形の独自の形をした敷地にある同施設の成り立ちやコンセプトについて、桜宮ゴルフクラブ株式会社・取締役会長・川﨑益彦氏、代表取締役社長・川﨑博之氏に話を聞いた。取材場所は練習場横の川﨑益彦氏が代表取締役を務める大阪冷蔵株式会社の事務所。この会社名に同練習場の成り立ちの歴史が刻まれている。 [caption id="attachment_83897" align="aligncenter" width="1000"] 桜宮ゴルフクラブ 大阪冷蔵定款[/caption] 桜宮ゴルフクラブが開場したのは1992年である。この事業の始まりは、1898年に鳥取で日本初の冷蔵倉庫を開業した日本冷蔵商会に始まる。1905年に会社・工場を神戸に移し、更に1906年現在の練習場がある大阪に日本冷蔵倉庫合資会社として移転。冷凍設備を利用した「凍り豆腐(高野豆腐)」の製造を主力事業とし、冷蔵倉庫、製氷も行っていた。会社は1909年に大日本冷蔵株式会社として登記されている。川﨑家は代々この会社の経営には携わっておらず、堺で乾物・海産物卸を生業としてきた。川﨑会長の祖父・徳次郎氏が、同社の「凍り豆腐」を大口で取り扱っていたことから経営に参画し、その後同社の株式を取得したという経緯。 戦前は軍需用の凍り豆腐を製造しており、戦後1950年に大阪冷蔵株式会社に社名変更。主力の「凍り豆腐」は競合が増え、過当競争による価格暴落もあり、徳次郎氏は大阪冷蔵の再建を考えて1951年に凍り豆腐事業から撤退を決めた。 徳次郎氏の息子で、川﨑会長の父の益男氏が1952年大学を卒業、大阪冷蔵に入社した。益男氏は学生時代から新しい事業に挑戦する夢を持ち、アイススケートが流行ると考え徳次郎氏に提案した。凍り豆腐事業から撤退したタイミングで、工場跡地の活用、新規事業を考えていたため、アイススケートリンク事業への進出を決めた。大阪冷蔵の製氷技術をそのまま生かせ、京橋駅から近い地の利も幸いした。1953年3月別会社として、桜宮スケートリンク株式会社を設立、10月に現在の練習場と同じ場所に開場。大阪で5番目のスケートリンクであった。 [caption id="attachment_83898" align="aligncenter" width="898"] 桜宮ゴルフクラブ スケートリンクの歴史[/caption] 開業から2年間は赤字だったが、1955年には予想通りブームとなり、入場待ちの行列ができる盛況ぶり。ところが、開場して20年が経過し、70年代後半になるとレジャーの多様化や競合でスケート事業は不振に陥る。1982年に川﨑会長が大学卒業、三洋電機に勤務後大阪冷蔵へ入社、会社全体の改革に着手。 当時、冷蔵倉庫やスケートリンク事業など会社全体として赤字体質に苦しんでいた。さらにバブル経済の中、1990年土地基本法の施行、税制改正があり、固定資産税が3・5倍になる。事業を整理して土地活用を考え、1992年桜宮スケートリンクは39年の歴史に幕を閉じ、ゴルフ練習場事業へ転換した。 川﨑会長が理由を話す。 「三角形の2500坪の土地は一筆で価値があり、更に練習場として打席が広くとれ、フェアウエイは三角形なのでボールが集めやすいメリットもあります。また、ゴルフ練習場を賃貸する場合、フェアウエイが主体で駐車場と同じ扱いだから借地権が発生しない。いつでも次の事業に活用できるメリットもある」 [caption id="attachment_83899" align="aligncenter" width="1000"] 桜宮ゴルフクラブ 三角形のフェアウエイ[/caption] そこでまず、ゼネコンから練習場運営会社を紹介され、練習場設備を大阪冷蔵が建設して大家となり、練習場運営会社から家賃収入を得るモデルで1992年11月に開業。運営会社が設計した練習場は、鉄塔の間隔が8mの贅沢な仕様で、既存の事業整理を含めて10億円以上の投資だったが、運営会社からの家賃収入は投資回収するのに十分な金額だったという。が、その後経営不振で家賃の支払いが滞り、1998年から直接経営を始めている。

ゴルフウエアの古着を寄付

桜宮ゴルフクラブの名称は、近隣に桜宮神社があり、桜宮スケートリンクの名前をそのまま引き継いでいる。直接経営を始めてから改革に取り組んだのがスクールだった。 「スクールは、新規で毎月30人入るけど30人やめる状況でした。そこでプロが独自で開講していたスクールを桜宮ゴルフスクールに統一し″お好きな時間に、お好きなプロに”のコピーで、生徒がプロを自由に選べるようにしたのです。その結果ゴルフスクールの定着率と売上が順調に伸び、経営改善に貢献しました。また、従業員の提案でISO9001を取得。一貫した従業員教育でサービスの質を向上させ、お客様に喜んでもらえるゴルフ練習場を目指しています」(川﨑会長) その中で、顧客サービス基本方針を定めた。全文は割愛するが、 《当社はお客様が元気に楽しくゴルフを練習できるサービスおよび環境を提供します。そのために、スタッフ全員が笑顔で誠実におもてなしをいたします》 を掲げている。 [caption id="attachment_83900" align="aligncenter" width="1000"] 桜宮ゴルフクラブ 受付[/caption] 2010年にクラブハウスをリニューアル、2019年には健康増進のための低酸素・高酸素ジムAORもオープンした。社会貢献として、ゴルフウエアの古着を集め、釜ヶ崎の労働者に寄付する活動を10年前から始め、関西ゴルフ練習場連盟も巻き込んで実施している。 今後の課題について川﨑社長は、「若い世代のリピート率を上げ、スクールの定着率を上げていくこと」 と回答した。次代を担う同氏は「ゴルフと健康」にも学術的に取り組んでいるという。川﨑会長、川﨑社長とも大学は理科系だけに、合理的かつ新しい切り口で練習場業界に新風を吹き込んでいる。「元気に楽しく」という言葉が、練習場活性化のキーワードになると感じた。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2024年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら [surfing_other_article id=83584][/surfing_other_article]