コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。
この連載では、筆者が提唱する「18-23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。
研究成果に基づくアイデアと新しい商品開発の提案
過去3回に渡り、暑熱環境下におけるキャディの労働とユニホームについて論じてきたが、筆者の研究結果を踏まえて、暑熱環境下でのキャディユニホームならびにゴルフ場従業員の熱中症対策として、以下の新商品開発の提案をしたい。
1)温度スケール付きヘルメットの開発
2)冷却機能付き手袋の開発
3)大型扇風機の風にあたると冷却されるキャディユニホームの開発
4)ゴルフ場従業員向け熱中症予防教育の教材開発
1)温度スケール付きヘルメットの開発
被検者のキャディ2名における帽子内(ヘルメット内)温度は、いずれも45度程度まで上昇することが観察された。このように、真夏のゴルフ場では、キャディの頭部は著しい高温となり、熱を逃がす手立てが行われないまま労働が継続されており、改善されることが急務である。
現在、市場が拡大している「ファン付ウエア」や「ファン付ヘルメット」については、まだまだ目新しさを感じさせる商品であるため、顧客に対する印象(客よりも高価な製品を身に着けていると思われること)からも、キャディへの着用・普及には時間がかかると思われる。
そこで、アナログ的にヘルメット内温度が目視で確認可能なスケール(温度計)を付属した商品開発ができないか。市販されている「温度シート」や「温度シール」、「温度インジケータ」などを付したキャディ用帽子(ヘルメット)の製品化なら、比較的容易だろう。
実験では、キャディ業務開始時の帽子内温度は20度台後半であったことから、
「30度」(青色:安全)、「35度」(黄色:注意)、「40度」(赤:危険)、「45度」(黒:警告)、等々、3段階~4段階程度での、色別で目視による判断ができる製品開発を提案したい。
危険水準に達する前に脱帽し、通気する行為に繋げるだけでも、生体への負担を軽減できる。
2)冷却機能付き手袋
ナイロン製の手袋着用を義務付けるゴルフ場は、今回実地踏査に協力頂いたBゴルフ場以外にも多く存在する。顧客に対する丁寧さと日焼け防止の意図もあるかもしれないが、近年の猛暑の中での作業を考慮すると、暑熱環境下において着用させることは中止するべきである。
暑熱環境下や運動時、手を冷やすことで得られる効用について、近年、様々なエビデンスが示されている。人の皮膚血管のうち、手のひらなど四肢末梢部には、動静脈吻合血管(AVA:Arteriovenous anasto-moses)が存在する。このAVAは体温を調節する特殊な血管であり、この血管を通る血液を冷やすこと(手掌冷却)で冷えた血液が体内を巡り、身体の中心部の体温(深部体温)を下げることに貢献するとされている。
このことから、キャディ用手袋を単なるナイロン手袋ではなく、冷却効果のある製品に改良・効果検証して、「ゴルフ場キャディ専用手袋」として販売されることが期待される。キャディには女性が圧倒的に多いことからも、素手の状態での労働は敬遠されることが考えられる。「日焼け防止+冷却」の機能があり、なおかつ、従来のキャディ業務の支障にならない手袋の開発が望まれる。
3)大型扇風機の風にあたると冷却されるキャディユニホームの開発
北ら(2022)は、温湿度を低減できる帽子開発として、「広口の通気口のある帽子」や、「1センチ四方の小窓が帽子全体にある帽子」のプロトタイプを作成し検証してきた。
帽子においては、歩行により前から風が当たることで、ある程度の温湿度が除去できる。同じような発想で、着衣の前方・側方・後方に通気口のあるウエアが開発できないか。
このウエアは、大型扇風機の風を浴びると、前方から入った風が、側方と後方から抜けて行き温湿度を除去する、というものである。3~4ホールに1ヵ所程度、大型扇風機を置くことができれば、かなりの効果が期待できるだろう。
実地踏査を行った各ゴルフ場のユニホームを見ると、
・Aゴルフ場:背中側のみに通気口がある
・Bゴルフ場:長袖の下半分がメッシュ仕様になっているが通気口はない
といったデザインになっていた。
筆者の新提案として、前方・側方・後方のそれぞれに通気穴があり、前方から強力な風を浴びた際に、一気に風が抜けるような構造のユニホームがあれば、暑熱対策に大いに貢献できるはずである。
ユニホームメーカーなどからの新商品開発を期待する。
4)ゴルフ場従業員向け熱中症予防教育の教材開発
ゴルフ場支配人に対する調査結果を見ると、一般論として熱中症やその回避策については理解していても、真に、それに適応する知識や対策は乏しかった。暑さ指数(WBGT/湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature)測定器を所有しているゴルフ場もごく僅かであった。
仮にこれを所有している場合でも、近年の突発的な猛暑下においては「運動は原則中止」とされる高温に達する日もおそらく多く出現する。
経営上の観点から、藪蛇的になってしまうことを恐れて、敢えて計測しないことも考えられる。仮に「運動は原則中止」の値になったとしても、これはあくまでも注意喚起に過ぎない。
支配人アンケートでは、一見、ポジティブな回答が多いようにも見えるが、実態としては暑熱対策の意識が低いことが伺えた。現場責任者(支配人)の「つもり」と「実際」に乖離が見られると言わざるを得ない。
現場を指揮する支配人の認識もあまり高くなかったため、支配人を含む全ゴルフ場従事者向けに、
・「ゴルフ場で特に暑くなる場所マップ」
・「キャディの着衣内温度が高くなる色・素材・形状・時間帯」
・「着衣内の温湿度を逃す方法」、等々
などの教材開発が望まれる。
真夏にゴルフが出来なくなる日は近い
年々進行している温暖化を凌駕する工夫やアイデアが求められている。それを考え商品開発を続けて行かなければ、キャディの健康だけでなく、今後夏場にゴルフを楽しむことさえできなくなるだろう。
例えば、グリーン周辺に置かれた扇風機の風で、芝の表面温度が10℃~20℃程度も低くなることを筆者らは確認している。メーカーによる商品開発だけでなく、「ゴルフ場の環境」、「ルール」、「マナー」、「用具」について、環境や技量に応じてカスタマイズしたり、アダプテーション(適応)できる柔軟な姿勢や発想がいまゴルフ場には求められている。
参考文献
北 徹朗ら(2022)帽子の素材・色・形状が暑熱環境下でのスポーツ実施中の生理指標と帽子内温湿度に及ぼす影響、デサントスポーツ科学Vol.42 、pp.37-51
註
本研究は(公財)日本ユニフォームセンター「ユニフォーム基礎研究助成」(研究代表者:北 徹朗)により実施された
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年10月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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