コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18-23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。
選択の自由性に乏しいゴルフ
過去の連載の中でも、繰り返し述べてきたが、ゴルフ場での遊び方が1つしか無いことが改善されない限り、新たな層がゴルフ場に足を運ぶことは考え難い。R&A規則の名の下に、クラブやボールなどのゴルフ用具には選択の自由性が殆ど無いし、9ホール間に昼食を挟む決まりきったプレースタイルはゴルフ場に足を向けるハードルを上げている。
例えば、スキー場ではアルペンスキーだけでなく、スノースクーターやソリ、スノーボード、テレマークスキー、ショートスキーなど、多様な用具が使用可能であるし、リフト券にもシーズン券、1日券、半日券、回数券、1回券などがある。技術、興味、意欲の高低や濃淡によってその日の遊び方を選択できるが、ゴルフ場の場合は選択の自由性が極めて低い。
エンジョイゴルフでもR&Aルールに則る用具しか使えない
筆者の研究室に所属する大学院生(博士課程)は、ゴルフクラブを初めて握る人でも真っすぐボールが飛ばせ、コースを楽しめるような初心者向けクラブの開発研究を進めている。先行研究でも、初心者に有用なクラブの形状や構造は示されてきた(北ら,2019)が「初心者向けクラブ」等、用具選択の自由性がもっと高い環境にならないものか。
「R&Aルール違反の用具をエンジョイゴルフ(私的な遊び)でも使ってはダメですか?と問われれば、ダメです、と答えるしかない」と、以前に日本ゴルフ協会の担当者から聞いたことがある。例えば、フットゴルフ(サッカーボール)が認められるのに、ゴルフになるとゴルフ場に持ち込めるクラブやボールに細かい制限を加えているのは、傍から見ていても腑に落ちない。法律違反を冒しているわけではないし、コースを傷つけるわけでもない。むしろ、ダフリも減るし、ストレートボールも多くなり、ゴルフ場運営には好都合であるはずだ。
公式競技出場やハンデ申請などのための条件であれば理解できる。しかしながら、ゴルフを愛好する人は、公式競技やハンデ向上よりも、単にゴルフ場を楽しみエンジョイゴルフとしてプレーする人が大半ではなかろうか。また、そのような層が定着して行くことが、ゴルフ産業界においても望むところなのではないのか。
エンジョイゴルフは9ホール以下で充分
先月(10月)、楽天GOLAでゴルフ場を予約し、ゼミ生と一緒に薄暮のハーフラウンドを楽しんだ。昼過ぎまで仕事ができるし、時間も2時間程度で切り上げられるので、薄暮ハーフはよいパッケージだ。筆者は、エンジョイゴルフは9ホール以下で充分だと考えている。
ゴルフ場を検索していると「フットゴルフ」での予約枠も散見された。フットゴルフの人気があることは知っていたが、こうしてネット予約できるようなゴルフ場が幾つも出現していることは、ゴルフの選択の自由性が高まって行く上で喜ばしいと思う。過去の連載の中でも、繰り返し述べてきたが、ゴルフ場では遊び方が1つしか無いことが改善されない限り、新たな層がゴルフ場に足を運ぶことは考え難い。
天才的な発明「500歩サッカー」
2022年7月に、一般社団法人世界ゆるスポーツ協会は、ミズノ株式会社と共同で、新競技「500歩サッカー」の開発を発表した。このスポーツは「全ての人が500歩しか動けないサッカー」であり、
1)動くごとにウエストポーチに装着したスマホ画面(500歩サッカーデバイス)の歩数が減っていき、残り0歩になった時点で退場
2)ただし、その場で休憩していると歩数が回復していく
というもの。
「休むことでほめられる愉快なスポーツ」、「体力に自信がない人にもおすすめ」とされるサッカーだが、実際には500歩を如何に使うか頭も使うし、ただ闇雲に走り回ることを求めないので、子どもから高齢者まで、体力差が大きく開いていても楽しめる可能性のある、天才的な発明であると思う。是非、動画などを検索してご覧頂きたい。
ゴルフ産業に必要な「スポーツ・クリエーション」の発想
武蔵野美術大学では、2021年度から「スポーツ・クリエーション演習」という2単位の授業を新設(担当:北 徹朗)したが、まさに500歩サッカーのような発想を目指した授業を展開している。例えば、「デジタル鬼ごっこ」とか「検on銃」(コロナ収束後に大量廃棄されるであろう非接触型体温計を使ったゲーム)など、美大生によるユニークなスポーツが続々と生まれている。
スポーツ庁は「国民のスポーツ実施率向上」を目指して様々な施策を試みているが、既存のルールにガチガチに縛られたスポーツを幾ら推奨しても、一歩を踏み出し難いことはこれまでの状況が証明している。「自分自身が楽しいと感じられる遊び(スポーツ)を創造(クリエーション)し、自らの好みでカスタマイズ(選択の自由性向上)できる」ような、環境・風土がさらに醸成されて行く必要があるだろう。
用具やプレースタイルの自由度を高めて行くことで、ゴルフ場に足を向ける層は確実に広がる。いまだに「ゴルフをすると社会人としてのマナーが身に着く」と言った根拠のない活性化策を大きな声で推奨している場面を見かけることがある。ゴルフ産業には「スポーツ・クリエーション」の発想を許さない風土が定着していると感じている。ゴルフ場予約サイトでフットゴルフのような「ゴルフ場を利用した別の遊び」で予約できるようになったり、「1ホール単位」で楽しめるようなゴルフ場が増えて行くことが、結果的にゴルフの裾野を広げるし、ゴルフ産業を維持して行くためには必要ではないか。
参考文献
・北 徹朗・中村 修(2019)初心者向けゴルフクラブ開発の経緯-シャフトの接続部分をヘッドの中心寄りに設計したクラブの試作―、体育研究 (53) 、pp.13-18
・PR TIMES:世界ゆるスポーツ協会、ミズノと新競技「500歩サッカー」を共同で開発、https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000051.000018821.html(2022年11月11日確認)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら