総務省が5年に一度、20万人規模の調査をまとめる「社会生活基本調査」が今年8月、発表された。これにより「コロナ禍におけるゴルフ人口の変化」を読み解く記事の第2弾をお届けする。
前号の第1弾では、2016年との比較でゴルフ人口13%減、ゴルフ行動日数16%増という、異常な凸凹の実態を明かした。本稿では信頼に値する各種調査との比較検証で、何がわかり、何がわからないかを精査しよう。
2021年社会生活基本調査を読むゴルフデータ間の比較検証
前号では、最新の「社会生活基本調査」から次の2点を確認した。
① ゴルフ人口▲13%減少
② 年間平均ゴルフ行動日数+16%増加
ゴルフ人口は大幅に減ったものの、プレー需要は大幅に伸びたことが確認された。この点は非常に重要なポイントである。
社会生活基本調査長期推移の確認
2011年から2021年まで、3次調査の変化率を〈グラフ1〉とした。
最新の2021年の変化率は、2011年と良く似ている。言うまでもない。2011年は東日本大震災の発生により、ゴルフ人口▲9%減少、平均行動日数+14%増と大きく変化したが、その5年後の2016年は小さな変化量におさまっている。しかし、2016年のゴルフ人口量そのものは、その10年前の2006年レベルには回復していない。つまり、震災の影響が緩和しても、長期減少トレンドが働いたのである。
今回、2021年の変化原因がコロナ禍にあることは間違いない。コロナ禍による需要増と、長期トレンドによる人口減の推移を、正確に分離・把握して、将来に備えなければならないことは自明である。
他スポーツとの比較
社会生活基本調査は、ゴルフだけの調査ではないため、他のスポーツ市場へのコロナ禍の影響も確認できる。「プレー費用」「民間営利スポーツ施設依存度」で、ゴルフと似たテニス、ボウリング、スキーの状況を〈グラフ2〉に表した。ここから明らかなのは、他スポーツでも参加人口はゴルフより大きく減少している。
ゴルフ市場他データとの比較
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表1[/caption]
社会生活基本調査と比較検証できるゴルフ関連データを〈表1〉とした。
これらの「コロナ後の変化」を社会生活基本調査と比較し、コロナ後の変化をより正確に把握したい。
〈表1〉はどれも調査主体、調査方法が異なるため、社会生活基本調査と単純に比較できない。調査につきものの「誤差」は、調査方法、調査規模により変化するからである。〈表1〉は、
・ 全数調査
・ 標本調査
・ 定点調査
に大別される。標本調査はさらに、
・ 統計標本調査
・ ネット標本調査
に区別される。以下、調査に関わる基礎知識を整理しよう。
全数調査とは
母集団(知りたい集団)に属するすべての個を調査し、母集団の全体量、平均値等をつかむ。誤差はないが時間、コストがかかる。
全地域・全住民をもれなく調査する「国勢調査」は政策、学術研究の根幹である。統治国家の必須条件であり莫大な調査費用をいとわない。その点「ゴルフ場利用税」から見たコース利用者調査は、業界がもつ異色の全数調査といえる。費用負担なく、すべてのコース、すべての利用者が調査されるもので、ゴルフ界、ゴルフ産業界にとっては市場を把握するうえで幸運な調査データである。ゴルフ振興のため、業界は利用税の撤廃運動を行っているが、仮にこれがなくなれば、ゴルフ界は貴重なデータを失ってしまう。筆者にとってはある種、皮肉な運動に思える。例:①、④
標本調査とは
母集団から可能なかぎり、偏りなく選び出した少数標本を調査し、その全体量、平均値から母集団を推定する。時間、コストを節約できるが誤差は避けられない。標本数が多いほど誤差は小さくなる。例:②、⑤
定点調査とは
〈表2〉では「特定サービス産業動態調査」が該当する。一定のゴルフコース、ゴルフ練習場の来場者数を定期的に継続調査するもの。全国来場者数(母集団)の推計は不可能だが、毎月の変化量が迅速に観測できる。〈表2〉はその1ホール、1打席あたりの来場者数で、対象調査施設の変動が除去されている。
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表2[/caption]
統計標本調査とは
母集団から可能なかぎり偏りなく標本を選び出す調査(無差別抽出)。標本は母集団の精巧なミニチュアであり、誤差の範囲(標準誤差)を統計学的に明示できる。例:〈表2〉では社会生活基本調査のみ。
ネット標本調査とは
母集団は、知りたい集団そのものではない。民間調査会社があらかじめ募集登録を受けた「ネット調査協力者集団」(通常2、3百万人)である。そこから知りたい集団の構成率に合わせて標本を割当てる。ゴルフ参加率調査の場合、年齢・地域を国勢調査の構成率に合わせて、ネット調査協力者集団に割り当てて標本とする。標本は母集団の精巧なミニチュアとは言い難い。時間、コストが統計標本調査の10分の1以下に節約できるが、誤差は避けられない。また標準誤差も明示できない。
特定ゴルフ練習場来場実績
⑦はカードシステムを導入した東海、近畿2施設の2019年~2021年の全来場者データである。2019年以降、すべての顧客来場者の「連続来場経過」が記録されており、コロナ禍の影響が正確に分析集計できる。たった2施設であり、複数施設をかけもちする利用者による誤差も存在するが、多角的な分類集計結果が正確に得られる。
母集団に対する標本率
ゴルフ人口(ゴルフ参加率)を得るには現実的に標本調査しかない。〈表2〉にゴルフ人口を比較検証できる三標本調査の特徴を整理した。
・ 母集団
・ 標本数(調査規模)
・ 標本抽出方法
・ 捕捉ゴルファー数
・ 母集団に対する標本率
により、調査結果の信頼性が決まる。この特性を常に留意して比較検証したい。この中で社会生活基本調査の信頼性が圧倒的に高いことが、直感的に理解できる。
ただし、社会生活基本調査の欠点は、調査が5年間隔であること。本稿のテーマはコロナ禍の影響分析にある。社会生活基本調査では2016年対2021年を比較するしかない。この間、必要なコロナ直前の2019年データについては「スポーツ庁調査」と「レジャー白書」でこの点を補いたい。
社会生活基本調査標準誤差
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グラフ3[/caption]
厳密な統計調査である社会生活基本調査は「標準誤差」も公表されている。年齢別ゴルフ人口の標準誤差を〈グラフ3〉とした。標準誤差の意味や計算式は難解だが、標準誤差が大きいほど母集団の真の値から外れる可能性を示す。
留意すべきは全体ゴルフ人口(全年齢)が最も正確であり、各年代別ゴルフ人口は段違いに不正確であることだ。その理由は、各年代別のゴルフ参加有効回答数が、母集団各年代別人口に比例しないためである。
このことは、最も信頼すべき社会生活基本調査の結果も、年齢別、地域別、行動頻度別等のゴルフ人口詳細を用いる場合に、注意が必要なことを示している。〈表1〉すべての標本調査で最も信頼度が高いのは、ゴルフ参加率すなわちゴルフ人口である。
他データとの検証ポイント
比較検証は以下の4点に絞りたい。
① ゴルフ人口(ゴルフ参加率)
② 都市階級別ゴルフ人口
③ 年代別ゴルフ人口
④ ゴルフ活動率(平均利用回数)
⑤ ゴルフ行動量(コース利用者数+練習場利用者数)
ゴルフ人口(ゴルフ参加率)
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グラフ4[/caption]
三標本調査の「ゴルフ人口変化対2016年」を〈グラフ4〉、「コロナ後の変化」を〈グラフ5〉とした。社会生活基本調査のゴルフ人口▲13%減は、スポーツ庁のコロナ後と一致する。コロナによるゴルフ人口の減少は間違いない。
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グラフ5
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都市階級別ゴルフ人口
都市階級別ゴルフ参加人口の変化はスポーツ庁の調査と比較できる。〈グラフ6、7、8〉とした。
社会生活基本調査に表れた「大都市」の+10%増はスポーツ庁には確認されない。
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グラフ6[/caption]
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グラフ7[/caption]
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グラフ8[/caption]
年代別ゴルフ人口
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表3[/caption]
「コロナ後に若い人が増えた」は、ゴルフ界共通の認識であり、これにより「全体ゴルフ人口も増えた」と考えがちである。ところが筆者はここに違和感を覚えるため、解明する必要があると考える。まず、年代別ゴルフ人口の変化を調査データで確認しよう。
社会生活基本調査、スポーツ庁調査のコース年代別人口変化を〈グラフ9〉、練習場の変化を〈グラフ10〉とした。レジャー白書の調査は年代別の有効回答数が少ないため、本稿では割愛する。
・ おおまかな傾向として40代以上はコロナにより参加人口減少が読み取れる。
・ コロナ後増加したはずの20、30代増加が少ない。
・ スポーツ庁の10代コロナ後急増は〈表3〉のように有効回答数が少なく信頼度が低い。
以上の結論として「年代別人口変化」は、〈表1〉の現有標本調査では判断しがたい。
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グラフ9[/caption]
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グラフ10[/caption]
ゴルフ活動率(平均利用回数)
2021年社会生活基本調査は「ゴルフ活動率」が急増した。しかし、これを他の標本調査で検証するのは年代別参加人口の検証以上に困難である。標本調査では直近1年間でのゴルフ参加の「有無」を最初に問う。参加したか、しないかの二択であり、誤回答はない。
活動率は、参加回答者に、さらにそのスポーツの参加回数を求める。それも参加回数そのものではなく、参加回数を階層化した選択肢から選ばせる。複数スポーツの参加者は、直近1年間の回数をそれぞれ集計し回答しなければならない。そのため全体平均回数は、各参加階層選択肢の「中央値」を設定し計算される。まして社会生活基本調査の場合は「コース回数」と「練習場回数」を合算しなければならないため、回答の「記入誤差」がどうしても大きくなる調査項目である。
標本数が小さい場合は、平均回数の信頼性はさらに低くなる。コロナ後の社会生活基本調査の平均活動回数増加(対2016年)の他調査比較・検証は、不可能である。
ゴルフ行動量(利用回数)
年代別参加人口、平均利用回数の検証は困難だが、全国コース、練習場利用回数のコロナ後の変化は確認しておきたい。〈表1〉の特定サービス産業動態調査、利用税から見たコース延べ利用者は、利用数そのものである。
対2016年、コロナ後の変化を〈グラフ11、12〉とした。コロナ後の変化は良く一致している。コース利用者は+3%増、練習場利用者は+18%増加した。カードシステムを導入する練習場は大都市に立地する。特定サービス産業動態調査の対象練習場が大都会ならば、コロナ後の大都市ではゴルフ練習場利用者が+18%増加と断定して良い。
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グラフ11[/caption]
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グラフ12[/caption]
なぜコロナ後コース、練習場利用者数増加に大差が生じる?
コロナ後のコース利用者数は、
・ 全数調査利用税+3%
・ 特定サービス産業動態調査+4%
これに対し練習場利用者は、
・ 特定サービス産業動態調査+18%
・ カードシステム練習場+18%
である。コース、練習場利用者の変化に大差があることは間違いない。次号では、このギャップについての解明にも挑戦する。
最新の「社会生活基本調査」で明らかになった、コロナ後のゴルフ人口▲13%減を、ゴルフ界、ゴルフ産業界は真摯に受容し、将来予測をしなければならない。しかし、そのために必要なゴルフ人口・ゴルフ需要の詳細は、社会生活基本調査では十分でなく、他の標本調査でも補完出来ないことを本稿で確認した。
次回は特定のゴルフ練習場におけるカードシステムのデータと比較して、業界に今、何が必要なのかを考える。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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