「実は私も1時間のトレーニングを4回して、スイングが劇的に改善されました」
そう話すのは凸版印刷の日下部美樹さん(情報コミュニケーション事業本部)。
「突破するトッパン」のテレビCMで業容拡大をアピールする同社は7月、スイング改善をサポートする「ループトレーニングシステム」(仮称)を発売。ゴルフ市場へ参入した。
日本体育大学と共同開発したもので、「ゴルフ部員とOBのプロを合わせ、36人のスイングを平均化した『標準動作』を可視化。その『標準動作』と自分の動作を比較して改善点を抽出し、可視化できる仕組みです」
具体的にはこういったことだ。
平均化されたスイングは、前腕、二の腕など15のパーツで骨格を形成する。これが見本スイングとなり、使用者は2台の広角WEBカメラで撮影して自分のスイングを骨格抽出。
スイング動作の骨格を重ね合わせてアドレス、バックスイングなどスイングの6つの局面で比較する。比較結果で重要度を7段階に分け、最も異なる点について改善点を指摘する。生活・産業事業部の河﨑昌夫課長が開発の背景を説明する。
「『標準動作モデル』は癖のない動作が可視化できる理論で、上達する過程で重要な『動作』が可視化できます。誰でも効率的にスポーツが上達するサポートが目的です。『試技→観察→指導→試技』の繰り返しが重要なので『ループトレーニングシステム』(仮称)と名付けています」
ゴルフ産業だけではなく、学校体育や部活動では、指導者不足や指導者の労働環境が大きな課題。これを解決することも目的だった。
「コーチの指導ノウハウをDX化することも、このシステムを開発した狙いです」(河﨑課長)
同社によれば、ヒトの動作は基本動作が7割で、個性が3割なのだという。その7割を改善することで、上達の時間短縮につながる。
当初はゴルフ市場と学校の部活動に焦点を合わせて展開するが、なぜ印刷業界のトップ企業がスポーツの領域に進出するのか?
「東京五輪をスポンサーしたことがきっかけですが、印刷業で培った静止画や動画の画像処理技術を活用できる分野を探していました。美術資料のデータ化はもちろん、3次元でのVRシアターなど、画像加工技術を活用したDX化を推進しています。その中で、スポーツにおいては『お手本』があることで様々な課題解決ができると考えたのです」
前出の日下部さんが、ゴルフ市場参入についてこう話す。
「ゴルフ界はシミュレーションゴルフや弾道計測器など、最先端のセンサー技術で親和性が高い。また、スクール市場はガジェットリテラシー(弾道測定器など電子機器への意識)が高い分野で、当社のテクノロジーで参入しやすいと判断したのです」
システム価格は100万円から。社内には営業専任チームを置かず、3万件の取引先コネクションを使って展開する。他のスポーツへの参入も視野に入れ、2023年度は売上20億円を目標に定める。
3万件の取引先には、学校関係者も多いはずだ。ゴルフの部活動だけではなく、一般教養科目の体育でゴルフを採用する大学も多い。指導教員は必ずしもゴルフが上手なわけではないから、指導者の「指導技術向上」に、このシステムが威力を発揮するかもしれない。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら