工房探訪 2018年2月号 研磨されたヘッドの精度は 熟練店主の「気づき」で向上する ビジーゴルフ 向後敏幸氏

工房探訪 2018年2月号 研磨されたヘッドの精度は 熟練店主の「気づき」で向上する ビジーゴルフ 向後敏幸氏
【自分で覚えるしかない技術 数をこなしてきた21年】 千葉県印旛郡酒々井町。2013年に「酒々井プレミアム・アウトレット」が開業して脚光を浴びている街。JR酒々井駅と京成酒々井駅から徒歩5分の国道沿いで営業するのが、ビジーゴルフ。工房を一人で切り盛りするのが向後俊幸氏だ。 同氏は四半世紀前、研修生を経て千葉県成田市のゴルフブーマー(GB)へ就職。当時GBは日本橋(東京都中央区)でも店を構えており、そこでリペアの基本技術を学んだという。 あの頃はパーツをコンポーネントクラブと呼んでいた時代。そのなかで、一世を風靡した「ツアーチャンプ」が主催する3泊4日の工房研修に参加したこともあるという。ただ、 「GB日本橋店も工房研修も同じで、基本的なクラブの組立方法を学んだに過ぎませんでした。それ以外は、数をこなして自分で覚えていくしかありませんでしたね」 GBに6年ほど勤めて独立。当初は成田市に店を構えたが、17年前に酒々井町に移転した。 「当初は中古屋で、売上の7割が中古クラブでした。いまでは8割が修理を含めた地クラブ販売ですが、儲かっていませんよ」 と、苦笑い。それでも21年も続いており、年間50万円以上クラブに費やす地クラブユーザーからの信頼も厚い。 「お客さんのほとんどが60歳代の自営業の社長さん達で、地クラブは高級品で希少性が高いことを認識しているギアマニアが多い。その人達に支えられています」 なかには新商品にめっぽう強い「カタログさん」なる御仁もいるとか。そんなギアマニアに施す向後氏のフィッティングとは? 【細部を見ずに俯瞰する 肝はスイングプレーン】 10坪の店内には、いまでも中古クラブが並ぶ。もちろん、地クラブの試打クラブも常備しているが、試打ブースは備えていない。 「基本的には試打クラブを貸して、練習に同行することが多いですね。フィッティングのポイントは、スイングプレーンです。細部は個人のスイングの癖で、直すのはレッスンプロの役目ですから、あまり細部は見ませんね」 例えば、アウトサイドインのスイングは、基本的にスライスの弾道になる。しかし、スイングプレーンがアウトサイドインで、さらに左に曲がるゴルファーは、クラブを振る方向が左向き、それに加えてインパクト時のフェースの向きが問題なのだという。 そこでインパクト時のフェース向きを注視して、最適なヘッドとシャフトを見つけ出すのだとか。 「それと、当店のゴルファーは使いたいヘッドが大体決まっています。なので、多くのケースはシャフトで調整しています」 長年ゴルファーと対峙していれば、ゴルファーの習性を深く理解できるのが工房店主。だから、 「スコアが100を切れなくても、マッスルバックのアイアンを使いたいゴルファーはいます。それを否定するのはゴルフ屋として違和感がある。ギアを楽しむこともゴルフの楽しみのひとつですから」 もちろん、フィッティングという作業では、マッスルバックは「芯が狭い」「球が上がりづらい」などのデメリットを説明する。しかし、それ以上に気を配っているのは、ゴルファーには見えない組立の精度だという。 【国産アイアンはもっと 価格に見合った精度を!】 クラフトマン歴21年の向後氏には、新進気鋭の工房マンにはない細やかな気遣いがある。 「例えば、国産の軟鉄鍛造アイアンは、人の手による研磨作業が大きな役割を果たしていると思いますが、ネックが真っ直ぐではない、ホーゼルの口が水平ではないことも多いですね」 研磨は手作業だから多少は理解しているが、高級な商材だからもっと精度を高めて欲しいという。 「ホーゼルの口が水平ではない場合は、大きめのソケットを装着して、ネックとソケットの隙間を埋めてソケットを研磨します。あと精度の面ではロフトです」 例えば、5番アイアンが基準ロフトより1度立っており、6番アイアンは基準よりも2度寝ている場合、ロフトは標準ピッチに加え3度の開きがあって、 「ウチではクラブ長を60度法で計っていますから、ロフト調整をしないままクラブを組み立てると、クラブ長でプラス1mm前後の差ができてしまいます。ゴルファーは気づかないかもしれませんが、そこは気をつけています」 だから、リシャフト時には必ず、組立前にライ・ロフトの調整を行う。それによって、クラブ長の僅かな差を未然に防ぐという。それが熟練店主の気づきであり、クラブの精度が向上するのだ。 「ロフトの精度も先のホーゼルも同じですが、ゴルファーは地クラブが高価なのは、高品質、高精度で希少価値があるからだと理解しています。そのゴルファーの期待に応えてもらいたいですね」 昨今、純国産ヘッドのニーズが高まっている。だからこそ、ベテラン工房マンの言葉には説得力があるといえるだろう。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2018年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら