第5回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2022年4月号掲載

第5回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2022年4月号掲載
来場者をリピーター化する具体的な方法 これまでの連載で、ゴルフ場のリピーターを増やすことの重要性に触れてきました。では、そのためにはどのようなゴルフ場を作れば良いのでしょうか? 今回はそれを中心に説明します。 唐突ですが、ゴルフ場支配人の皆さんに質問です。「あなたは月に何回ご自分のコースをラウンドされますか?」。支配人の業務は多岐にわたり、日々多忙であることは私も経験者なのでわかります。しかし、支配人は自コースをできるだけラウンドするべきです。 なぜなら、ゴルフ場にとって一番の商品である「コース」のウリや強みを知るためには、顧客目線に立ってラウンドすることが必要だからです。支配人が商品の真の価値を理解していなければ、お客様が何度も訪れたくなるゴルフ場を作ることはできません。 私はリビエラCCの支配人であった時、毎日9ホールのラウンドを欠かしませんでした。コースは季節によって違いますし、芝は生き物であり常に状態が変化します。毎日ラウンドしながら観察することで、お客様の喜ぶコースはどのようなものかわかってくるし、快適にラウンドしてもらうためのアイデアも生まれます。自コースでのラウンドは、支配人を目指す若い人たちにもお勧めします。 ラウンドの際に注目したいのはコースコンディションですが、限られた運営資金の中で最適なコースに仕上げるには「メリハリ」が必要です。そのゴルフ場のポジショニングにあわせてお金をかける所を選択するのです。 重点的に整えるのは、グリーン、ティーイングエリア、フェアウェイの順です。良好なグリーンコンディションの維持はどのゴルフ場も第一に心がけるべきで、そこから先は各ゴルフ場のターゲット層によって決めていきます。OB杭の位置を変えたり、法面や林帯を意図的に裸地化することで管理面積をコントロールできます。トラブルショット時にボールが探しやすくなるので、進行のスピードアップ効果もあります。

管理スタッフが要

良いコースを作るためには、コース管理スタッフとのコミュニケーションが不可欠です。彼らこそゴルフ場の要だと肝に銘じてください。そして、管理スタッフとコミュニケーションを図るためには、彼らを心から尊重していることをわかってもらえるよう心理的な距離を縮めることが大切です。 これは米国での話ですが、リビエラCCは伝統的に、コース管理スタッフはグリーンキーパーを除きクラブハウス内に入れませんでした。私はこの伝統を破り、クラブハウス内のバンケットルーム(宴会場)に彼らを招待、クリスマスランチを開催しました。 このランチをきっかけに私も彼らのバーベキューに呼んでもらえるようになり、どんどん親しくなりました。コースの状態について活発に意見交換したものです。 日本ではこれほど極端ではないにせよ、支配人の中にはコース管理棟に行ったことのない人もいるかもしれません。芝に関する知識が乏しく、自信がなければ尚更足が遠のきます。でも、まずは管理棟に足を運んでみてください。一緒に良いコースを作りたいとの態度を示せば、キーパーもいろいろ教えてくれるはずです。 次に考えたいのはコースセッティングです。国内2100コース超の約1割を占める名門ゴルフ場を除いては、セルフでも「快適にラウンドできる」セッティングが必要になります。これにより進行が早くなるので、ゴルファーの満足度を高めながら入場者数を増やすことができます。 まず、ラフは25㎜から30㎜くらい、ボールが見える程度の長さに保ちます。以前はトーナメント仕様みたいに長いラフを良しとする傾向がありましたが、最近は短めがプレーヤーに好まれます。自分のボールが見つけやすいとストレスなくラウンドできます。 ティーイングエリアではティーマークの方向に注意をします。ティーマークは基本的に、プレーヤーが打つべき方向に向けるのが良いのですが、距離が短いコースで戦略的な面白みを増すために、ティーをわざとずらしてセッティングする場合もあります。ロバート・トレントJR.設計のカラバサスCC(米カリフォルニア州)では、その技法を駆使していました。

奥から順に青・白・赤

セルフラウンドをさらに快適にするためには、コース内のヤード表示が重要です。私はアコーディア・ゴルフの社長時代、以下の施策を推進しました。まず、ティーから230ヤードのIP地点にティショットの目標となる吹き流しを設置。ヤード表示杭は残り100ヤードが赤、150ヤードは白、200ヤードは青と色を変え、はっきりと数字を明記しました。 当初は共に景観を損ねるとの反対意見もありましたが、明らかにわかりやすいので、今ではすっかり受け入れられているようです。 スプリンクラーヘッドや排水溝に「グリーン手前」「センター」「奥」の残りヤード表示を設け、残り50ヤード表示のカービンマーカーをコースに埋め込みました。グリーンの旗の色も奥から「青」「白」「赤」と色を変えて、ひと目でわかるようにしました。特にアプローチエリアを強化することで格段に効果が期待できます。 また、可能であればカートナビの導入をおススメします。ホールの全体像が一目瞭然で、ショットが打ちやすく、打ち込み防止にも効果があります。前組を目安にプレーすることでスピードアップにつながり、運営側もカート位置が把握できるので、マーシャルの出動等のラウンドマネジメントをスムーズに行えます。 カートナビの出現や、2019年1月のルール改定で距離測定器の使用が認められたことで、ヤード表示の必要性が薄れたと感じる支配人がいるかもしれませんが、距離測定器の普及率はまだ低く、持っていても全ショットで使うわけではありません。 また、カートナビの距離表示はフェアウェイに乗り入れできなければ正確な距離は測れないし、フェアウェイ乗り入れであっても100ヤード以内のアプローチエリアは進入禁止のところが大半です。快適なセルフプレーにとってコース内のヤード表示は、今でも重要な要素だと断言できます。 完全キャディ付きで運営するゴルフ場でも、スプリンクラーヘッドへの表示はある方が良いと思います。常時キャディが真横にいるわけではないので、自分で確認できる正確な距離表示があれば安心してプレーできるでしょう。

「選択肢」を与える

ほかにもあります。OBやハザードに対するペナルティへの柔軟な救済措置を、プレーヤーの意思で選択できるローカルルールの導入です。OB救済措置として、ロングホールは残り200ヤード地点に、ミドルホールは残り100ヤード地点にプレーイング4マークを標準設置。 これによりOB付近でのボール探索時間が短縮し、OB後に4打目をナイスショットすればパーやボギーの可能性もある。プレーヤーとゴルフ場の双方がWINWINとなるセッティングです。 私はハザードの救済措置として、プレーイング3エリアをハザード前方のフェアウェイ等に設置、トラブルの連鎖を回避できる工夫もしました。ショートホールの特設3打エリアを敢えてチップイン可能なセッティングにしたり。 これは、単純に難易度を下げて良いスコアを出せるようにしたのではなく、市場の大半を占めるスコア100前後のアベレージゴルファーに、優しい選択肢を与えることで、幅広い層が楽しめるコースづくりを目指すためです。 プレーエリア以外でも快適なプレーのために必要な施策があります。グリーン周りのカートの停止位置を、ホールの位置によってこまめに変えることは必須です。ホール間の移動でプレーヤーが迷わないよう、路面ペイントや案内看板により進行方向をはっきりと示すことも大事です。 今回はコースコンディションやセッティングについて、過去に私が実践したアイデアの一部を紹介しました。各ゴルフ場が、自社のポジショニングに基づく主要ターゲットを設定し、そのターゲットの利用シーンを顧客目線で想定してください。今回の例を参考にして頂ければ、自コースの「ウリを最大化できる」と確信します。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年4月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら