Q1 ゴルフ場の「温室効果ガス固定機能」とは?
先日、ある方から「現状、日本のゴルフ場は約2150コース、その敷地面積は約24万ヘクタールで、神奈川県とほぼ同一面積になる。そして、ゴルフ場は、樹林地を伐採して造成したため、樹木による二酸化炭素の固定が出来ていたはずの面積が失われた」との話を聞きました。ゴルフ場の負の側面を表わす話ですが、大石さんのお考えは?
A1 その話はどのような根拠に基づくのか定かではありませんが、知り得る範囲の知識に基づいて私の考えを申し上げます。
日本のゴルフ場は、1960年には195コースで、その敷地面積は1・3万ヘクタールでした。それが2002年には2442コースとなり、敷地面積も27万ヘクタールにまで拡大しました。その後、バブル経済崩壊以降の景気低迷や東日本大震災等により、直近の11年間だけで約220コースが閉鎖や他の用途に転換され、現在は2198コースで約24万ヘクタールとなっています。
高度成長期の1970年代においては、環境保護団体などから環境破壊とのバッシングを受けたことも事実です。このような状況に対し、1976年には、ゴルファーからの緑化協力金や寄付金等により緑化推進と環境保全事業を目的とした「社団法人ゴルファーの緑化促進協会」(現、公益社団法人ゴルフ緑化推進会)が設立され、各地の植樹活動の支援や環境保全等に関する啓発活動を展開しています。
ご高承の通り、山林や原野を用いてゴルフ場を開設するためには、国と地方自治体の開発規正法上の許可を取得する必要があり、開設された時代によって相違はあるものの、環境保全のためにゴルフ場敷地面積の30〜40%程度を残留緑地や回復緑地にしなければなりません。
さて、ここで冒頭のご質問の件です。ゴルフ場の造成によって「神奈川県と同等の約24万ヘクタールの樹林地が伐採された」は、正確ではありません。残留・回復緑地の存在を考えれば、樹林地を伐採してフェアウェイやラフに造成できる面積は、多くても約15万ヘクタールと考えるのが、妥当と思います。
また、ゴルフ場の樹林地と芝地等が光合成によって二酸化炭素を固定する年間量について「縣 和一九州大学名誉教授」が2008年に発表された論文「大気浄化地球温暖化防止に寄与するゴルフ場」があります。
この論文では、2008年当時のゴルフ場約2400における二酸化炭素の年間固定量は、約460万トンと試算されています。この固定量は、4人家族の標準世帯230万戸の年間使用電力量を、火力発電する際に放出される量と同等としています。
「環境破壊」と糾弾されたゴルフ場が、実は地球温暖化防止に貢献している証左といえます。
さらに、二酸化炭素が難分解性の土壌有機物として固定されれば、地球温暖化の抑制につながります。大気中の二酸化炭素は植物の光合成により吸収され、植物体を形成する葉や根となり、枯れると微生物等により土の養分を保つ有機物に分解され、土壌中の有機炭素として蓄積されます。
この土壌炭素量は、約1兆5000億トンと巨大で、大気の2倍、植生の3倍となっています。この土壌炭素の量を増加させることができれば、地球温暖化を抑制することができます。
そして、世界に広がる考え方が、「4パーミルイ二シアチブ」です。
「4パーミルイニシアチブ」とは?
現在、人類の経済活動によって大気中に排出される年間の炭素量は、約100億トンずつ増加しており、樹木などによって吸収される分を差し引くと年間約43億トンが純増しているようです。
一方、前述した土中炭素約1兆5000億トンのうち、表層の30〜40センチに約9000億トンの炭素があるとされています。この表層にある約9000億トンの炭素を毎年0・4%増加(約36億トン)させることができれば、人類の経済活動によって増加するであろう二酸化炭素の大半を吸収し、温暖化を防止することができるとの考え方に基づいた活動が、「4パーミルイニシアチブ」です。
2015年12月の「国連気象変動枠組条約締結国会議」(COP)にフランスから提案され、2020年9月現在、我が国を含む489の国や国際機関が参画しています。
日本の地方自治体として山梨県が初参加し、果樹園などで発生した剪定枝を「炭」にして土壌改良材として使用し、炭素を長期間土壌に貯留するとともに、温暖化防止に寄与して生産された果実を新たなブランド品としてPRしています。
なぜ、山梨県の取組が「果樹園」となっているのでしょうか。それは、通常の稲作や畑作は、農地を耕起するために土壌炭素は微生物の働きによって分解され、二酸化炭素として大気に放出されるという循環を繰返します。植物による有機炭素の生成速度が土壌炭素の分解速度よりも大きいと、土壌中に土壌炭素が貯留されることになります。そこで重要となるのが、「不耕起」による土壌作りです。ゴルフコースのフェアウェイやラフは、基本的にエアレーションなどによる更新作業=「不耕起」によって管理されています。
前述のフェアウェイやラフに造成された約15万ヘクタールについては、コース造成時に土壌炭素は一旦消失しますが、「不耕起」管理によって再貯留されています。
昨年夏から、ゴルフ場の芝地を対象に土壌炭素の調査が行われました。「都市緑化機構」が我が国の「温室効果ガスインベントリ報告書」の精度向上のために実施したものです。ゴルフ場を対象にした初めての本格的な調査ではないでしょうか。日本ゴルフ場経営者協会は、現地調査に協力して頂けるゴルフ場の選出などで協力を行いました。
現状、速報として欧米のゴルフ場での研究結果と同様ゴルフ場開設後の経過年数に応じて土壌炭素が増加していることが確認されました。
調査結果については、本年度上半期に公表される予定です。
ゴルフ場が、緑化施設として二酸化炭素を固定し、「不耕起」管理によって土壌炭素を貯留し、地球温暖化防止に貢献していることが更に明らかになろうとしています。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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