1. 市場考察

プレー人口激減期(18-23問題)とゴルフ場 12NHKアーカイブスに見る「ゴルフ場開発」の記憶(2)

市場考察 北徹朗

コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18−23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。

「公害等調整委員会」で審議された全国初の案件(1990年)

1990年6月19日放送(NHKニュース・モーニングワイド)の『検証・中部のリゾート開発~ゴルフ場がなければリゾートではないのか~』では、山梨県内のあるゴルフ場開発が総理府(現・総務省)の「公害等調整委員会」の俎上に載せられたことが紹介されている。これまでにゴルフ場開発がこの委員会にあげられた前例は無かった。訴えは山梨県内からではなく隣接する静岡県の住民団体であり、上流にゴルフ場ができると農薬によって水が汚染されるのではないか、という不安が水源の下流に位置する地域らに広がったことが発端であった。

公害等調整委員会での裁定依頼に至る前、住民らは静岡県知事に調停を申請していた。静岡県はこれを受けて、静岡・山梨の2つの県にまたがる問題として、2つの県で協議し問題の解決にあたろうと山梨県に呼びかけたが、山梨県は「県の条例を満たしているので話し合う必要は無い」とし自治体レベルでの交渉は決裂していた。それにより、国の公害等調整委員会に委ねられるに至った。

ゴルフ場建設をめぐる自治体間や住民間の摩擦の記録

この案件(公害等調整委員会)の審議中もゴルフ場建設は進められた。そして、1990年6月から本格的に始まった調停を経てこの計画は進められる結論に至っている。この事例に見られるような、自治体間や地域住民間の対立や摩擦については全国各地で発生し、数多くの番組で報じられている。

1992年10月25日に放送された『新局面のゴルフ場開発~問われる農薬散布~』では、過疎が進む山口県のある地域で、ゴルフ場誘致が産業活性化の呼び水になることを期待する一方、既に農薬による水質汚染が全国的な問題となっていることや、全国保険医連合会が発表(1991年11月)した「農薬中毒者の40%近くがゴルフ場関係者やゴルファーだったとの指摘」があることなど、村での推進派と反対派の対立が生じている様子が描かれた。この地域に限らず、反対派の懸念として「ゴルフ場における農薬使用と水質汚染」を問題にしているものが大半であった。

その他、福岡県(1989年12月)、奈良県(1991年2月)等々、多くの対立・摩擦の事例が番組として記録されている。

「農薬問題はゴルフ場建設反対派の道具だ!」と叫ぶ大学教授(1989年)

1989年の北海道を舞台にした推進派と反対派の対立を描いた番組では、「農薬問題は反対派の道具だ!」と強い主張を展開する某私立大学教授と、「まだわからないことが多いとはいえ、懸念があるなら上流にゴルフ場は建設しない方がよい」とする某国立大学教授の相対する印象的なシーンがある。

しかし、大雨によりゴルフ場から川に流れ出た農薬が原因で、下流で養殖していたマス10万匹など大量の魚が死ぬという事例もこの時期には既に報じられていた。この番組が構成された1989年当時、「農薬に問題あり」ということが顕在化しつつあったが、国の基準も明確にされておらず、どんな種類をどの程度の量使用するのが適切かなど曖昧な状況でもあった。

「下流対策費」として業者から手渡された、反対派地権者への説得費用750万円

1990年1月放送の番組では、中国地方のある過疎地域において、ゴルフ場開発を目指す事業者から出された「下流対策費」について描かれている。これは要するに、完成後の水質汚濁を懸念するゴルフ場下流の地権者を説得するための費用であった。この地域には、既に賛成派地権者によって「ゴルフ場建設対策協議会」が設立され、業者の手でプレハブの事務所も建てられていた。業者からは反対派への説得のための費用750万円が協議会に手渡されており、業者による説得ではなく、この経費を使って住民が説得にあたった。「同じ地区内で賛成派住民が反対派住民を説得し、その費用は業者が出す」、これと同じ構図は、同じくゴルフ場建設計画が進められている隣接する地域でも見られたとされる。

これら2つの地域における、反対派住民の口からも「水の汚染を中心とした健康被害の懸念」や「長閑な里山や田園風景が失われることへの無念」が述べられている。

環境省による「ゴルフ場で使用される農薬に係る水質調査結果」(2021年9月発表)

過去の教訓を踏まえ、政府においてもゴルフ場周辺の水質管理については慎重に進められてきた。環境省は、ゴルフ場における農薬使用の適正化を推進し、水質汚濁の防止を図る観点から、1990年5月にゴルフ場の排出水の農薬濃度に係る上限としての水濁指針値を定め、「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針」を策定した。

その後、2017年3月には「水濁指針値」に加え、生態系保全の観点から水産動植物被害の防止のための「水産指針値」を新たに定め、「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止及び水産動植物被害の防止に係る指導指針」を策定している。これは、2018年の農薬取締法改正に係る2020年4月1日施行内容を踏まえて策定されたものであるとされる。

環境省は、2021年9月30日に『ゴルフ場で使用される農薬に係る令和2年度水質調査結果』を発表した。調査は47都道府県(調査対象ゴルフ場数:1,539)に対し220の農薬が対象とされ、38,964の検体がサンプリングされた。その結果、「水濁指針値超過検体数:0検体」、「水産指針値超過検体数:6検体」であったとされている。日本ゴルフ場経営者協会のホームページによれば、水産指針値超過検体が検出された自治体は、茨城県1、山梨県1、滋賀県3、兵庫県1、であり、検出農薬の種類としては、【殺虫剤】ダイアジノン、【除草剤】ピロキサスホルンおよびフェノキサスホルンであったとされている。

2020年の水質調査結果に対する環境省などの対応

環境省はこの調査結果に対して「ゴルフ場事業者に対し、農薬の使用に関する注意喚起を改めて実施するとともに、定量下限値に留意して分析を行うよう都道府県に求めることとする」としている。

また、日本ゴルフ場経営者協会のホームページでは、「今般の環境省の発表で注意しなければならないこと」として、

(1)「水産指針値」が「水濁指針値」に比較して低い数値が設定されている農薬が多いため、「水産指針値」を常に意識した使用を考える必要がある。
(2)「超過不明検体数」が132検体となっている。この原因は、同一の農薬であっても「水濁指針値」と「水産指針値」が相違しているために生じた問題である。「水濁指針値」もしくは「水産指針値」のいずれか低い方の「定量下限値」に対して分析を行う必要がある。
など、事業者に対してより具体的な対策方法を講じている。
ゴルフ場建設をめぐって、命の源である「水」をめぐる対立が全国で多数生じた。ゴルフ場事業者においては、来場者や近隣住民の健康と安心のために、今後もこの問題には最も配慮すべきであろう。

■参考文献
・環境省(2021)ゴルフ場で使用される農薬に係る令和2年度水質調査結果について
・日本ゴルフ場経営者協会(2021)ゴルフ場で使用される農薬に係る令和2年度水質値調査結果について(環境省より)


この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。

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北徹朗

北徹朗

<現職>武蔵野美術大学身体運動文化教授・同大学院博士後期課程兼担教授、サイバー大学IT総合学部客員准教授、中央大学保健体育研究所客員研究員、東京大学教養学部非常勤講師

<学歴>博士(医学)、経営管理修士(専門職)、最終学歴:国立大学法人東京農工大学大学院工学府博士後期課程

<主な社会活動>ゴルフ市場活性化委員会委員(有識者)、公益社団法人全国大学体育連合常務理事、一般社団法人日本運動・スポーツ科学学会常任理事、日本ゴルフ学会理事・代議員、日本ゴルフ学会関東支部事務局長、一般社団法人大学ゴルフ授業研究会代表理事

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