ゴルフにはまらせるには、ゴルフ用品やアパレルもリーズナブルに
この連載では、これまでゴルフ場やゴルフ練習場がやるべきことを中心に書いてきましたが、今回は少し視点を変えてゴルフ用品やアパレルについて、一業界人としての私見を述べたいと思います。
まずは、ゴルフクラブです。私が今まで出会ったほとんどのゴルファーは「安いクラブは持ちたくない」とおっしゃいます。これは、安いクラブは飛ばないという幻想が理由かもしれません。
しかし、賢い消費者でもある彼らには「良いクラブを安く買いたい」という心理があるのも事実です。ゴルファーが新しいクラブを買うと、それを試したくなり、練習やラウンドの回数が増えます。ゴルフクラブが売れることは、ゴルフ界全体の発展につながるキーファクターなのです。
クラブは定期的にリニューアルを繰り返しますが、その前後に古いモデルが値下げして売られるのを心待ちにしているファンも多くいます。モデルチェンジの際に、高くても最新のモデルを手に入れたい層と、リーズナブルな価格で良質なクラブを手に入れたい層の両方に訴求できる良いシステムです。
そして、メーカーはクラブのブランド価値を損なうことなく販売量が増やせます。日本は、アメリカに比べると、クラブが高い傾向にありますから、ゴルファーもこういった機会を利用するべきです。
このほかにも、クラブメーカーや販売店は色々と工夫されているでしょうが、さらに売り上げを伸ばすために提言したいのは「品揃え」と「販売方法」です。
品揃えでいえば、例えばフェアウェイウッドです。多くの初級者や中級者から3番ウッド(3W)を打つのが難しいという声を聞きます。確かに扱いにくいクラブです。その場合は3Wと5Wではなく、4Wと7Wのセッティングがよいのですが、4Wを商品ラインナップに加えているメーカーはとても少ないのです。
おそらく、4Wを作らないというメーカーの選択は、長年のマーケティングデータから得た判断でしょうが、シニア、エンジョイゴルファーを中心に「打ちやすさ」を求める方々が増えている今、見直す時期に来ているのではないでしょうか。
また、アイアンについても提案したいことがあります。現在アイアンは、セットとセットに入っていない番手を単品で購入するのが普通です。男性なら6Iから9IにPWがセットになっていて、5IとAW、SWが単品で購入できるのが定番です。昔は5Iもセットに入っていましたが、ユーティリティの普及もありセット内容も変化しました。
男性用のウエッジが充実したこともあり、昔はセットに含まれていたSWは、今は単品購入となりました。ニーズに合わせて変化してきたのです。
私の提案は、この「セット」という概念をなくして、すべてのアイアンを単品で購入できるようにしてはどうか、というものです。そうすれば、最初はハーフセットとして奇数の番手のアイアンを購入した初心者が、上達にあわせて偶数番手を買い足せます。初心者用の安価なハーフセットでゴルフを始めて、後に一式買い換える今のやり方よりも、実はリーズナブルだと思います。
価格の高いクラブには打ちやすさをウリにしているブランドも多く存在します。最初からそれらのクラブでゴルフを始めれば、初心者もナイスショットの確率が上がるので楽しくなり、ゴルフを続けてくれるはずです。最初に良い印象を持ったブランドは買い換える時も選択肢の一番手になります。フレキシブルなセッティングをリーズナブルな価格で提供することは、自社クラブのファンを育てることにもなるのです。
フィッティングの重要性
販売方法で大事なことは、クラブフィッティングのさらなる活用です。ネットショップではできないサービスだからです。今では大半のメーカーが自前のフィッティングスタジオをお持ちですが、一般ゴルファーには敷居が高いようです。メーカーの直営スタジオではそのメーカーの商品しか置いていないので、メーカーの好みが決まっている人以外はなかなか足が向きません。
一方、ゴルフ量販店のフィッティングでは様々なメーカーのクラブが試せるので好評です。先日、4月に新宿にオープンしたALPEN TOKYOに行ってみましたが、シミュレーターの設置打席や3方向からのカメラであらゆるデータ計測が可能な3カメ計測打席など、4種類8打席が若者や女性、親子連れでにぎわっていました。フィッティングをしてから購入する流れが一般化していくことを予感させる光景でした。
そうなると、ゴルフ場や練習場のショップ、一般の販売店でもフィッティング施設とフィッターの育成は必須となりますので、インドア練習場なら、レッスンプロにフィッターの資格をとってもらうことも考えるべきです。
私はアコーディア時代、埼玉県のゴルフ場にフィッティング施設を導入しましたが、その時こんなことがありました。同じくらいの技量の女性ふたりが一緒にフィッティングを受け、2社のクラブを打ち比べました。数値を見るとそれぞれの打ち方に合っているメーカーがはっきりと分かれました。この数値がエビデンスとなり、おふたりともそれぞれのメーカーのクラブを購入して帰られたそうです。納得して、最適なクラブを購入することは「リーズナブルな買い物」といえるでしょう。
日本では「リーズナブル」は「低価格」ととらえられますが、「合理的で納得できる」という英語本来の意味に立ち返れば、価格が高くても納得すれば、それが「リーズナブル」となるのです。
「リーズナブル」の概念は、ゴルフアパレルでももっと意識されるべきでしょう。ゴルフウエアは他のスポーツウエアに比べて価格が高すぎます。同じメーカーのポロシャツでも、テニスウエアとゴルフウエアでは、少なくとも3000〜4000円の違いはあるでしょうか。1万円を超すポロシャツを着ているテニスプレーヤーはそうそういませんが、ゴルファーではよく見かけます。
ゴルフのプレー代金はバブルの頃に比べて安くなっているのに、ゴルフウエアの価格はあまり下がっていないように感じます。この価格差についてメーカーの皆さんは合理的で納得できる説明ができるでしょうか。
「吸湿性や速乾性などの機能が充実している」「ゴルフスイングをしやすいようなカッティングや素材にしている」など、一見、きちんとした説明のようですが、テニスでも汗はかきますし、サーブ、ボレーなど激しい動きをしますから消費者は納得してくれないでしょう。
これは、ゴルフがお金持ちだけのスポーツであった頃のなごりではありませんか?
もしかしたら、当時のゴルファーは高いウエアでなければ買ってくれなかったのかもしれません。しかし、時代は変わったのです。ゴルフは誰もが楽しめるスポーツへと変革をとげてきました。ゴルフアパレルの価格も変えていくべきでしょう。
女性、若い男性には「ファッション性」も重要です。特に女性は「人とかぶりたくない」「同じ服を着ていると思われたくない」という心理が働きますので、自分らしいおしゃれのできるウエアなら少々高くても購入する方が多いようです。
若い方は男女を問わずファッションも自分を表現する手段ととらえるところがあります。機能、価格、ファッション性など、それぞれのブランドのポジショニングをきちんと確立し、訴求することが大切です。
販売方法でも、ゴルフ用品やアパレルの販促にはもっとイベントを活用するべきだと思います。女性ゴルフファッション誌のReginaのコンペに参加する女性のほとんどはウエアを新調してこられるそうです。「晴れの日」をファッションでも楽しむのです。
雑誌でなくても、イベントの様子は参加者に事前に断っておけばSNSで拡散できます。他の人に見られると思うと、参加者は新しいウエアを購入します。そして、その様子を見て気に入った方が購入してくれる。そんな好循環を生みだすためにもイベントは重要です。
クラブについても、ゴルフ場での試打イベントは有効です。自社の顧客を集めたイベントの他にも他業種と連携して新たな顧客層へアプローチしていくべきでしょう。
ゴルフ場では、証券会社や自動車メーカーが自社の顧客を対象として、イベントを開催することがよくあります。彼らのイベントに便乗するのもいいですし、自社からイベントに興味を持ちそうな異業種の会社に共同でのイベント開催を持ちかけ、そこで自社製品のデモを行うなど、できることはたくさんあります。購入する理由(リーズン)を与えることも、商品の「リーズナブル」な提供の仕方なのかもしれません。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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