第1回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2021年12月号掲載
竹生道巨
慶応大学経済学部卒業。1985年にゴルフ業界へ転身し日東興業で米国ゴルフ場支配人、欧州地区事業部長を歴任後、米国リビエラカントリークラブ副社長兼総支配人。2003年4月よりアコーディア・ゴルフのトップとして「ゴ...
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コロナ禍に揺れた今年も、いよいよ師走を迎えます。さまざまな業界で厳しい経済状況が続いていますが、ゴルフ業界は比較的活況のようです。
自然の中でプレーするゴルフは「三密」が避けられるため、自粛やテレワークに疲れた既存ゴルファーだけではなく、若者や女性などの新規ゴルファーもゴルフ場に足を運んでいるようです。
これは世界的なトレンドで、米NGFの調査によると、2020年に米国のゴルフ場でプレーした人は2480万人、ラウンド数は前年比14%増で、300万人の新規ゴルファーが生まれたそうです。
日本ではゴルフのメイン層である団塊世代(1947~49年生れ)がすべて70歳を迎え、大量のゴルフリタイアが発生すると見られた「2020年問題」が懸念されましたが、2022年を迎えようとしている今、表面上はそれを乗り切ったかのように見えます。
しかし、今後も安泰なわけではありません。なぜなら、今の状況はコロナ禍という想定外の出来事と、医療技術やゴルフ用具の進化、カートのコース乗り入れなどにより、健康寿命とゴルフプレー寿命が予想よりも延びたことが原因だからです。
これから団塊世代が75歳の後期高齢者に突入すると、彼らの一人当たりのゴルフ回数は減っていきゴルフリタイアも加速します。
新規ゴルファーが参入しても、彼らが団塊世代と同じ頻度でプレーしなければ全体のラウンド数が減少することは明らかです。
したがって、ゴルフ業界は引き続き危機感を持ち、いかに生き残り発展していくかを考えなくてはなりません。これはとても難しい課題です。
そこで、私の考える「ゴルフ界再興」のプランをご提案することで、業界活性化のヒントになればと思い、この連載を引き受けました。
提案の前に、私の経歴を簡単に述べておきます。私はゴルフ場運営会社「アコーディア・ゴルフ(アコーディア)」の立ち上げから2012年までの10年間、同社の社長を務めました。
これは、私の欧米ゴルフ場での運営経験を知ったゴールドマン・サックスからの招聘によるものでした。
退社後は、以前勤務していた米国のリビエラCCに勤務し、日々の運営指導に加え、トーナメント運営やロス五輪ゴルフ競技会場の招致活動への協力を通じてUSGA、USPGA等と交流する中で、改めて米国ゴルフの本質に触れることができました。
その後、2019年に帰国し、現在は国内ゴルフ場のコンサルティングを行っています。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら
ゴルフ人口拡大への障壁
現在、アコーディアは私が退職してから2度目の売却の話が進んでおり、次のオーナーもファンドになりそうだとの報道があります。今後の同社の運営方針は業界の皆さまも気になるところでしょう。 一般的にファンドは、目先の利益だけを求める経営をすると思われがちですが、私の認識は違います。 彼らは大型投資によるハード面の改善や最適なビジネスモデルの導入により、3~5年で企業価値の最大化をはかる投資家です。 したがってゴルフ場を実際に運営する立場のミッションとしては、事業会社がオーナーになった場合と差異はありません。 どのような形であれ、ゴルフ場に「価値」が生まれなければ、企業価値の最大化を実現できないという単純な事実があるからです。 「ゴルフ場の価値」は、ゴルファーニーズを的確に捉えたサービスの最適化により、リーズナブルで価値のあるゴルフシーンを提供することに尽きると私は確信します。その手法は本連載で詳述していきますが、今後もアコーディアが多くのゴルファーから支持され、業界のためにもなるような方向に進むことを切に願ってやみません。 さて、本題に入りましょう。私はゴルフ界の再興は「いかにゴルフに『ハマる』人を増やすか」にかかっていると考えています。 ゴルフの魅力は奥が深く、ある意味、中毒性があるスポーツだとも思っています。ゴルフ場ごとにコースレイアウトは違い、同じコースでも同じところにボールが飛ぶことはありません。ゴルフは進歩と後退を繰り返し、常に過去の蓄積と新たな挑戦を楽しむレジャーなのです。 そのため、上手くなるのに手間がかかり、そのことが大衆化の障壁になっています。 これをクリアすればゴルファーはどんどんゴルフにのめり込み、一度ハマったゴルファーはプレー代、ギア、ウエアなど、人によって重点的に出費するところは違えど、他のことにかける時間やお金を削ってでもゴルフを楽しもうとします。 つまり、日本にゴルフにハマる人が増え、米国並みに年間平均20ラウンドしてくれるようになれば、我が国のゴルフ業界の景色は一変するはずです。 では、どのようにハマってもらうのか? 私は長年、ビジネスとしてだけではなく、一人のプレーヤーとしてゴルフに関わってきました。 その体験から断言できることは、まず、ゴルフの敷居を下げること、そして初心者に短期間で上手くなってもらう「仕組み」を作ることなのです。米国流レッスンの衝撃
私がゴルフにハマったのは、小松製作所の米国駐在員時代でした。 渡米前にもゴルフの経験はありましたが、当時は「コースに出る前にはトラック3杯分のボールを打て」とか「ラウンド中はクラブを持って走れ」など、「ゴルフ道」ともいえる決まりの多い日本の流儀にあまり興味を持てませんでした。 ゴルフ場会員権も高額で、若い私が気軽にできるものではなかったのです。 しかし、アメリカではゴルフが日本よりも遥かに身近であり、ゴルフクラブの会員となって、真剣に取り組もうと考えました。そこで最初に受けたクラブプロのレッスンが衝撃的だったのです。 日本では初心者レッスンはフルショットから始めるのが主流ですが、彼はショートゲームから始めました。そして、最初のラウンドレッスンでは5番ウッドと7番アイアンだけを使い、2打目以降もティーアップしてハーフショットで打つようにと言われたのです。 半信半疑でしたが、言われたとおりにするとみるみる上達するではないですか。それでゴルフがどんどん楽しくなって、気づくと毎日のようにプレーするほどハマってしまったのです。 また、ゴルフの敷居を下げることについては、私がアコーディア時代に掲げた『it’s a new game』の標語があります。これは、今までとは違う新しいゴルフ場運営を目指す姿勢を込めた言葉です。 運営コストを見直し、リーズナブルな価格でのプレーを提供するだけではなく、カジュアルな雰囲気でゴルフ場を訪れやすい場所にしました。 ゴルファーのニーズに応える良いサービスの提供について、私がグループ全体に浸透させたのは次の「サービス4原則」です。 ①ゴルフ場の一番の「商品」であるコース管理に力を入れる ②スループレーや早朝プレーなどラウンドバリエーションを増やす ③量販店と同じ価格で買えるショップを作る ④スポーツの場にふさわしいレストランメニューを提供する 上記以外にもカートのフェアウェイ乗り入れなど「新しいニーズ」をつくることに取り組みましたが、これらは日本のゴルフ場のスタンダードになったものも多く、アコーディアの登場以降、日本のゴルフの敷居は確実に下がりました。 しかし、その影響で急激な環境の変化に対応する準備が整っていなかった単独運営のゴルフ場が、価格一辺倒の競争に巻き込まれ、苦境に立たされたケースもあったでしょう。今後私は本連載で、チェーンメリットがない単独運営のゴルフ場でも十分に再生可能なことを、具体例をあげて記述してまいります。 短期間で上達を促し、ゴルフにハメる施策については、アコーディア時代に練習場運営、ゴルフスクール開設、プロのレッスン提供などさまざまな取り組みをしましたが、完全にできたとはいえず、やれることは沢山残されています。 この連載では単なるゴルファー増加策ではなく、業界がビジネスとして利益をあげつつ発展する方法をご紹介します。 アコーディアはスケールメリットを活かして躍進した部分があり、そこに注目が集まりがちですが、実は単独運営のゴルフ場でも導入できるアイデアは豊富にあります。 また、業界全体で取り組むべき方法はいくらでもあります。私の35年以上にわたる日欧米のゴルフ業界での経験から導かれたサステナブルな提案をしていきますので、ご期待ください。この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2021年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら
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