今年で創業10周年を迎えるSTMは6月、同社初となるエラストマー製パターグリップ『CHECK MATE(チェックメイト)』2タイプ(Kingキング、Queenクィーン)を投入する。
まずは動画で
STMは2020年7月、国内一貫生産へ舵を切った唯一のグリップメーカーだ。敷地面積300坪、成形機をはじめ混合機や乾燥機など1億2000万円を投じ、ヘッド塗装、研磨ブースも完備する自社工場「STM FACTORY BIWAKO」を訪問し、企画戦略開発室の尾崎大陸室長に話を聞いた。
GEW 今回、STM初のエラストマー製パター用グリップがいよいよ登場です。
尾崎 はい。10年の歳月をかけて完成したのが、『チェックメイト』。エラストマー素材でサイズの異なる95gの『キング』(3300円)と72g『クィーン』(3000円)の2タイプを発売します。
GEW 『キング』の製品特長は。
尾崎 まず、重心位置に拘った形状になっています。エビデンスについては、プロゴルファーが使用するパターグリップ形状について独自調査を行い、それに基づいてグリップの設計を行いました。
GEW グリップにおける重心位置の重要なファクターとは?
尾崎 中心部へ重心配置することにより、インパクト時のフィーリングがより手に伝わりやすくなります。やや細めの『クィーン』の考え方も同様です。
GEW 一般的なグリップはどのような構造になっている?
尾崎 通常は太かろうが細かろうが、必ずどちらかの面積が大きくなります。また、真っ直ぐにすると重心位置がどうしても下がってしまう。手元&ヒール側に行きがちな重心をより中心へ持ってくるように設計したのが『チェックメイト』で、下側の肉厚を薄く成型し、手から様々な情報を獲得できるようになってます。
GEW なるほど。それから、パター用なのにグニャとやわらかい。
尾崎 内部構造の肉厚を太くして、グリップ自体のやわらかさを出しています。これにより、握った時の感触がさらに良くなるんですよ。ピストルタイプ(型)のパターグリップは、エンド側が太くなっていきますが、チェックメイトの場合、太さを平均的に保った構造です。
独自のエンドキャップ成形でストローク中の捻じれを解消レーザーエンボス加工で差別化
GEW でも、やわらかくしてしまうとストローク中に捻じれが生じないですか。
尾崎 解決策として、エンドキャップ側へ工夫を施しました。通常10㍉のところ約35㍉と通常よりも深くさらに硬く成形することにより、グリップエンドの差し込みが安定、接着面が増える仕組みです。ここをストローク中のグリップのねじれ解消に繋げています。
GEW よく見ると、グリップエンドにマークが刻印されてますね。
尾崎 『キング』はライフルマーク、『クィーン』には七宝をあしらってます。それぞれ、「狙い撃ち」と「人を幸せにする」という相反する願いをグリップに込めました。ここは遊び心ですね。
GEW 手にフィットしそうな細かなデザインが無数に施されている。
尾崎 はい。全体にカーボン調のデザインを採用し、特に『キング』では、太い形状でもよりフィット&ホールド感を出すために、0・7㍉のカーボンエンボス加工を施しました。平面部分の平織状からアーチ型へエンボスが来ているので、実際に握ると、通常よりも細く感じられる効果も得られ、細く感じるというか、潰れる分だけ太く感じすぎないというメリットがあります。
GEW 一方の『クィーン』は、石畳のような市松模様になっている。
尾崎 市松模様の中にさらに細かい柄を施しています。この加工があるかないかでまったく違うグリップ感になるんです。基本的に他メーカーと違うところは、ひとつひとつの四角形の模様が異なるのでグリップ力がさらに増す点。『チェックメイト』はレーザー表面加工による非常に精度の高い金型を用いており、ゼロコンマミリ単位で装飾ができるようになりました。これは世界初の技術です。
GEW 『キング』、『クィーン』それぞれの対象者は。
尾崎 手の大きさや手に持った時のフィーリングが前提になりますが、細いグリップ(クイーン)は、よりストローク中に動かしやすいというメリットがあるので、基本的には開閉がしやすいヘッド形状、ピンタイプなどに合っているのではないかと思います。一方、太いグリップ(キング)については、ネオマレット等の大型ヘッドにマッチするでしょう。
GEW 製品化まで苦労した点は。
尾崎 やはり一番は、重心を中心に持ってくるための「グリップ形状」ですね。アーチ部分に対してどこにシャフトが通るか、という部分に多くの時間を費やしました。6月からは、自社開発による金型製作が本格スタート。生産効率はもちろん、製品開発のスピードが飛躍的にあがります。さらに妥協のないモノづくりができる体制が整いますので楽しみにしてください。
STM初のエラストマー製パターグリップ『CHECK MATE』2タイプを投入 国内一貫生産の強みと歩み
滋賀県長浜市にSTMが誇る自社工場「STM FACTORY BIWAKO」がフル回転で稼働中だ。敷地面積300坪、成形機9台をはじめ温調機8台、混合機や除湿乾燥機など1億2000万円を投じ、ヘッド塗装、水洗&研磨ブースも完備する。
「エラストマー素材では国内最大規模でしょう」
と、話す同社の野田高久工場長は容姿端麗で、プロゴルファーであり工房マンでもある。その野田工場長に導かれ新工場を見学した。
グリップ製造ラインに整然と並んだ射出成形機は、2年前の竣工時よりさらに2台増え(計9台)、黙々と加工をこなす。事前にコンピューター制御された混合機に材料を配合すれば、色ムラが発生することなく量産可能だとか。
一連の設備により、24時間・週7日の稼働を実現するが、
「現状の生産キャパは、30名体制で月産約8万本・年間100万本。人材を育成しながら早い段階で年間120万本体制にしたい。6月より金型製作も自社で行いますので、製品開発のスピードも飛躍的に上がるでしょう」
と鼻息が荒い。
国内生産のメリットとは
標榜するのは、「国内最大のOEMグリップ製造メーカー」で、既に大手クラブメーカーや地クラブのグリップ生産にも着手している。以下野田工場長との一問一答を再現しよう。
GEW国内生産のメリットは。
野田「まず、開発・設計部門は国内が中心なので、生産もそこに近いほうがいい。カントリーリスクが少ないことも良さですね。海外では単純労働が基本で、人材のレベルにもバラツキがある。それに対して国内では、現場の創意工夫によって、工場が自ら進化し成長する。また、当社では一人が複数工程を担当するセル方式を導入しているので、効率的な生産ができるよう、一人ひとりが考える余地があります」
GEW例を挙げると?
野田「技術的にはさらなる自動化も不可能ではありませんが、費用対効果を考えると、現段階では人手の方が適した工程はまだ多い。グリップの色付け(ブランド刻印部分)はその最たる例で、機械と人手を最適な形で組み合わせています。そこで今回、2次加工をはじめ検品、梱包まで行う加工場を別棟で増設しました」
GEWデメリットは?
野田「金型は中国製と比べると割高になりますが、ここは考え方の違いですね。日本製は世界トップクラスで非常に品質が高く、その耐久性は比べ物になりません」
GEW納期は?
野田「スタンダードな色合いでしたら500本で基本30日。自社工場稼働後はオリジナルで多種多様なカラーが作れるようになりました。小ロット対応も可能です」
GEW塗装と研磨スペースも本格的ですね。
野田「グリップ以外のOEMも必要な事業と考えていて、ゴルフメーカーと海外工場を繋ぐ中継基地になれれば。既にいくつかのメーカーと契約していますが、国内でどれだけのスペースと設備を持っているかが問われますし、まだ一棟空いているのでそこでアセンブリもできる。メーカーと海外工場との間にいくつもブローカーが入っているケースも珍しくなく、そこをクリアにして、メーカーのヘッド修理はもちろん再塗装も忠実に再現する。中国から納品されたクラブが国内でメンテナンスできるような雛形を作りたい。時間と手間を大幅に削減できるはずです」
GEW3年後の目標は。
野田「我々は後発でエラストマー素材のグリップメーカーとして参入しましたが、ナショナルブランドの採用がまだまだ少ない。エラストマー素材の特性を持って、国内生産でこういうモノが作れますよ、というのを理解してもらうのが先決だと考えています。日本国内で一緒に開発に取り組み、素晴らしいグリップが作れるのであれば、海外で作る必要はありません。まずはそこをアピールしていきたい」
GEW5年後は。
野田「様々な会社に工場を見てもらい、グリップの生産をSTMに任せたい、開発を手伝ってほしいというカンパニーになっていたいですね。見学はいつでもウエルカムです」
野田工場長はこの工場を「夢ファクトリー」と名付けた。ニッポン生産の物語はこれからも続く。