プレー人口激減期(18-23問題)とゴルフ場(第17回) 暑さ対策としての「錯視ゴルフウエア」開発の提案

プレー人口激減期(18-23問題)とゴルフ場(第17回) 暑さ対策としての「錯視ゴルフウエア」開発の提案
コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18-23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。

子どもの「赤白帽研究」で注目された暑熱環境下におけるウエアの色と素材

武蔵野美術大学大学院の北研究室には、現在2名の社会人大学院生が所属し、博士の学位取得に向けて研究している。研究テーマの1つである「熱中症対策に優れた児童用帽子のデザイン開発」の研究において、真夏の直射日光下での赤白帽の表面温度変化を観察した実験結果については、東京新聞の朝刊1面に大きく掲載され、テレビやラジオ等でも紹介されるなど、反響が大きかった。 赤や黒は熱を吸収しやすいため、高温になることはあらかじめ予測していたが、近年の異常な猛暑下では、実験開始後、僅か30分で10度程度もの差がついた。要するに、赤色の方が10度も暑い、ということがわかった(図)。具体的には、実験開始時には、いずれの色も表面温度は28度前後だったが、最高温度は白が46・8度に対し、赤は56・8度であった。 「観測史上最高」という言葉が、毎夏繰り返される近年において、10度も高温になることは、熱中症など健康管理上も大きな問題となる。 図.真夏は赤の方が10度も暑くなる(撮影:武蔵野美術大学 北 徹朗研究室)

赤を基調としたデザインが目立った2020東京五輪の各国ゴルフ代表選手のユニホーム

ゴルフウエアはゴルフ場の緑に映える派手なデザインが多い。2021年7月29日~8月7日に開催された東京五輪の各国ゴルフチームのユニホームを見ると、強豪のアメリカ代表は、「風」・「林」・「火」・「山」のコンセプトで、ポロシャツは初日から最終日までの4日間、日替わりで異なるデザインを着用し、3日目の「火」では赤系が特徴のウエアだった。日本代表は、赤と白を基調としたデザインで帽子も赤系、カナダ代表もポロシャツは赤だった。 東京五輪開催中の気候について、リオ五輪金メダリストの朴仁妃選手は「過去20年間でこんなに暑い中試合で戦うことはなかった」と話し、さらに、ゴルフ競技中にキャディ2名が熱中症でダウンしている。東京五輪開催前から暑さの問題は懸念されていたが、心配は現実のものとなった。 国旗のカラーをモチーフにしたり、国の理念をコンセプトにしたデザインを追求すると、熱を吸収しやすいカラーやデザインになりやすい。しかし、近年の猛暑下において、長時間プレーを伴うゴルフ競技には、黒や赤など濃い色を基調としたウエア着用は熱中症の観点から好ましくない。

スポーツにおいて「赤」の着用は勝率が高い?

2004年のアテネ五輪での4種の競技(ボクシング、テコンドー、グレコローマンスタイル・レスリング、フリースタイル・レスリング)における各選手の勝率を調べたところ、「赤のグローブ」、「赤の防具」、「赤のユニホーム」などを身に付けた選手は、青を身に付けた選手よりも勝率が統計学的に有意に高かったことが、世界最高峰の科学雑誌Nature(Hill et al., 2005)に発表された。 その一方で、大腿四頭筋の測定において指示文字を「赤」、「青」、「グレー」で呈示したところ、赤文字を見た条件では瞬発力が低下することが示された、という研究も著名な研究誌(Neuroscience Letters)で発表されている(Payen et al.,2011)。すなわち、赤を身につけた選手と青を身につけた選手が対戦した場合、青選手は赤を目にすることによって瞬発力が低下し、勝率が下がるとの解釈もできる。このように、「赤」による筋出力や心理学的な要因には様々な議論がある(柴崎、2017)。

目の錯覚〈錯視〉を利用した、ゴルフアパレル開発の提案

2017年2月に、錯視など知覚心理学で著名な立命館大学・北岡明佳教授がSNSに投稿した画像「赤く見えるイチゴ」が世界中で話題になった。実際には、すべてシアン色(青緑色)の画素でできているがイチゴは赤く見えるという『2色法による錯視』とされている。 この技術を応用利用することで、「赤に見えるが、実際は赤ではない」(つまり高温にならない)ウエアや帽子を開発できないか。それが可能なら、赤(に見える)ウエアの着用を楽しみつつ、暑熱回避もできる。 北岡教授は、「錯視の作り方」を日本色彩学会誌で下記のように解説している(一部抜粋)。 まず、ターゲットを選ぶ。ここでは赤いハートとしよう。この赤に青を誘導して赤紫に見せたい時は、ハートの周りを黄で囲む。一方、赤に黄を誘導してオレンジに見せたい時は、ハートの周りを青で囲む。つまり、色の対比の刺激配置である。続いて、この上に色の短冊を乗せる。赤に青を誘導して赤紫に見せたい時は青の短冊を、赤に黄を誘導してオレンジに見せたい時は、黄の短冊を乗せる。要するに、色の同化の刺激配置である。こうしてできた図は左のハートは赤紫に見え、右のハートはオレンジに見える。(筆者が一部修正)   日本には「紅白の文化」があるし、赤と白は「国旗・日の丸」の色でもあるので、日本人としては「赤色」は大切にしたい。だが、従来のままのアパレルでは、赤色は猛暑下において、パフォーマンスの低下や熱中症の懸念も極めて大きい。 『赤ではないが、赤く見える』ウエアや帽子の開発が進めば、「熱中症対策」と「着る楽しみ」の一石二鳥ではないか。 参考文献 ・服部由季夫、北 徹朗(2021)暑熱環境下における児童用赤白帽表面温度の経時的変化―サーモグラフィを用いた色・素材別の観察―、日本教育実践学会第24回研究大会論文集、pp.14-15 ・Eiko Oizumi(2021)ゴルフグローバル:猛暑との闘いだった東京五輪ゴルフ、2021年10月17日配信ウェブ記事(2022年10月12日確認) ・柴崎全弘(2017)ヒトはなぜ赤に反応するのか? : 赤色の機能に関する進化心理学的研究、名古屋学院大学論集社会科学篇54-1、pp. 81-96 ・北岡明佳(2012)色の錯視いろいろ(4)簡単で錯視量の多い色相の錯視図形の作り方、日本色彩学会誌第36巻第1号、pp.45-46 ・Hill,R.A.,&Barton,R.A.(2005)Psychology:red enhances human performance in contests. Nature, 435 (7040),pp.293-293. ・Payen,V.,Elliot, A.J.,Coombes,S.A.,Chalabaev,A.,Brisswalter,J.,& Cury,F.(2011) Viewing red prior to astrength test inhibits motor output. Neuroscience Letters, 495(1),pp.44-48.
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年11月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら