ゴルフ業界は、コロナ禍の影響をふまえた「将来予測」が他業界以上に必要である。なぜなら、コロナが特需を発生させ、プラスに作用したからだ。これによりゴルフ業界は、一時の好況に沸き返った。
しかし、前号ではマイナス効果も存在することが確認できた。これらの実態をすべて明解に説明できる調査データはこの業界に存在しない。それでもゴルフ需要の将来予測は必要だ。明快に説明できるデータがないからといって、簡易な調査結果をあたかも正解のように発表したり、サイコロを振ったり、鉛筆をなめてひねり出した数字には意味がなく、却って混乱要因になりかねない。
過去の統計データから変化の規則性や法則を見出し、それを将来に延長する一貫した論理で予測しなければならない。現状、信頼できる過去の統計データは20万人規模の調査数を誇る、総務省の「社会生活基本調査」に勝るものはない。これに加えて、
・国勢調査
・国立社会保障人口問題研究所将来人口予測
がある。本稿では、これらを基にゴルフ需要量(コース+練習場行動日数)を予測しよう。
ゴルフ需要公理とは
ゴルフ需要の「総量」を算定する計算式としては、
・ゴルフ対象人口×ゴルフ参加率=ゴルフ人口
・ゴルフ人口×ゴルフ活動率=ゴルフ行動量
があり、これは誰もが認める「ゴルフ需要公理」である。さらに各項は、
・国勢調査ゴルフ対象人口×社会生活基本調査ゴルフ参加率×社会生活基本調査ゴルフ活動率
に置換可能である。〈図1〉
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図1[/caption]
将来予測とは年齢別将来参加率、活動率の予測
ゴルフを対象とした「将来人口」は、国立社会保障・人口問題研究所から公表されており、ゴルフ需要の将来の「総量予測」は結局、
・ゴルフ将来参加率
・ゴルフ将来活動率
を予測すれば良い。
将来にわたり日本の人口が減少するのは明らかだが、ゴルフ対象人口は、各年齢別人口変化に左右される(世代交代変化)。ある年齢の現在の参加率、活動率が、将来も一定である保証はなく、各年齢別に将来値を予測しなければならない。その際に過去の推移から変化の法則性を発見して、その法則を将来へ延長して「将来値」を予測する作業になる。
では、「法則」とは何か? 筆者はゴルフ参加率、活動率における「年齢別過去変動データ」に存在すると考える。連載第二回で説明したように、年齢別参加率、活動率の精度は「社会生活基本調査」が圧倒的に高い。そのため、過去の社会生活基本調査から変化の法則性を発見し、
・ゴルフ年齢別将来参加率
・ゴルフ年齢別将来活動率
を設定することが賢明である。また、予測に幅をもたせるために予測の前提条件を複数設定し、比較シミュレーションを実行する。
社会生活基本調査年齢別データの信頼性を検証
予測基点となる社会生活基本調査の年齢別データの信頼性を、ゴルフ関連全数調査2データと比較した。
・利用税非課税利用者との比較
これは、日本ゴルフ場経営者協会(NGK)が発表しているゴルフ場利用税の非課税者(70歳以上)のデータで、全数調査である。この「過去推移」と社会生活基本調査の「70歳以上行動日数」を〈グラフ1〉とした。コロナ以前は両者に相関が認められる。
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グラフ1[/caption]
・特定ゴルフ練習場来場実績との比較
社会生活基本調査における「ゴルファー」は、コースと練習場の利用者が区別されていない。筆者は2012年にゴルフ市場活性化委員会(GMAC)で実施した、コース入場者一斉調査等により、練習場入場者数はコースの「1・2倍」と推定している。この比率が全年齢共通とすれば、年齢別練習場利用回数は〈表1〉のように求められる。

これを練習場来場実績年齢別平均利用回数と〈グラフ2〉とした。両者には相関が認められる。社会生活基本調査の年齢別データによる将来予測は、有意と考えてよい。
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グラフ2[/caption]
将来対象人口の確認
ゴルフの「対象人口」の将来値ほど、確実な予測はない。国立社会保障・人口問題研究所の2018年予測を〈表2、グラフ3〉とした。これによれば、2035年には対象人口が現在より14%減少する。

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グラフ3[/caption]
参加率過去変化の法則性
まず、過去の社会生活基本調査の推移を確認する。〈グラフ4〉をご覧頂きたい。
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グラフ4[/caption]
同一年齢でも調査年度によって大きくバラついているが、果たして法則性はあるだろうか?
ある年齢集団の5年後のゴルフ参加率の変化率を「参加率加齢係数」と定義しよう。この係数は、筆者が長年の市場調査から見出した将来予測の法則であり、その計算方法と結果を〈表3、図2〉とした。

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図2[/caption]
2006年に15~19歳であった集団は、5年後の2011年には20~24歳に加齢し、2006年の参加率2・8%を2011年には5・7%に変化させている。この場合、2006年→2011年における20~24歳の「参加率加齢係数」を5・7%÷2・8%=2・04とする。2006年に15~19歳であった集団は、2011年には20~24歳に加齢して、ゴルフ参加人口を104%増加させた。しかし、2021年には「参加率加齢係数」が0・82となり、5年間でゴルフ参加人口を18%減少させたことになる。
30代以降の参加率加齢係数は、調査年が変わっても常に安定しており、参加率加齢係数には一定の法則性がある。つまり将来参加率は、この法則性により設定すれば良い。10~14歳は基点データがないため、将来も変わらないとする。
加齢係数による将来値設定
例えば「2025年35~39歳の2025年将来参加率=2021年30~34歳実績参加率7・5%×加齢係数0・9=6・8」という計算によって設定する。〈図3〉
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図3[/caption]
将来予測基本加齢係数
活動率の推移〈グラフ6〉から、参加率と同様に活動率加齢係数を計算した。
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グラフ6[/caption]
ゴルフ需要変動モデル
2006年~2021年4次調査から3次の加齢係数を平均し、また30歳以降を移動平均値に置換し〈表4・グラフ7〉を得た。

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グラフ7[/caption]
これは非常に重要な知見である。ゴルフ需要がどの年齢で生まれ、加齢とともにどのように変化するかをシンプルに明示する、いわば「ゴルフ需要変動原理モデル」となるからだ。〈表4・グラフ7〉を、将来ゴルフ需要量を支配する変動法則としてゴルフ需要将来予測値を計算する。
予測前提条件・コロナ影響持続性の判断
2021年の社会生活基本調査に基づくゴルフ将来需要予測は、例年と異なりコロナ禍の影響にともなう困難がある。言い換えれば、ゴルフの将来需要はコロナの影響が今後どう変化するかによって大きな差異を生ずるわけだ。そこで筆者は、結果に幅をもたせるため4つの前提条件を設定し、それぞれ計算した。
(A)コロナが発生しなかった場合
2016年調査実績参加率、活動率を基点とし〈図3〉のように2020、2025、2030、2035年参加率、活動率を設定する。
(B)コロナ影響が短期に終焉した場合
2020年参加率、活動率のみ2021年社会生活基本調査実績値とする。2025年、2030年は(A)と同一とする、2035年は、コロナが2021年のみ影響するとした前提条件である。
(C)コロナ影響が持続する場合①
2021年参加率、活動率を起点とし三次平均加齢係数により2025、2030、2035年参加率、活動率を設定する。
(D)コロナ影響が持続する場合②
2021年参加率、活動率を基点とし、直近2016→2021年加齢係数により2025、2030、2035年参加率、活動率を設定する。コロナ特需が将来も持続する前提条件である。
計算結果
4つの前提条件と計算結果を〈表5・グラフ8〉とした。

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グラフ8[/caption]
ここで得られた結果から、
・2021年の需要は、2016年より6%減少するところ、コロナ禍により94%から101%へ7ポイント押し上げられた。
・コロナの影響が持続すれば、2035年のゴルフ需要は、2015年比14%増加となる。
・コロナ禍による需要増が短期に消滅すれば、2035年の需要は34%減少する。以上のことが読み取れる。
ここで「なぜ、将来時間が進むにつれゴルフ対象人口以上にゴルフ需要量が減少するのか?」との疑問が生ずるが、それは「ゴルフ人口増加年齢セクターである20~29歳の将来人口」が、全体減少以上に減少するからである。そのことを〈グラフ9〉が示している。
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グラフ9[/caption]
本連載は今回を含めて計4回、最新の社会生活基本調査を中心に、信頼に足るあらゆるデータを駆使してゴルフ需要の分析を試みた。5回目となる次号を最終回として、
・ゴルフ需要を維持・増大する対策は何か
・現状データの限界
について考察を述べたい。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年1月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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