第3回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2022年2月号掲載

第3回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2022年2月号掲載
冬本番となり、ゴルフ場運営にとって厳しい閑散期を迎えています。しかし、こういった時期こそビジネスを再考し、将来の準備をする好機ととらえ、現状分析と経営ビジョンの設計をきっちり行っていただきたいと思います。 私は前回「18ホールのゴルフ場の年間最大入場者数は8万人」と記述しました。併せて、ゴルフ場の平均稼働率が5割未満の現状を示し、これを高めることが重要だと書きましたが、本号ではその補足説明から始めましょう。 ゴルフ場は、在庫を繰り越して翌日以降に販売できない「装置産業」であり、需要がシーズンや天候等によって大きく変動するビジネスです。 ゴルフに適した晴天日は年間260日程度であり、残りの100日ほどは台風、降雪、雨天などでプレーできない日もあります。つまり「8万人」は、18ホールのゴルフ場の器の大きさを示した数字だと考えてください。 私が着目する入場者増加施策は、閑散日に値段を下げて、365日フル稼働を目指すものではありません。ゴルフ場ごとに日々の最大キャパを把握し、対処するという意味で「年間8万人」と申し上げたわけです。 実際には、まず需要の旺盛な繁忙期に、適正な価格で最大稼働を目指すことがビジネスの定石です。繁忙期の収益向上のためには、商品価値を下げずに販売数量を増やす、つまり良好なサービスが提供できる範囲でのキャパシティの拡大が必要なのです。 この際に重要なのは「顧客志向」での運営改革です。そして、低需要の日の経営を安定させるには、オフピークに関係なく当該ゴルフ場を指名してくれるファン層、リピーターの獲得による安定顧客基盤の構築が重要となります。 会員をはじめとする固定顧客は、価格感応型のフリービジターとは異なり、年間を通してまんべんなく来場してくれます。 その基盤造りの努力をすることなく閑散期に安値競争でフリービジターを集客する戦法は、当該ゴルフ場の商品価値を著しく低下させる恐れがありますので、細心の注意が必要です。

機械化とセルフ化

入場者が増えれば運営コストも増えると考えがちですが、閑散期の人員数で繁忙期も運営できるようなコスト構造にしていくことが、今後のゴルフビジネスの課題です。 ゴルフ場運営のコストを考える際の基本コンセプトは「ポジショニング」と「顧客目線」であり、これに基づいてコストの削減部分を決めていきます。 そのときに大事なことは、ターゲット顧客を想定することですが、ハイエンドや一部のゴルフ場を除くと、ほとんどのゴルフ場ではスコア90~110のプライベートゴルファーとなると考えられます。 この層が一番ゴルフにハマる確率が高く、自コースのリピーターになってくれます。そこで、彼らにとって何が必要で何が不要なサービスかを一つひとつ検討します。 ピーク時の人件費を低廉化するためにも機械化やセルフ化(省サービス化)の促進は必須ですが、これらの導入は基本コンセプトとの整合性を確認しながら行います。 私見ですが、自動チェックイン機と自動精算機はほとんどのゴルフ場で顧客との摩擦なく導入可能だと思いますので、早期検討をお勧めします。 コロナ禍で非接触のサービスが望まれているこの機会を逃さずに対応すべきです。これらの導入でフロント業務や現金、クレジットカード関連の業務も大幅に削減されます。 削減されたコストと時間を商品価値の向上につながる業務に転換できれば、顧客満足度もあがります。 機械化とは別に、セルフ化(省サービス化)で検討すべき点は、玄関での車からのキャディバッグの積み下ろし、カートへの積み込み、プレー終了後のクラブ清掃などがあります。 日本のゴルフ場ではあたりまえと思われていたサービスですが、新型コロナウイルス対策として中止したゴルフ場もあるはずです。ポストコロナでこれらのサービスを元に戻すのか、それとも廃止するのかの判断は、顧客の反応を観察してください。 もし、現状を違和感なく受け入れている顧客が多いなら、そのサービスは廃止すべきかもしれませんが、省サービス化によってそのゴルフ場の強みが損なわれると思われる場合は残すべきでしょう。

レストランの在り方

レストラン部門について最初に考えることは、コストコントロールではなく、ゴルフ場の基本コンセプトに照らしてどのような供食機能であるべきかの確定です。 従来のゴルフ場レストランは、少しお高いデパートのお好み食堂的なものが定番でしたが、ゴルフ場のポジショニングに応じて多様な形に転換すべきだと思います。 それには専門知識や経験、優秀な人材が必要ですが、供食がコアビジネスではない場合は、顧客満足度の向上をサポートしてくれる外注先を検討すべきでしょう。 ショップ部門も同様です。顧客満足度の向上と効率運営を実現するには、専門知識をもつ優秀な人材が必要であり、外注も選択肢のひとつです。 アコーディア時代、私はスタッフに恵まれ規模の経済も活かして、10年間でショップ売り上げを10倍以上にしましたので、商売としては十分に成り立ちます。ただし単独運営のゴルフ場では、ショップ専門のスタッフを確保することは難しいはず。 であれば、クラブの買取機能が充実している「ゴルフパートナー」などのショップと連携すれば新作クラブへの買い替え促進も可能でしょう。会員やリピーター層の利便性も高まります。 次に、コース管理費用について考えてみましょう。私の経験上、単独運営のゴルフ場でも現状より2~3割程度削減できると思います。プレーに悪影響を与えずコスト削減できるところは少なくありません。まず、管理面積を小さくしたり無駄な植栽・樹木を伐採します。 ティーイングエリア周辺の垣根や樹木は本当に必要でしょうか? 日本のゴルフ場は欧米のゴルフ場に比べて、箱庭的な見栄えにこだわりすぎる傾向があります。 背の高くなった樹木で日照が遮られ、ティーイングエリアの芝の状態が悪化したり、落ち葉の除去に時間がとられるなら、伐採も選択肢のひとつです。これにより得られるメリットを丁寧に説明すれば、会員の理解も得られるでしょう。たとえばこんな感じです。 「芝には太陽と水と空気が必要です。樹木のせいでこれらが遮られて芝が発育せず、ティーイングエリアを人工芝にしなければなりません。木を伐れば解決しますが、どちらがよろしいですか?」 ゴルファーであれば自明です。

ゴルフ場職人の育成

コース資材、機械の仕入れ先の見直しも必要です。大手の運営会社であれば、強大な購買力により業者との交渉も容易ですが、単独運営のゴルフ場ではそうはいきません。 しかし、比較検討することで今までの価格が適正かどうかわかるはずです。グリーンキーパーが癒着しているなどとは言いませんが、気づかぬうちに相場以上の金額を払っていることはありえます。現在の取引会社とうまく付き合うためにも、相見積もりをとることをおすすめします。 人員配置については、長期的視野に立って戦略的に再構築すべきです。つい先日まで、高齢化と人員不足に悩んでいた業界ですから急激な人員削減は不適切です。 特に単独運営のゴルフ場では、従業員を家族のように大事にされているところも多いはずです。 そこで人員削減は、機械化や省サービス化による運営改革を進める中で①業務部門の統合、②従業員のマルチタスク化と人員の再配置、③自然減に対する補充人員のコントロール、で実現します。 特に新規雇用者や若い既存従業員は総務・フロント・マスター室・スタート・マーシャル・レストラン・ショップ・コース管理などの業務を固定せず、マルチに働けるゴルフ場職人を育てるのです。これには広い視野を持つ幹部候補生を育てるという意味もあります。 最後に、昨今の省サービス化で私が気になっていることを指摘します。それは「預かったキャディバッグのセキュリティ」です。 アメリカのゴルフ場では、プレー後にすぐマイカーに積み込む人が多いのでバッグから目を離す時間はほとんどありませんが、日本ではプレー後の入浴が一般的なので、その間の安全性確保が必要です。 以前は担当スタッフが管理するのが普通でしたが、最近は無人のバッグたてにキャディバッグが並んでいる状況もあります。 クラブはゴルファーにとって大切な財産であり、自分の使用クラブにこだわりを持つ方も非常に多いため、キャディバッグを安全に預かるという姿勢はお客様の信頼を獲得する最大のチャンスであり、ファンづくりの第一歩です。 スタッフを配置できない場合は、クラブ抜き取り防止機能のある鍵付きバッグスタンドを設置し、お客様に自由に使ってもらうことで不安は解消されるはずです。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年2月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら