月刊ゴルフ用品界2018年4月号「地クラブの神髄」掲載。
精度道――。
斯様な言葉は存在しない。敢えて、存在するとするならば、精度の道を究めし男・ゴルフギャレーヂ代表の中井悦夫のための言葉。
本物の“クラブチューンナップ・メンテナンス・リペア・オーダーメイド”を求め、辿り着いたのが測定器の開発。
基準が在ってこそ調整が可能となる。開業から四半世紀を経て、漸く時代が追いついた。その想いには「計る」ということに対する神髄があった。
神髄一 計るということの定義

不幸にして計ることの意義は、クラブ販売の不振によって見直された感がある。ゴルフ人口が減少し、趣味志向の広がりが、ゴルフから人々を遠ざけて、ゴルフ用品の販売がままならなくなった。メーカー各社は、それぞれの試行錯誤の中で、クラブ販売に工夫を凝らす。しかし、メディアやSNSの普及によって、消費者が工業製品としてのゴルフクラブの製造精度の低さを認識している。
ゴルフギャレーヂの中井悦夫は、
「クラブ販売の低迷が、チューンアップやカスタマイズなどの優良なサービスに業界全体の目を向けさせたが、そこに必要なのが、まず、クラブを測定するということと、その基準となる『計る』ということの定義」―。
その原風景は1995年に遡る。R&AのA・J・コクラン技術顧問が来日。英国大使館でR&A用具関係改定規則セミナーが開催された。1996年からの規則変更についての連絡や新規則の条文の説明、図面の解説やR&Aの解釈、見解が配布された資料にもとづき順次進められた。
その中で、中井が注目したのは、「規則第4条第1項のパターのロフトは10度を超えてはならない。またライ角度は80度を越えてはならない」という項目。
中井は、その測定基準について、
「クラブの設計上、持ち合わせる角度即ち、ロフトやライ角度の規制を今回訴えるうえで、角度そのものをR&Aではどのような測定器、計測器を使い判定しているのか?」
ということを問いかけた。しかし、R&Aの見解は、
「オフィシャルなゲージはR&Aには存在しない。有るのは大きなテーブルに載せた大きなプロトラクターで、テーブルの上で提出されたクラブにプロトラクターをあてがい、ルール上超えて違反しているならダメとし、よほど超えていなくてもスコアに影響し、その差が出そうであるものもダメとする」
というものである。ゴルフ規則を統括するR&Aですら曖昧。中井の疑問は、基準となる測定器が存在しない状況で、「パターのロフトは10度を超えてはならない」という規則自体が画餅に期すということにほかならない。
中井が強調する。
「数値がなければ、クラブの管理すらできない。基点があるからフィッティング、チューニング、アジャストができる。経験といわれるが、経験は伝承できず、技を教えるにも数値化が背骨となる」―。
計ることの意義は、クラブが工業製品として、そして調整できる道具として、基準なくしては、調整すらできないということを表している。
基準器がなければ、作るしかない。それがゴルフギャレーヂの求めたクラフトマンシップの原点となる。
神髄二 シャフトは平行に非ず軸線を据える意義
ゴルフギャレーヂの測定器開発は、初期バージョンの『オリジナルクラブアングル測定器』の開発まで、十余年を要している。

「私は図面を書けない。しかし、どの様に計れば、正確なのか把握していた。だから、台湾メーカーの測定器を元に、機械屋に依頼して試行錯誤を繰り返した」
ゴルフギャレーヂの隅にいままで試行錯誤した測定器が、無造作に佇んでいる。
奇しくも、1988年1月、日本ゴルフ用品協会は「ゴルフクラブの基準」を制定。中井は、その「基準」に対して文字通りに計測できる機器の開発を目指した。肝は、ライ角。
「ヘッドの角度は、ライ角、ソール、フェースアングルの3次元で動くと考えなければならない。現代のクラブは、パーシモンと異なり、ソール形状が複雑だから、それをクラブ構造の理論に沿うよう、ライ角を固定することからクラブの測定は始まる」
しかし、それまでの測定器と呼ばれる機材はシャフトの側面に分度器をあてて、ライ角などを計測していた。
「特にスチールシャフトは、ステップのあるシャフトとノンステップでテーパーのついたシャフトがある。シャフト軸線と端面は平行ではない。そこには角度があって、軸線との誤差が生じる。その誤差はライ角やフェースアングル、ソールに大きく影響する」
既存の計測器では、ステップ付のシャフト、ノンステップのシャフトにそれぞれ、同じヘッドを装着しても、シャフト側面に分度器をあてる測定方法では、ヘッドの測定値は異なる。だから、シャフト軸線上を基準として、測定器にクラブを装着する。
理に適っている。そして生まれたのが、初代の『オリジナルクラブアングル測定器』である。その測定方法は特許が認められ、発売後20年弱で120数台を販売。アイアンだけが計測可能でウッドやパターは測定できない機器や、左利きのクラブは測定出来ない機材はあった。しかし、シャフト軸線を基準として測定可能な機器はなかった。
「思うような弾道にならない。それは一流プロが悩むクラブに対する不安の根源です。しかし、クラブが曖昧な測定基準を元に調整されている。それでは、幾ら調整しても意味がない。だから、理に適った測定器が必要なんです」
一般アマチュアゴルファーなら尚更だ。標記ロフトから掛け離れたヘッドのクラブを使い、その標記の間違いに気付かなければ、いつまで経ってもゴルファーは自己の技術力の低さを上達しない理由だと思い込んでしまう。ゴルフが上達せず、プレー継続の妨げとなる。

その意味でも、正確な、そして論理の破綻を来さない測定器の存在意義は業界全体において、有意義であるといわざるを得ない。それはヘッドの測定だけではなく、シャフトに関しても同様である。
今般、日本ゴルフ用品協会は「ゴルフクラブの『スペック測定』に関するガイドライン」を改定、開示しているが、そのガイドラインに基づいた測定を可能とする機材は、特許商材であるゴルフギャレーヂ製「オリジナルクラブアングル測定器」以外にない事実がある。
それに加え、ガイドラインとして測定方法が明文化されたにも関わらず、測定器のオフィシャル化を推奨しないことに対して、中井の疑問は残るばかりである。
神髄三 統一基準があれば規格に惑わされない
インターネットが世界を繋ぎ、SNSが個人をメディア化する。その中で、多くのゴルファーがクラブを評価し、ゴルファーに情報を提供している。しかし、それは誰しもができることがゆえに、ゴルファーを惑わせることに成りかねない。そこに警笛を鳴らすのが中井である。
「クラブやシャフトの試打インプレッションをネットやSNSで掲載される人が多くなっています。しかし、製品個々の測定値を元にしておらず、リベラルな印象ではない場合が多い。それゆえに、一般ゴルファーが惑わされるケースがある。間違ったフィッティングに繋がることも散見される」

それに加え、特にシャフトは大量生産の弊害によって、製品の直線性に大きな公差があると中井は指摘する。さらに、シャフトメーカー各社の計測方法は異なっており、ゆえに一元的にシャフトの挙動を比較検討することが実質不可能となっている。
「そこで開発したのが、センターフレックス値・剛性値がシャフト軸周り360度方向で測定可能な『マルチシャフトアナライザー』という計測器」―。
シャフトを360度、シャフト軸線を基準に回しながら、各所の剛性値、スパインなどの検出も可能。左右のシャフト固定部が直線上、自在にスライドして中央のシャフト圧縮部分が水平に動くのでシャフトの全長にわたり、先部分・中部分・元部分の圧縮剛性値がシャフト軸全周方向、規格幅の中で測定できる測定器だ。
「特にシャフトの測定基準がメーカー各社で異なるなか、『マルチシャフトアナライザー』によって、シャフトの曲がり特性や捻れ特性を数値化して一元管理ができる。複数のシャフトブランドのモデルでも、同じ基準で比較ができる。ひいてはメーカーのスペックや試打インプレションに惑わされることなく、シャフトの特性を理解し、フィッティングに生かすことができるのです」
シャフトに関して中井が警笛を鳴らすことが、もうひとつある。それがシャフトの曲がりである。先に中井が述べるように、クラブが規格通りに製造されていなければ、ゴルフの腕前は向上しない。その最たるものが、シャフトの曲がり。
「工業製品である以上、公差は必ずある。そしてシャフトは公差以上に大きく曲がっている事も多い」
そこで開発したのが、『シャフト軸直線性検査器』。シャフトのみならず48インチ460㎤のドライバーからパターまでの完成品クラブでのシャフト直線性が測定可能で、ダイヤルゲージを使用する事で直線性が目の当たりになる。
「曲がったシャフトでは本来の挙動が制限されて上達しない」
それはゴルファーへ、そしてクラブを組み立てる工房のクラフトマンへのメッセージである。その言葉には、クラブへの熱い想いが垣間見られる。
もちろん、「オリジナルクラブアングル測定器」「マルチシャフトアナライザー」以外にも、同社では稚拙な機材が多い中で「正にプロ用チューンアップ機材」を多く取り揃え、長年多くの工房やメーカーに機材を販売していることが、何よりも高精度な基準の必要性を証明している。
神髄四 造り手ではなく使い手を満たす

近年、地クラブ・工房ビジネスが注目を浴びている。中小メーカーから独立して、地クラブメーカーを興す者。それに呼応するように研修生やゴルフ好きが高じて工房を開く者が後を絶たない。活性化をいう論点では、喜ばしい事だが、ゆえに工房間で技術格差が叫ばれている。
「最近では、ヘッドとシャフト、そしてグリップを装着する作業自体が簡単にできると誤解され、誰にでもできると思われている。ただ、そこに基準もなければ資格もなく、それが問題であることは周知の事実。その問題をクラフトマンとして解決したい」
米国には、プロフェッショナル・クラブメーカーズ・ソサエティー(PCS)なる団体が存在した。現在は、その代わりとなるインターナショナル・クラブメーカーズ・ギルド(ICG/米国ゴルフクラブ技師協会)が存在する。
共に工房を意味するクラブメーカーのクラフトマンの技術向上や情報共有化などを目的に、統一基準の制定、クラブ組立方法やフィッティングに関するノウハウを一元化して、ゴルフ産業の底上げに尽力している。
そのような中立的且つ基準となる知識、測定方法、作業工程などを一元化して地クラブ・工房ビジネスの健全な成長に寄与したいと考えるのが中井である。
「クラフトという仕事の重要性を説いていきたい。どのような考えで、そのクラブを組み立てるのか? それが重要であることは間違いない」
中井の夢は、日本版PCSの構築である。そのために、基準となる、そして理に適う測定器を作る。もちろん、自ら工房マンとしての疑問が、それらの測定器を世に生み出した。
中井に師事した門下生は10人を超え、業界で独立し盛業中の組織化した実績もある。しかも、確固たる技術を有した店にゴルファーが集約される傾向も顕著だ。そこで重要なのは、
「組み立てるクラフトマンの満足度よりも、信頼してクラブをクラフトマンに預けてくれるゴルファーの満足度を優先しなければならない」
中井が生み出した様々な測定器は、4つの特許、2つの意匠が登録されている。原点は理に適う測定方法であり、そして測定可能な機器の存在が、ゴルファーの満足度を高めていくと信じて止まない。
「計る事の重要性」―。
大阪のいち工房店主が、長年想い、そして辿り着いた境地。それが理に適った計測。その神髄に漸くゴルフ業界が追いつきそうな気配である。
〈敬称略〉
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