第6回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2022年5月号掲載

第6回・竹生流ゴルフ市場再興策 GEW2022年5月号掲載
いかにゴルフにはまる人を増やすか ~ はじめる人、再開する人 本連載の初回でもお話ししましたが、私はゴルフ業界の再興は「ゴルフにはまる人」をいかに増やすかにかかっていると思っています。どうすればゴルフを始めた人が継続し、そしてゴルフに夢中になってくれるかを考えなくてはいけないのです。 [surfing_other_article id=73317][/surfing_other_article] 新型コロナの影響でゴルフ場やゴルフ練習場は他の業界に比べ活況を呈しています。一説によると、コロナ禍でゴルフを始めた、あるいは、復帰した人は約60万人ともいわれます。しかし、彼らはゴルファーとして定着していくのでしょうか。 皆さんご承知のようにゴルフは上達するのに手間がかかるスポーツです。一般的に初心者の目標とされるのは1ラウンドのスコアで100を切ることですが、GDOによると100切りを達成するのに要した期間で一番多いのは「1年から3年」です。 6年以上かかった人も約2割いるそうです。さらに、平均スコアが100未満のプレーヤーとなると全体の約3割しかいないという調査結果もあります。 ゴルフに限らず、趣味を継続するためには「達成感を味わうこと」は重要な要素です。例えば、筋トレにはまる人が多いのは効果的にトレーニングをすれば短期間にわかりやすく結果があらわれるからなのではないかと思います。ゴルフはそうではありません。いくら練習しても上手くならないのでやめてしまったという方が皆さんのまわりにもおられるのではないでしょうか。 これは私の経験則ですが、ゴルフを始めて3年以内に115を切ればその後も続ける確率が高くなります。 110台ほどでまわることができれば、同伴プレーヤーにさほど迷惑をかけることもありませんし、ナイスショットが出る確率も上がり、時にはパーが出るなどゴルフの楽しさが増してくるようになります。つまり、どうやってこのようなゴルファーを増やすかが課題なのです。 ここで重要な役割を果たすのは練習場です。 ゴルフコースが住居に近いアメリカとは違い、日本ではゴルフとの最初のタッチポイントは練習場が多いからです。 練習場は「ゴルファー創造の起点」であり、「ゴルフ場への橋渡し」とならなくてはいけません。この「橋渡し」は練習場、ゴルフ場双方にとってメリットのあることです。 練習場止まりのプレーヤーはいずれやめてしまいますが、コースデビューをすれば、練習、プレー、また練習という好循環が生まれるからです。ですから、練習場とゴルフ場が連携していくことは不可欠です。 練習場の中でもカギとなるのは初心者を育てるゴルフスクールです。今までのスクールは「ボールを打つこと」を教えることが多かったですが、これからは「ゴルフを楽しむ」ことを教えていかなくてはなりません。「トラック一杯のボールを打ってからでないとコースに出てはいけない」といった古い考え方は捨てるべきです。どうやれば生徒さんがゴルフの楽しさを知り、その楽しさが深まるのかということを考え、カリキュラムを組んでいくのです。 そこで、提案したいのが、ショートゲームからレッスンを始めることとスクール生にカリキュラムの早いうちにゴルフ場の実際のコースを経験してもらうことです。 ショートゲームからレッスンを始めるのは私がアメリカで経験し、ゴルフにはまるきっかけとなったことです。初心者でも取り組みやすいパター、クオーターショット、ハーフショットを最初に教えることで小さな達成感が積み重ねられます。 また、スコアメイクはショートゲームにかかっていますからそれらをまず学ぶことで良いスコアが出やすくなります。 ふたつめの提案には驚かれる方も多いかもしれません。初心者がいきなりコースをまわるのは無理だと思われるでしょう。しかし、私はレッスンの早いうちにゴルフ場を体験してもらいゴルフの楽しさを知ってもらうことがこのすばらしいスポーツを続けるモチベーションを保つためにも必要なことだと思っています。 これは、アコーディア時代に「Easy Golf」という初心者向けのイベントで実証済みです。 渋谷から送迎バスでゴルフ場まで行き、プロからグリップ、スイングの基礎を学んだ後いきなり数ホールのコース体験をするという内容でしたが、イベント終了後の参加者の反応は「楽しかった」というものばかりでした。 一番良いショットのボール位置からみんなが打つスクランブル方式やグリーンから残り100ヤードまで進めてプレーするステーション方式を採用すれば時間もそんなにかかりません。 そして、何より、参加者が驚かれたのはコースの美しさです。練習場での練習は単調ですから、美しい自然の中でプレーするという目標ができることは継続意欲を高めるはずです。 もちろん、初心者に限らず、カリキュラムにコースでのレッスンを取り入れることは効果的です。また、コースデビューに同伴してあげるようなイベントを開催するのも良いでしょう。 スクールに通ってもまわりに連れて行ってくれる人がおらず、コースデビューできない人が多いからです。コースデビューできなければ、ゴルフは続けてもらえません。

多角的な連携を

このようにゴルフ場と練習場が連携することの重要性はほとんどの方が理解してくださるでしょう。問題はどのように連携を開始するかです。 私はアコーディアの社長時代に練習場事業を立ち上げるとともに提携練習場を増やしていきました。 運営ゴルフ場の近隣の練習場にスクールレッスンやコンペでのコース利用をお願いしました。提携練習場5回利用で系列ゴルフ場でのプレーが500円引きになる券を発行したり、練習場主催のコンペ予約でお客様に加えて練習場にもポイント還元したりするなど、練習場にもメリットを提供することで協力を得て、一番多い時で当時の日本の屋外練習場の4割近くの施設と提携関係を築きました。 大きなメリットを提供できたのは会社の規模のおかげもありましたが、提携促進の原動力になったのは各ゴルフ場の支配人の地道な活動でした。練習場に足しげく通い提携することの重要性を説明し提携先を増やしていったのです。 提携開始後も定期的な情報交換を続けてくれていました。こういった努力は単独運営のゴルフ場、ゴルフ練習場でも可能なはずです。持続可能な運営を続けるためには、ゴルフ場、ゴルフ練習場がお互いに歩み寄りながら最適解を見つけていくことが大切です。 地道な活動に加えて、ゴルフ場、練習場双方の立場から考えて、提携先として検討すべきなのは練習場を複数運営している企業との提携です。 例えば、中古クラブ販売として有名な「ゴルフパートナー」は練習場事業についてもさまざまな取り組みを行っています。練習場のショップ運営はもちろん、練習場自体の運営、コンサルティングなどを行っており、現在、同社が運営に関わっている練習場は100カ所以上となっています。 この店舗数は魅力的です。ゴルフ場からすれば、ひとつの契約で複数の練習場と提携関係をもてるのはとても効率的です。 そして、さらに魅力的なのは同社が新品の販売から中古品の買取・販売まで豊富なショップ運営のノウハウを持っているということです。スクールはショップ売り上げにもつながります。レンタルクラブを利用してゴルフを始めた方もいつかは自分のクラブを買います。 その時にインストラクターが的確にアドバイスすれば生徒さんはそこで購入するでしょう。また、コンペを開催すればボールやグローブの消耗品やウエアまで売れるかもしれません。その意味でも多角的な連携が可能となる「ゴルフパートナー」のような企業は頼れる存在なのです。

インドア施設との連携

その他、連携してできることはお客様に練習場に集まってもらってバスでゴルフ場に送ることです。車離れが進む若年層、運転の苦手な女性や年配の方は利用するでしょう。 これは、屋外の打ちっ放し練習場でも効果的ですが、街中のインドアスクールはより恩恵をうけます。インドアスクールの数が増加し競争が激化する中、差別化するためにゴルフ場と戦略的に提携していくことが重要です。 インドアスクールで良いのは多くの施設で導入されている自分のスイングの映像を見られるシステムです。ロングゲームの練習には最適です。しかし、アプローチの練習はどうしても感覚がつかめず上手くいきません。 そこで、提携のゴルフ場でのコースレッスンをカリキュラムに取り入れたり、バスを仕立ててコンペを開催したりして、スクール生や利用客の上達の手助けをしてモチベーションを高めるのです。 このように、新しいゴルファーを創造することにおいては練習場の役割は大きいです。ゴルフ場運営者はそれを理解し連携を深めるべきです。それではゴルフを長く続けてもらうためにはどうしたらいいのか。次回はそれをお話ししたいと思います。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら