ゴルフ業界ももっとダイバーシティ
「ダイバーシティ」という言葉を聞かれたことがあると思います。日本語では「多様性」と訳されます。ビジネスでは「インクルージョン」(包括・包含)と組み合わせて、性別や年齢、国籍などさまざまな属性を持つ人々を等しく認め、互いの違いを受け入れ、活かし合いながら、それぞれに実力を発揮できる職場のあり方を指します。
ゴルフ界に求められているのもこの「ダイバーシティ」です。
ゴルフは老若男女が腕前の違いを超えて一緒に楽しめるスポーツなので、多様なゴルファーが生まれるのは自然です。中でも女性ゴルファーを増やすことはゴルフ業界の長年の課題。日本ゴルフ場支配人会連合会によると、2019年のゴルフ場来場者の女性比率は約12%でした。コロナ禍で女性ゴルファーが増加したという統計もありますので、現在はもう少し多いでしょう。
一方、2021年のアメリカのゴルフ場来場者の25%が女性でした。(NGF調べ)日米ではゴルフ場の立地が違うものの、日本のゴルフ界もアメリカ並みの数字を目指すべきでしょう。
女性ゴルファーが増えればゴルフ界全体が活性化します。女性はファッションに敏感な方が多いため、プレー回数が増えればアパレル類の購入も増えていきます。「習いごと」に慣れている女性はスクールや練習場にも通うと思います。
また、女性の増加によって男性ゴルファーも増えるでしょう。レジャー選択の決定権は女性が握っていることが多いため、パートナーの女性がゴルフをすれば当然カップルでのプレーが増えます。ゴルフ場や練習場に女性が増えると華やかになり活気が生まれ、男性も楽しい気持ちになるはずです。
そこで、「多様性」の第一としてゴルフ場に女性を増やすための具体策を考えてみましょう。
最初に思い浮かぶのは女性用施設の充実です。女性用ロッカーを入れ替えたり、パウダールームを新設したりと設備投資を行っているゴルフ場も多いでしょうが、資金が潤沢なゴルフ場ばかりではないので、優先順位をつける必要があります。まずは、コース内トイレの見直しです。
清潔なことは当然ですが、女性が安心してゴルフ場での一日を楽しめるよう、トイレはハーフで2カ所は確保したいところです。トイレが気になるので飲み物を控える女性もおられるようですが、これは熱中症予防の観点でも危険です。また、古いゴルフ場では男女が同じトイレを使う場合もありますが、これはすぐに改善するべきでしょう。トイレ擬音装置、いわゆる「音消し」はついてますか?女性用の公衆トイレのほとんどには「音消し」が設置されています。女性用として独立している場所でもそうなのですから、男女のトイレが並んでいることも多いコース内のトイレには必須といえます。
スルーは女性にも人気
レディースティの見直しも進めるべきで、短めのセッティングにするのは基本です。多くの女性はミドルホールでもセカンドにウッドを使います。スコア100前後の女性でも、2打目までナイスショットなのにパーオンできないと「楽しくなくなる」と言います。ゴルフは「楽しい」が原則です。ゴルフ場運営大手のPGMでは、レディースティよりもさらにピンに近いピンクティを設置して好評なようです。女性がラウンドしやすい距離設定は満足度を高め、リピーター化の一因となります。
レディースティのセッティングに際しては、支配人の皆さんもそこからプレーしてみることをおすすめします。思ったより傾斜があったり、ピンまでのライン上に木の枝がかかっていることなどは実際に立たないとわかりません。
「スループレー」も女性客に喜ばれます。「女性は休憩をとってゆっくりプレーしたいはず」という固定観念をお持ちの方には意外かもしれませんが、実例があります。
私が運営をお手伝いしている「OGC岐阜中央ゴルフパーク」(岐阜県)の女性ゴルファー比率は、スループレー導入後に30%を超えました。このゴルフ場は最寄りのICから約4キロ、岐阜駅からも高速道を使わずに30分とアクセスが良く、比較的短めのコース。女性ゴルファーをひきつけるポテンシャルは十分なので、もう一押しが必要だと考えました。
そこで前金制のスループレーを導入したら、特に平日に来場される女性に喜ばれました。何人かの方にお話を伺うと、「帰宅後、家事をしなければいけないから早く帰れるのはありがたい」ということでした。スループレーは時間を有効に使いたいゴルファーに人気ですが、その中に女性が含まれることも忘れてはいけません。
ここで、スループレーについてお話しましょう。世界のゴルフ場でハーフ間の休憩があるのは日本だけです。コロナ禍の当初、スループレーへの移行が進みましたが、今は元に戻したゴルフ場が多いようです。その理由は、昼食の喫食率でしょう。食事なしでは客単価が下がるという発想です。
しかし、考えてみてください。例えば食事付きで8300円の場合、おそらく食事代は1300円程度なのでプレーによる収入は7000円となります。食事別のスループレーに変更した場合、このタイプのプレースタイルが少なくなり、需給バランスが崩れているため7500円での販売は可能だと思われます。稼働率がマックスに近い大手ゴルフ場運営会社では、調理を簡素化して極限までコストを下げ、飲食部門でも利益を出そうとしていますが、単独運営のゴルフ場はどうでしょう。まだキャパシティに余裕があれば、大資本と同じ土俵で価格競争をするのではなく、多様なプレースタイルの提供で来場者増を図るべきです。
スループレー導入による喫食率の低下を、単純にレストラン収益の減少と捉えるのではなく、レストラン部門のコストコントロールを踏まえた上で、ゴルフ場トータルでの利益増を目指す施策として検討する価値はあるはずです。レストランに関しては、きちんと調理したおいしい食事を提供することで、低価格だけを追求する食事付サービスと本質的な差別化を図れ、大半のお客様はその価値を理解してくれると思います。
コースに合わせた顧客設定
「多様なお客様」という意味では、ジュニアゴルファーも大事ですが、私は昨今の競技一辺倒のジュニア育成には賛成できません。
もちろんゴルフ界を盛り上げるためには、宮里藍プロや松山英樹プロなど世界で活躍するヒーローが欠かせませんが、すべてのジュニアがプロゴルファーを目指す必要はありません。プロになる夢がついえた時にゴルフをやめてしまう人もいるでしょう。ゴルフ場がすべきなのは、長くゴルフを続けてくれるジュニアを増やすことです。
例えば、ファミリーを巻き込んだジュニア育成です。私がリビエラCCの支配人の頃、メンバーのラウンド中にその方たちの子女や奥様を対象としたレッスン会を開きました。レッスンを終えた家族はレストランで待ち、メンバーが合流。そうやってゴルフを覚えたジュニアはまたゴルフ場に戻ってきてくれます。楽しい思い出の中にゴルフが存在するからです。
私が日本のゴルフ界として注力すべきだと思うのは、就職して自分でゴルフ代を払えるようになった20代半ばから30代の若年層です。
リクルートは21歳〜22歳の若者がゴルフ場や練習場を訪れた際、料金が無料になる「ゴルマジ!」を展開していますが、ゴルフへの参入障壁を下げるためにはもう少し上の年齢層を対象に加え、双方にメリットのある特典設定にすればもっと成功するはずです。
30代までの層にゴルフを始めてもらうことは、女性層の拡大と同様、ゴルフ界最大の課題なので本気で取り組まなければいけません。
ゴルフというスポーツの特性を考えれば、アイデアと工夫で多様なお客様をゴルフ場に呼べますが、ひとつのゴルフ場で「ダイバーシティ」を完結する必要はありません。都心から近く、比較的狭いコースは女性を対象としたサービスを拡充する。一方、アスリートゴルファー対象のコースや、ビギナーを連れていきやすいゴルフ場など、コースの特性とポジショニングに合わせてターゲット層を決めることも必要です。どのようなお客様が集まるゴルフ場を作っていくかを考えることが大切なのです。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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