前号では、ゴルフ場を運営するうえで各コースのポジショニングを明確にすることが重要だと書きましたが、それらを決めるにはいくつかの指標が存在します。
一例は図1のように縦軸にゴルフ場(商品・サービス)の特徴、横軸に対象顧客(ターゲットとなる市場)の特徴を示す方法です。縦軸の一番上は高級志向のゴルフ場、一番下は価格遡及志向のゴルフ場です。一方、横軸は左の端がエクスルーシブな会員制クラブを堅持するプライベートゴルフ場、右は誰でもプレーできるパブリックゴルフ場です。

2020年に日本で営業中のゴルフ場は2151カ所です。(ゴルフ特信調べ)様々な形態のゴルフ場がバランスをとって共存する欧米と違い、日本では会員権販売を目的としたゴルフ場開発が主体であったため、ほとんどのゴルフ場が「高級プライべートゴルフ場」という位置づけで誕生しました。しかし、ビジネス環境は大きく変化しており、ドラスティックにポジショニングを見直さなくては生き残れないのが現状です。
多くのゴルフ場が環境変化への対応に着手していることは理解していますが、従来からの慣習やこだわりを捨てきれず、このマトリックスの中でのあるべき姿と現実が乖離してしまっているゴルフ場も多いように感じます。
もちろん預託金問題の解決が大前提となりますが、今後何十年にわたって経営を持続可能にするためには、一度立ち止まって「目指すべき場所」を改めて設定しなければなりません。
私は、日本の会員制ゴルフ場のほとんどがBのカテゴリーで、ホームコースとしてリピートしてくれる会員を核としたコミュニティを形成しながら、気軽に楽しめるゴルフ場を目指すべきだと思います。
欧米のゴルフ事情
どのようなゴルフ場を目指すのかという話の前に、欧米のゴルフ場について触れましょう。米国のゴルフ場は大きくプライベート、パブリック、リゾートの3つに分けられます。
私が以前、勤務していたリビエラCCやロサンゼルスGCなどのプライベートコースでは、メンバーとメンバーゲストしかプレーできず、運営はメンバーの入会金と年会費で賄われます。
リビエラCCの入会金は50万ドル(約5500万円)、年会費は3万ドル(約330万円)です。プライベートコースの中には入会金の中にエクイティが含まれていて、退会時にはその部分は戻ってくる場合もありますが、リビエラCCでは入会金の返金は一切ありません。会員権は一代限りです。
それでも、会員のウエイティングは常時80名前後います。これは他を圧倒するような最高のクラブ運営をしている証明ともいえるでしょう。
また、先日2026年のUS女子オープンをリビエラCCで開催することが発表されましたが、私がいた頃も積極的に公式競技の誘致をしてゴルフ場の価値を上げようとしていました。
日本にもハイエンド型の会員制ゴルフ場は存在しますが、米国のプライベートクラブとは大きな違いがあります。
日本では会員が最優先ですが米国ではメンバーゲストを大事にします。キャディはメンバーよりもゲストに気を使います。
さらに練習場の利用もメンバーは有料ですがゲストは無料です。そうすることでメンバーは体面が保たれ満足度も高まるのです。
国民性の違いもありますが、国際感覚を持つ方が増えている日本でもそういった方針に変えた方がいいかもしれません。
もちろん、メンバーをないがしろにするわけではありませんが、ゴルフ場を運営するのに十分な入会金と年会費を設定できないなら、メンバーがゲストをどんどん連れてくる状況を作り出すべきだと思います。
パブリックコースはベーシックなミュニシパル(市営)が大半ですが、ベスページやTPCハーディングパークなどのようにUSGAやPGAツアーが投資をして全米オープンやライダーズカップを開催できるようにしたコースも含まれます。
誰でも予約しプレーできるのが共通点です。市営コースでは予約なしに気軽に低料金でプレーできます。その分コースメンテナンスにはそれほどお金をかけません。
リゾートコースは日本にはあまりない運営形態ですが、ハワイやパームスプリングスなどのリゾート地に位置するゴルフ場で、その多くに会員はいません。
必ずしも宿泊施設併設ではありませんが、併設しているところではその利用者のみ予約ができる場合も多いです。ペブルビーチゴルフリンクスもこのカテゴリーに入ります。
トーリパインズGCは市営なため、サンディエゴ市民と併設のロッジ、ホテルの宿泊者に予約の権利があります。
英国にもリゾートコースがありますが、私が日東興業時代に運営に関わったターンベリーリゾートではユニークな運営をしていました。
地元住民は会員になれますが、プレーできるのは早朝と遅い時間帯のスタート枠のみ。プライムタイムはホテルゲストが高い料金でプレーします。地元に貢献しながらビジネスとして収益を伸ばす上手いやり方です。
また、過去に16回の全英オープン開催実績があるミュアフィールドは会員制ゴルフ場の元祖ともいわれています。
脱価格競争の方策
本題に戻りましょう。私は日本の大半のゴルフ場は、オープンとベーシックが交わる図1のBを目指した方がいいと考えます。
これは安売りをして入場者を増やせという意味ではありません。価格競争では、極限までコストを下げられる大手運営会社には勝てないからです。
しかし、私は大手でさえもこのまま価格競争で集客することに限界が来ると思っています。
その理由はゴルファーが成熟して、1000円~2000円の違いであれば、少しでもコースコンディションや進行状況の良いゴルフ場を選ぶと思うからです。
勝負はいかに低価格化するかではなく、リーズナブルな価格を提供できるかにかかっています。
「安い」ではなく「納得のいく価格」という意味です。某家具量販店のごとく利用者に「お値段以上」と思ってもらうのです。
そのためにはセルフ化や機械化といったコストダウンの企業努力を続けながら「メンバーになりたいと思ってもらえるようなコース」を作ること。
リピーターを増やすことを続けながら最終的にはメンバーになってもらうことを目指します。
本連載の第2回で、リピーターを増やすためには良いコースコンディションとスムーズな進行が大切と述べました。
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つまりはプレーして面白いコースを作るということです。
それに加えて大切なのは「リピーターを育てる」という発想です。
そのために有効なのが各ゴルフ場のターゲットに合ったイベントの発信で、ゴルフの回数を増やすきっかけ作りです。
上手くなればより楽しくなるというゴルフの性質上、イベントは何らかの競技性を持たせたものが良いでしょう。
様々な競技イベントを各ゴルフ場のターゲットに合わせて柔軟にカスタムメイドしていきます。
シングルプレーヤーならスクラッチでの競技、初心者であればスクランブル競技が楽しめます。スクランブル競技は全員がティーショットを打った後、毎ショットで一番良いポジションのボールを選択してチームメンバーが同じところから打つ競技です。
日本人プレーヤーは18ホールの個人スコアを気にする傾向が強く、チームでひとつのスコアしか出ないこの競技方法にアレルギー反応を示すこともありますが、一度経験するとその楽しさに驚きます。
自分一人では考えられないスコアが出るし、初心者もたまに出るナイスショットが採用されたり、最初にパッティングをして仲間にラインを見せてあげてチームに貢献することができます。
工夫の連続が大事
企業コンペの幹事にスクランブル競技を勧めることも有効で、友好を深めるという企業コンペの趣旨にも合致します。
上司が嫌がるというのであれば春はストローク競技、秋はスクランブル競技と2回開催を提案してみてはどうでしょう。
新型コロナが落ち着けば企業コンペも増加するので、今のうちに手を打つべきです。
リピーターは最終的にはメンバーに移行するように仕向けます。
週末に安いメンバーフィーでラウンドする会員が多くなると、収益に悪影響と思われるかもしれませんが、長期的視点に立てば彼らが定年を迎えた時に平日需要が期待できます。
また、前述のターンベリーリゾートのように、メンバーは早めと遅めのスタートのみに限定する方法もあります。
年会費を下げれば実現できるかもしれません。いずれにせよ、そういった工夫を地道に続けることが大切です。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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