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    第2回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2022年1月号掲載

    竹生道巨
    慶応大学経済学部卒業。1985年にゴルフ業界へ転身し日東興業で米国ゴルフ場支配人、欧州地区事業部長を歴任後、米国リビエラカントリークラブ副社長兼総支配人。2003年4月よりアコーディア・ゴルフのトップとして「ゴ...
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    強みを活かす経営戦略のすすめ

    昨年来からゴルフ場はコロナ禍の影響で活況を呈していますが、ゴルファーの高齢化や男性偏重という課題が抜本的に解決されたわけではありません。 現在のような値引きオンリーの「馬なり経営」では、今後コロナ禍が落ち着いて、ゴルフ以外にもレジャーの選択肢が増加すれば、たちまち構造不況に逆戻りしてしまうでしょう。 今こそ将来のための布石を打たなければいけないのです。 さて、何から始めればいいのでしょうか? それは、孫子の兵法のごとく己を知り、敵(市場、顧客、競合)を知るために、一旦足を止めて現状分析と経営ビジョンの設計をしっかり行うことです。今回はその点について、具体的な構築術を説明していきます。 まず「現状分析」ですが、これは市場・環境動向、マネジメント、会員戦略、オペレーション、マーケティング、サービス、施設、コース管理等多岐に渡りますが、これらを丁寧に積み上げてゴルフ場の潜在能力や顧客ニーズだけでなく、様々な障害も浮き彫りにします。 その際に大事なことは、 ① ポテンシャルの明確化と評価 ②顧客に訴求できるバリュー(強み、売り)  以上の抽出を目的とした分析結果を基に、次のような経営のコンセプトを決めていきます。 ① コアバリュー ② サービス方針 ③ 市場内ポジショニング ④ 5/10年後のあるべき姿 ⑤事業の方向性(提供サービスの適正グレード・価格帯、市場、ターゲット、事業領域、会員制度等) そして、現状と将来の理想とのギャップを埋めるためのシナリオを俯瞰的に設計し、改善すべき業務課題を選定します。 さらに、この課題を解決するための具体的な施策を中長期計画や年度計画に落とし込み、適切にPDCA管理を行う仕組みを構築していきましょう。 ここで設定した経営コンセプトは、全ての事業活動における判断において基準となります。 例えば、「市場内ポジショニング」で会員中心のゴルフ場にこだわるならば、閑散日であっても、目先の利益のためにビジターだけのコンペを格安で販売する等はあってはなりません。 そのような行為はブランドイメージを毀損し、これまでの投資や施策が無駄になると考えるべきなのです。

    既成概念をぶち壊せ

    ここで会員制のゴルフ場について考えてみましょう。日本のゴルフ場は今後、会員制をどの程度維持できるのでしょうか? この問いに答えるには、以下のことが要点になります。会員関連の売上が全体の何割を占めているのか。常に入会希望者が存在しているか。20年間でメンバーが入れ替わると考えると、毎年5%の入れ替わりが必要になる。 これに伴う名義書換料と年会費の収入で施設維持費(固定資産税等の固定費とコース管理費)が賄えれば、厳格な会員制ゴルフ場を目指すことは可能でしょう。 しかし、そのようなゴルフ場は全体の1割程度で、残りの9割はビジター関連収入に頼らずにはいられません。だからと言って、それらのゴルフ場が「パブリック化」すべきかといえば、答えは否です。 なぜなら「会員」はそのゴルフ場の最大のファンであり、生涯顧客価値でみれば最優良顧客だからです。 資産価値やステイタスとは別に、コミュニティとしてゴルフ場ごとの特徴を活かした会員組織を再構築できれば、ゴルフ場の価値創造につながるはず。まずはコンセプトやビジョンを明確にすることが不可欠といえます。 その上で当然、「収支状況」の改善が必要になりますが、前述の9割のゴルフ場はどうすればいいのか。収入増と支出減の施策は皆さん興味のあるところでしょう。 私が考える、単独経営ゴルフ場が売上増を加速するための「新常識」はこうです。 売上は「顧客単価×入場者数」なので、売上を伸ばすにはそのどちらか、あるいは両方を上げることになりますが、私は「入場者増」に注力すべきだと考えます。その理由は、どのゴルフ場も「稼働率」が低い状況にあるからです。 稼働率の分母はゴルフ場の「キャパシティ」そのものですが、ゴルフ場関係者の皆さんはご自分のところのキャパをご存知ですか? 理論上求められる18ホールあたりの年間最大来場者数は「約8万人」です。これは、夏場を中心とした6カ月が一日最大240人、残りの6カ月は最大200人という計算に基づきます。これに早朝・薄暮プレーなどを加えるともう少し上乗せできますが、ここでは便宜上8万人としておきます。 一般社団法人日本ゴルフ場経営者協会が発表した2020年の1ゴルフ場あたりの利用者数は、3万6709人でした。前述の8万人を分母とすれば、稼働率は約46%で、半分にも満たない状況です。 つまり、顧客単価が高いハイエンドのゴルフ場以外は、まずは入場者数を増やすことに注力すべきなのです。

    カギはリピーター

    入場者を安定的に増やすのに欠かせないのが「リピーター」です。リピーターの獲得を目指すということは、顧客満足度を高めるということです。 そして、そのために最も重要なのがコースコンディションです。特にグリーン、グリーン周り、そしてティーイングエリアの3カ所については投資を惜しんではいけません。 これらが荒れていると、そのゴルフ場の集客力は急激に低下するからです。 そして、これと同じくらい大事なのがプレー進行です。「入場者数を増やすこと」と「スムーズな進行」は相いれないと思われるかもしれませんが、適切な範囲内であれば対処法はあります。 そもそもゴルフ場の進行の遅れは高速道路の渋滞と同じで、1組のスロープレーで発生します。 また、コースのレイアウト上どうしても待ちが発生しやすい箇所があれば、そこが渋滞を引き起こすので、それらを解消すればよいのです。そのカギは「マーシャル」と「コースセッティング」です。 コース内でプレー進行を管理するマーシャルは、欧米のゴルフ場では大きな権限を持っており、彼らの指示に従わないプレーヤーはゴルフ場から追い出されることもあります。 日本では、来場者に強く注意することが敬遠され、ゴルファーもマーシャルの存在を疎ましく思っている風潮があります。そのため人員削減にかこつけてマーシャルを廃止し、GPS付カートナビを導入しているゴルフ場も多く見受けられます。 しかし、ナビ画面にスロープレーの警告を出すよりも、マーシャルが実際にコース内で毅然とした態度を保ちながらも、ソフトにプレーヤーにスピードアップを促す方が効果的です。 マーシャルにはキャディ経験者などを配置すればよいので、新たに雇う必要もありません。私は、マーシャルは削減すべきではない大事なコストだと断言します。 コースセッティングでもプレーのスピードアップは可能です。私がいた頃のアコーディアではOB時の特設ティはグリーンから100ヤードの地点に設置していました。もちろん打ち直してもいいのですが、初心者の方には心理的な負担が大きく、却って特設ティは喜ばれました。数字入りのヤーデージ杭やホールの位置で違う旗の色などの施策も、楽しくプレーしながら進行を早める工夫でした。  ユニークだったのは「移動可能なマット」をカート停止位置に置くことでした。ホールロケーションを変更するたびに細かく変え、ホールアウトしたプレーヤーが悩まず次ホールへ向かえる最適な動線を作ったのです。これで数分短縮でき渋滞緩和につながりました。この他もゴルフ場の特徴に合わせて工夫すれば改善策はたくさんあるはずです。  なお、新たなビジターの集客には楽天GORAやGDOなど、ゴルフ場予約ポータルサイトの活用も有効です。単に予約枠を出すだけではなく、膨大な顧客データを分析している彼らのマーケティングノウハウを活用するのです。各ゴルフ場の経営コンセプトを設定する際にも、彼らの意見を取り入れれば、現状分析の精度を上げることが期待できると思います。
    この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら
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