【プロからの学びで 弾道計測器は不要】
JR総武線・錦糸町駅と両国駅のちょうど中間地点に、ひっそりと営業しているのがゴルフクラフト・アオキ。工房を一人で切り盛りするのが青木克典美社長だ。
同氏は高校卒業後、練習場で働きながらプロを目指す。その後、ゴルフ場での研修生を経て、都内の工房で4年ほどリペアの修業を積んだ。年号が平成に変わってから独立している。
「高校三年生の夏頃に進路を考えて、サラリーマンは無理だと思いましてね。それで、知人がゴルフをやってみればと。モノになるかどうかわかりませんでしたが、挑戦したのです」
研修生時代は給与3万円でギリギリの生活。ゴルフ場が経営難に陥ったのを機にプロを断念し、リペアマンの道を選んだという。
「自分のクラブは自分で修理できましたが、お金を頂ける腕ではありませんでした。そこで工房で修業したわけですが、修業中は喰えなくて。それで、独立したという経緯です」
この道30年のベテラン工房には、弾道計測器の類いが見当たらない。それを問うと、職人らしい答えが返ってきた。
「若い頃はジャンボさんを始めトッププロの練習を見させてもらい、スイングの音を聞いてヘッドスピードを想像したり、打たれたボールを拾って打痕やキズを見て球筋やスイングを勉強しました。だから、計測器がなくてもおおよそのヘッドスピードはわかります。計測器等を開業時に全部揃えると、お金がかかって商売が続かない。だから工房が出ては消え、出ては消えを繰り返すんです」
昔ながらの工房マン。同氏は取材中、一度も「フィッティング」という言葉を発しなかった。そのあたりに頑固さと矜持が伺える。
【グリップの刺し方でシャフトが生きる】
青木社長が個々のゴルファーにとって良いクラブ、合っているクラブは何かを説明してくれた。
「まず、ワッグルしてシャフトが動くクラブです。シャフトが生きていて、クラブの組み方で性能の生き死にが決まります」
同じヘッド、同じシャフト、同じスペックで組んでも、シャフトが生きる組み方があるという。その組み方は秘密だというが、少しだけ教えてくれた。
「グリップの刺し方です」
具体的には、下巻きテープのらせん巻きにおける重なり具合や、グリップの長さに対する下巻きを巻く長さ、厚さだという。組み立て途中のクラブと見せてもらうと、そのテープの重なりは1mm。
「昔はグリップの長さに10.5インチという基準があって簡単でしたが、いまはグリップの長さはもちろん、太さや重量もまちまちで、シャフトを生かすためのテープの巻き方も様々です。重要なのはグリップの中でシャフトが遊ばないこと」
グリップの中でシャフトが遊べばクラブは柔らかく感じ、逆に下巻きテープが厚すぎればクラブは硬く感じる。硬く感じれば、ヘッドも軽く感じてしまう。
「同じスペックで組んでも、ヘッドが『効いている』、『効いていない』と感じるのは、グリップの刺し方によるんですよ」
同氏は若い頃、マグレガー、ウイルソン、パワービルトのカタログからもリペアを学んだという。
「しなるということは振るということで、そもそもゴルフ用語に打つ=HITという言葉はないんですよ。振るということは、しなるということですから、良いクラブというのはしなるクラブだと学んだんです」
そんなベテランクラフトマンでも苦手なものがある。それはインターネットだ。
【二日で閉じたホームページ クラブは対面で調整する】
青木氏は同店開業後、一度移転している。その時に知人に依頼してホームページを作ったが、
「HPを開設した初日に150件ほどの問い合わせが一気に来た。『値段はいくら?』『シャフトは何がオススメ?』といったもので、クラブもスイングも見てないのに対応できるはずがありません。答えられないし、上手に表現できないから、二日で閉じました(笑)」
長年工房を営んでいると同じようなことがあるという。
「最近ですが、大手ECサイトがオーダークラブを販売するので専属での組立を依頼したいと電話がありました。もちろん、断りましたよ。ゴルファーが誰かわからないし、責任持てませんから」
常連客は100人ほどで、長年の口コミでゴルファーが集まる。レベルを問わず誰が来ても応対している。
「クラブが正常に動けばゴルフは楽しくなります。スコアは後からついてくるものだから」
職人歴30年のリペアマンは、ゴルファーとクラブに相対しながら、経験と目だけで最適な一本を提供している。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2018年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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