西村弁護士渾身の記 ゴルフ版経済敗戦を総括する(6)
西村 國彦
お酒は飲めないしカラオケも駄目の営業下手の弁護士。そんな男が40歳を迎える年、ゴルフを始めたことから人生も性格も激変。ゴルフ大好き仲間を求めるオデッセイになって、世界を放浪。ゴルフエッセイも書く傍ら、法的に弱い...
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本稿はゴルフ場関連の「事件」に詳しい西村國彦弁護士が、主にバブル時代、ゴルフ場を舞台に展開された経済事件を総括する「渾身の記」。計8回の連載の6回目。
バブル崩壊からほぼ30年。低迷から抜け出せないゴルフ市場の今を、過去を振り返ることで整理し、今後の成長につなげるのが連載の主旨。なお、記事は弁護士歴43年のN(西村弁護士)と、N事務所で修習中のA司法修習生によるQ&A形式とした。
今回は国家的損失を来たした日本の「マネー敗戦」と、その中でゴルフ場業界が翻弄された生々しい事象を紐解いていく。
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マネー敗戦
N:世間ではよく、わが国の「経済敗戦」とか「マネー敗戦」という言葉が使われているが、どんなことだか知っているかな。 A:ハゲタカ外資にしてやられたことだと思うのですが……。 N:そのとおり。「ロッキード事件」で田中角栄が逮捕されて以降、日本市場からアメリカ市場に1000兆円規模の富が流出したという話もあるが、これは知ってるかな? A:いえ、私たちの世代は知らないことです。 N:僕たちはその渦中、最前線で仕事をしていたので、あとから知ったことも多いんだけどね。1985年(昭和60年)9月22日、竹下蔵相時代の「プラザ合意」あたりが、対米経済従属の始まりだったと言われている。 日本の円安・ドル高是正のため、金利自由化と金融市場開放を米国から要求され、丸呑みさせられた。その会場がニューヨークのプラザホテルだった。 A:戦後、政治的には対米従属のもと、日本は奇跡的な経済復興を遂げたと理解していますが……。 N:わが国は戦後の日本国憲法制定と冷戦下、非戦を前面に出したため、軍事的には米国支配を甘受した。その結果、朝鮮戦争で経済復興し、その後「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われるような、米国もうらやむ成長があったけど、それがベトナムで深く傷ついた米国を刺激したのだろうね。 A:そして、新生銀行をはじめとして、ハゲタカ外資のあくどい手口を招いたわけですね。 N:そうなのだ。一時、宮崎フェニックスを保有したリップルウッドは、ゴールドマン・サックス出身者たちの会社で、ゴールドマンの別働隊とも言われていたんだ。 A:どんな話でしょう。 N:2000年頃、旧長銀(日本長期信用銀行)が破綻して、新生銀行として米国のファンド、リップルウッドに売却された。その対価は、たったの1210億円だったのだよ。 A:確か日本政府は、7兆円の公的資金を破綻した旧長銀に投入していましたね。 N:あおぞら銀行(旧日債)分も含めると13兆円弱という話(紺谷典子)もある。そして新生銀行は、融資を選別し、旧長銀の貸出先のそごう、ファーストクレジット、第一ホテル、ライフ(信販)など、それなりの優良企業を倒産させたわけだ。 もちろん各社の内部は、バブル時代に腐っていたのだが、それはバブル時代の金融機関など他の企業と変わらないものだった。 A:新生銀行は、回収不能で損もたくさん被ったのでしょうね。 N:いや、そこには、しっかりゴールドマン流の仕掛けがあったのだよ。ハゲタカの「仕掛け」
A:どういったことでしょう? N:それはね、悪名高き「瑕疵担保条項」だ。 A:損失補填されたのですか。 N:凄いだろう。ここが、企業再生ビジネスプロのアコギなところでね。彼らは、取得した債権のうち、3年以内に20%価値が下がった債権は、預金保険機構に買い取らせる契約をしていたのだ。 A:ほんとですか? 再生ビジネスはリスクをとるから大もうけ出来るのだ、と思っていましたが。リスクがなければ超安全な取引じゃないですか? N:そう、リスクがあるギャンブル取引と見せかけて、まずはアコギなイメージやリスクを嫌う日本企業を排除する。でも最後にはリスクまでなくして、おいしい取引にしてしまうハゲタカの本性が表れているよね。 彼らは、実際のところ、預金保険機構に1兆円(あおぞら分含めると1兆6600億円)前後の不良債権を買い取らせている。 A:でも儲けたら、税金払ってわが国に還元しているのでは……。 N:彼らは本当のプロだ。税金をしっかり払わなくていいように、2003年には、日米租税条約を「改正」させ、日本に課税権をなくすよう仕掛けていたんだ。 しかも彼らは、非課税のオランダの投資組合に出資という形をつくって、本当に課税を免れている。 A:ということは、公的資金と瑕疵担保条項発動による不良債権の買い取り合計(新生では8兆円、あおぞら入れるとその倍額)は、日本国民の負担でハゲタカ外資がボロ儲けということですね。 N:小泉政権はその間数十兆円のドル買い支えを行い、その紙切れドルで米国債を購入した。つまり、日本の富がアメリカに流出し続けたわけだ。破綻への「6ステップ」
A:この間の流れをまとめると、どうなるのでしょう? N:順番に言うとこんな感じになる。 ①プラザ合意で円高・ドル安とともに低金利が要求される(1985年9月) ②1986年の前川レポートで、米国が要求する構造改革が日本の改革になり、誰も反対しにくいムードが広がった。 ③1987年2月、ルーブル合意で、米国が低金利を要求し、日本は株価と地価が高騰。1989年12月29日、日経平均株価3万8915円と市場最高値を記録したが、これは外圧バブル。 ④バブルの崩壊が演出され、日本株が空売りされる(1990年1月、円株債券トリプル安。バブル崩壊の始まり) ⑤株と土地への資金流出を止める総量規制が実行される(1990年3月27日)。これは「日本の政策当局」が「意識的にバブルを叩き潰したこと」であり、「日銀と大蔵省の逆噴射」と、前記紺谷は断定している。 ⑥1997年、1998年金融危機(三洋、拓銀、山一、長銀、日債銀破綻)。ゴルフ界のトップ企業だった日東興業の破綻も1997年末だった。 A:周到というか、恐ろしい筋書きですね。 N:その舞台に、日米政府のキモイリとして登場したのがハゲタカ外資というわけ。だから、日本の裁判所でさえハゲタカ外資をスポンサーして、彼らの大もうけを容認してしまったのだ。「西村コラム」古き遺産としての「ジャパン・アズ・ナンバーワン」
戦後日本の高度経済成長を分析して、日本的経営を高く評価した本があった。1979年、ハーバード大学の社会学者エズラ・ヴォーゲルが、アメリカへの教訓という副題で書いた70万部のベストセラー。それが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だ。 1970年代、2度にわたるオイルショックを、技術力と勤勉さでしのいだ日本経済は、世界から驚きの目で見られていた。 日本のものづくりは世界に知られ、ウォークマン、VHSビデオ、ファミコンなど世界を席巻したが、平成が終わり令和となった今では、見事に過去のものになった。 日本のゴルフ界も、毎年同じようなことの繰り返しをやめて、欧米やアジアで起こっている、想像を超える変化に敏感になろう。 日本でも、この21世紀、旧来の社会を変えていく尖兵・先兵たちが、傷つきながらも増え始めているはずだ。 ■参考文献 ・村松岐夫/奥野正寛『平成バブルの研究(下)』(東洋経済新報社2002年) ・浜田和幸『ハゲタカが嗤った日』(集英社2004年) ・紺谷典子『平成経済20年史』(幻冬舎2008年)おすすめ記事
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