「レジャー白書2021」が9月に発表されました。ゴルフコース人口は対前年比▲60万人の減少となっています。調査時点が2021年1月なので、2020年のデータと捉えます。その一方、12月に日経MJ誌が「2021年ヒット商品番付」にゴルフを小結としてランクインさせました。その根拠として、経産省の「特定サービス産業動態調査」における2021年9月のゴルフ場利用者数急増をあげています。こちらは文字通り、2021年のゴルフ産業の景況を基にしています。
双方とも、ゴルフ産業界としては信頼したいデータです。対象期間が微妙に異なりますが、片や「人口減少」、片や「ブーム到来」と方向性が反対となりました。これをどう統合的に捉えるのか、過去10年間のゴルフ産業需要関連データの推移を確認しながら考えてみましょう。
レジャー白書ゴルフデータの推移
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表1[/caption]
〈グラフ1〉に2011年以降のレジャー白書ゴルフ関連データ推移として、2011年以降のコース、練習場の「参加人口」と「参加率」を図示しました。2011年を100%としています。その印象は、
(1)毎年変動が大きい。
(2)10年間で▲30%以上減少した。
この変化は、肌感覚として「そうかな?」と思う業界関係者が多いのではないでしょうか。レジャー白書のデータはマスコミ、経済界、学会等でゴルフの現況や将来を検討する代表的なエビデンスとされますが、そのデータが暴れるのはゴルフ産業界にとってマイナスです。
まったく一致する参加率、人口の変動
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グラフ1[/caption]
また〈グラフ1〉によりコース、練習場とも参加率と人口の変動がピッタリ一致しています。そのため、「全体人口×参加率=参加人口」
のロジックで、ゴルフ人口を算出していると推定できます。レジャー白書2021の場合は、・ インターネット調査協力者から3264名アンケート調査する。・ 結果、その内173名、5・2%が「過去1年間にコースでプレーした」と回答した。従って、・ 全体人口(詳細未公表)×5・2% = コース人口520万人
と計算されたのです。回答者の3264名が全体人口を正確に反映していれば良いのですが、当然誤差は大きくなります。つまりレジャー白書のみで結論を出さず、常に他のデータとの相互比較で検証する必要があります。
ゴルフ産業需要比較データ
〈表1〉にレジャー白書以外のゴルフ産業需要関連データを対比しました。
(1)国勢調査ゴルフ対象人口
ゴルフ対象人口(筆者はゴルフ参加可能年齢を10歳〜79歳としています)を国勢調査から抽出しました。これは総務省による5年おきの全数調査であり、毎年10月1日時点中間データが公表されています。
(2)社会生活基本調査ゴルフ人口
やはり総務省により国勢調査翌年に全国20万サンプル規模で実施されています。レジャー白書とは桁違いの大規模調査・信頼度です。
(3)利用税コース入場者数都道府県税務課の協力を得て日本ゴルフ場経営者協会から毎年公表されています。これも正確で貴重な全数調査データです。
(4)、(5)特定サービス産業動態調査
経産省が民間調査会社に委託して集計されています。詳細は明らかではないが選抜した特定施設への定点調査と思われます。全需要量ではありませんがゴルフ場と練習場が区別され、月次、長期で時系列変動が掴める貴重なデータです。
(6)レジャー白書コース利用者数理論値「ゴルフ人口×コース平均利用回数=年間コース利用回数の合計」が成立します。これを「レジャー白書コース利用者数の理論値」としました。
たった173名のゴルファーで日本全体の平均利用回数を判定するのは強引ですが、これにより「利用税からみたゴルフ場利用者数」と相互検証が可能になります。
ゴルフ産業需要推移比較グラフ
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グラフ2[/caption]
〈表1〉(1)〜(6)数値の2011年を100%とする推移を〈グラフ2〉としました。すべて利用者数ですから各データの相互比較が可能です。((6)レジャー白書のコース利用者数理論値は変動が大きいので、3ヶ年移動平均値です。)各データを比較しましょう。
(1)国勢調査ゴルフ対象人口 対(3)利用税コース入場者数 比較(1)、(2)は全数調査ですから最も信頼できるデータです。両者の10年間推移はピッタリ一致しています。コースの入場者数はゴルフ対象人口に従って減少してきたのです。ゴルフ産業需要量がゴルフ対象人口量で決定することが最近10年間でも確認できます。
(1)国勢調査ゴルフ対象人口 対(6)レジャー白書コース利用者 比較
・ 2014年まではよく一致する。
・ 2015年以降レジャー白書コース利用者がゴルフ対象人口よりも連続して減少し、両者の乖離が大きくなっています。
(1)国勢調査ゴルフ対象人口 対(4)特定サービス産業動態調査ゴルフ場利用者数 比較(4)は(1)にはないさざ波が見られますが長期的には(1)に連動しており、(1)と(6)ほどの乖離はありません。(4)は全数調査ではありませんがゴルフ人口と忠実に連動していると考えて良いでしょう(1)国勢調査ゴルフ対象人口 対 (2)社会生活基本調査ゴルフ人口 比較 社会生活基本調査ゴルフ人口と国勢調査ゴルフ対象人口の推移も対比確認しておきます。2011年、2016年はゴルフ対象人口以上に減少していますが僅かであり、(2)も対象人口に忠実に連動しています。
ゴルフ産業はレジャー白書のみで判断できない?
以上から、2011年以降のレジャー白書ゴルフ関連データだけが、他のデータと異なる推移をしていることが明白となりました。レジャー白書のみでゴルフ熱やゴルフ産業景況を判断できないと言えます。
これは、調査の誤りとは言えません。統計調査には必ず統計誤差が生じます。とはいえ、筆者はそもそも全国ゴルフ産業需要量のような計量データを、インターネット調査の3246サンプルで判断しようとするのが無謀と考えます。
レジャー白書はゴルフのみが対象ではありません。
・ 他の余暇支出動向と毎年比較できる。
・ コースと練習場が区別されている。
という点では貴重です。今後も(1)〜(5)のような他調査結果と相互検証しながらゴルフ産業の現状・将来を議論する必要があります。特に乏しいゴルフ練習場データ 特に信頼できる全国ゴルフ練習場利用者数データがありません。今後さらにゴルフ対象人口の減少が続きます。新規ゴルファーの涵養はゴルフ界の将来を決定します。全国の民間営利ゴルフ練習場がどれだけ存続できるかが、将来のゴルフ人口量に大きな影響を与えます。
問題はゴルフ界、ゴルフ産業界自助努力データの欠如
「レジャー白書だけでゴルフ産業経営はできないよ」と訳知りになるのは良いのですが、問題は今回引用したデータにゴルフ界、ゴルフ産業界が汗して自ら(他人以上に)調査したデータが無いことです。(3)利用税コース利用者数はNGKの多大な貢献により得られていますが、一方でゴルフ界、ゴルフ産業界はこぞって「利用税撤廃」を運動しています。利用税が廃止されれば(3)はどうなるのだろうと気をもむのは、筆者だけでしょうか?
2021年ゴルフはヒット商品?
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グラフ3[/caption]
最後に「日経MJ2021年ヒット商品番付ゴルフ小結」を、本欄引用データで検証します。関連データの2019年(コロナ禍以前)を100%とする推移を〈グラフ3〉としました。
日経MJが、2021ヒット商品番付ゴルフ小結ランクインの裏付けとしたように、特定サービス産業動態調査のゴルフ場利用者数は2021年106%に増加しています。
一方、特定サービス産業動態調査の練習場利用者数は、126%とゴルフ場以上の急増です。しかも2020年(コロナ1年目)から増加を開始しています。
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出典:日本経済新聞2021年12月3日朝刊掲載[/caption]
気になるのは、より正確な利用税ゴルフ場利用者数が、2020年対象人口以上に減少したことです。減少幅は最近10年間で最大です。
以上3点をゴルフ産業界はどのように理解すべきでしょうか? 筆者はゴルフブーム到来ではなく、コロナ禍での行動規制の結果、制限された消費がゴルフにだけ解放された幸運(棚ぼた需要)と考えています。
「松山プロのマスターズ制覇によるブーム」とは考えられません。対コロナ後はゴルフ対象人口減少による需要減が、鉄壁のように続きます。解放された消費が逆にゴルフ以外に向かう「逆リベンジ不況」も想定しなければなりません。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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