【積極的に練習場を活用しない 練習場内の工房経営】
千葉県市川市塩浜。首都高速湾岸線から海側に見えるエーススポーツプラザ市川。その施設内でひっそりと工房を営むのがKSクラフト。ゴルフ練習場とテニスコートを有する施設の階段下の約6畳のスペースが工房だ。
狭いながらも、常連客60人をはじめとするゴルファーのクラブをフィッティングするのが斉藤敬司氏だ。
学校を卒業後、ゴルフ練習場に3年間勤務。その後、5年間ゴルフ業界から遠ざかるもゴルフが好きで、再度練習場の工房で3年ほどクラフトマンとして修業。31歳でエーススポーツプラザ内に工房を構えて20年。クラフトマン歴は、それ以上のベテランだ。
「当店のお客様は7割が練習場から流れてきたゴルファーで、工房だけの利用者は3割ほど。スコアレベルは80台が多く、市販のクラブでは物足りないという方が多い。やはり、自営業のゴルファーが多いですね」
練習場施設内の工房ということで「地の利」を活かした営業をしているかと思いきや、
「打席に顔を出して積極的にセールスすることはありません。売上に苦労していた若い頃はヒマだから『クラブを買って下さい』と言わんばかりに、打席に顔を出していましたが、練習中のゴルファーは球打ちに集中している。それを見極められるようになってから、ヒマな時間はなくなりました(笑)」
このあたりは、場所を間借りする身の配慮もあるだろう。
ところで、クラフトマン歴四半世紀のこだわりのひとつはグリップにあった。
【グリップの素材、シャフトの径で 使うテープ、巻き方が変わる】
斉藤氏はグリップ交換で3つの両面テープを使っている。NCAバッファロー、NITTO(白)、NITTO(茶)だ。
「当初はNCAバッファローの厚いタイプのみを使っていましたが、あるときエラストマー系のグリップをDGに装着したんですよ。そしたら一ヶ月後くらいにズレが生じましてね。グリップの材質と内径、シャフトの径やステップなどで生じる『ツキ』の悪さなのでしょう。それから3種類を使い分けるようになりました」
ほかにも例はあるという。
「特に薄肉なグリップとステップのあるシャフトは、形状的な相性の悪さが露呈して『ツキ』が悪い時がありますね」
そのような場合は、
「グリップのティップ側だけ二重に両面テープを巻くなど、そのグリップの材質と内径、シャフトの形状を鑑みて巻き方を変えています。だからと言うわけではありませんが、常連客の巻き方はすべてノートに記録しています」
同店のグリップ交換料は700円と工房の中でも高額な部類に入る。だから、
「しっかり責任を持ってグリップ交換をしていますよ」
と語気が強まる。プロの仕事というわけだ。そのグリップ交換の技術力の高さは、工房経営にも大きく関わるという。どういうことなのか?
【グリップ交換は工房の 技量や丁寧さが分かる作業】
斉藤氏が説明する。
「例えば、スーパーストロークのパターグリップなどは、グリップの内径がパラレルに近い。ところがパターシャフトの外径はテーパーですから、ティップ側に大きな隙間ができます。先の話と同じで隙間ができる部分は両面テープを多重に巻いて隙間を埋めますが、多重に巻くので厚さが1mm以上になってテープの色が見えてしまう。それをマスキングしてマジックで黒く塗るのです」
それほど細心の注意でグリップ交換を仕上げれば、
「ゴルファーは継続して来店してくれます。実はグリップ交換作業が一番簡単に、クラフトマンの技量や作業に対する丁寧さを測る尺度なんです。テキトーにグリップ交換をやっていれば、その気持ちはゴルファーに伝わるもの。だから、グリップ交換は気が抜けない作業なんですよ」
もちろん真っ直ぐグリップが装着できているのは当たり前。斉藤氏は、
「光の差し込む方向によって、真っ直ぐにグリップが装着されているかの見え方が変わります。だから前後左右、違う方向から太陽光が当たるように4方向で構えてみて、グリップが真っ直ぐに装着できているかどうかを確認するのです」
たかがグリップ交換、されどグリップ交換である。
グリップはゴルファーとクラブの唯一の接点。そこを疎かにしないことが、ゴルファーとの信頼関係を築いていく最初のステップといえそうだ。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2018年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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