「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ場料金値上げ傾向にみる 具体的な背景と施策を考える

「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ場料金値上げ傾向にみる 具体的な背景と施策を考える
Q1  各種コストの上昇にどのように対応するのか? 昨年の暮れに「GDO」がウェブサイトの「予約送客手数料」を値上げすると発表しました。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻等を原因として、原油高や様々なコストが上がっています。一部ではゴルフ場も「便乗値上げ?」と言われますが、大石さんはどのように考えますか。 A1  ご質問、ありがとうございます。「便乗値上げ」とは、「止むを得ない理由に便乗してそれ以上の値上げを行うこと」ですが、今回の値上げの多くは「便乗値上げ」には該当しないと考えています。その問題の前に、2021年度のゴルフ場利用者状況を簡単に説明しましょう。 2021年度の感染状況は前年度を上回り、多くの自治体に長期間、「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」が出されました。広域移動の自粛や飲食店の営業制限等により、社会・経済活動が停滞したことは衆知のとおりです。 ところが、ゴルフ場利用者数は2020年度下期からの増加傾向が続き、2009年度以降12年ぶりに9000万人弱となり、1ゴルフ場当たりの利用者数も1997年度以来の4万人超えとなりました。特にゴルフ界の将来を支える「18歳以上70歳未満」の利用者数は、コロナ前の2019年度に比較して4%増の7000万人弱となっています。 この要因は、コロナ禍での様々な行動制限や精神的ストレスへの反動現象でしょう。広域移動を行わず、感染リスクの低い自然環境の中で家族や仲間と楽しめるレジャーとしてゴルフが評価された結果だと思われます。つまり、コロナ禍における価値観の変化こそが、今後の「ゴルフ普及」のキーワードのひとつだと、改めて証明できたと思います。 さて、次に本題である「コスト上昇要因」と、それへの対応について考えてみたいと思います。 コスト上昇によって値上げをする場合には、消費者に丁寧に情報開示することが必要です。今回、ゴルフ場が値上げ傾向にあるのも様々な要因が背景にあります。 第一の要因には、「ウェブサイト予約」を運営するGDOの「予約送客手数料」の値上げがあります。値上げの中身は、算定対象料金に「消費税」と「ゴルフ場利用税」を含めることで、手数料水準を「楽天GORA」と同一にするというものでした。これによって、算定対象料金が1万円未満の場合、手数料が「20%強上昇」することになりました。この値上げは、同社の予約サイトを利用するゴルファーには周知されていません。ゴルフ場のコストアップ要因になっていることを利用者に伝える必要があると考えています。 尚、ウェブサイト集客の問題については別の機会に紹介します。 第二の要因は、コロナ禍によるサプライチェーンの寸断や、異常気象を引き起こすラニーニャ現象の長期化による穀物生産量の減少と、これを懸念することで生じる先高感が食品価格を押し上げることです。 気象庁の発表では、2021年秋から始まったラニーニャ現象は今年夏まで続くとみられ、米国中西部では長雨でトウモロコシの作付けが遅れ生産量が減少、記録的な熱波に襲われたインドの小麦も不作が懸念されています。特に、小麦は世界の輸出量の30%を占めるロシアとウクライナの戦争によって、食糧危機に発展するのではと危惧されています。 日本の小麦消費量は570万トンで、自給率は14%程度。残りの488万トンを輸入に頼り、うどん・パン・パスタ等が10%以上の値上げとなっています。食品価格の値上げは6~7月だけでも3600品目以上が予定され、このままでは年間1万品目以上が値上げされるとの報道もあるほどです。 以上の食品価格の上昇は、レストラン商品の価格の値上げに繋がりますが、「SDGs」に基づいた「フードロス削減施策」をプレーヤーの理解を得て実施し、適正な範囲に留めることが肝要と考えます。

円安の影響もジワリ

第三の要因は、原油、天然ガス等の価格の高騰です。コロナ禍での需要減と、その後の経済回復による需要増、さらにロシアへの経済制裁が重なったことで電気・ガス・ガソリン・燃油サーチャージ等の値上げにより、間接的な各種商品の製造原価や流通コストが増加しています。 特に電気料金は、電力自由化後に参入した「新電力」の一部が、「日本卸電力取引所」のスポット価格が前年同期比2倍以上に高騰。逆ザヤ現象となって撤退する企業や新規受付を停止する事態となっています。 この現象は大手電力各社も同様で、電気小売り契約のない企業が急増して、「最終保障供給」を利用する企業が5月末で1万3000社に及ぶ事態となっています。「最終保障供給」は、電力小売り契約のない法人に必ず電気を届ける一時的な制度のため、標準料金の1・2倍と高く設定されていたが、大手電力各社も資源高の影響で新規法人に「最終保障供給」より高いプランを提示するなど、セーフティーネット機能が発揮できない事態を招きました。 経済産業省は「最終保障料金」が割高な状態を保つために、市場価格を適宜反映したものに改めるとしていますが、一連の事態がゴルフ場経営の負担となることは当然です。電気料金値上げに対するひとつの策として、年々上昇する「再エネ賦課金」の影響を受けない等の利点がある再エネ事業者との「PPA(電力購入契約)」の活用も有効でしょう。 第四の要因は、全農が6月以降の肥料価格を、直近6か月よりも最大9割引き上げると発表したことです。日本の化学肥料の原料は「リン酸」の90%が中国、「尿素」の84%がマレーシアと中国、「カリ」の85%がカナダ・ロシア・ベラルーシからで、ほぼ輸入に頼っている状況です。これらがゴルフ場の管理コストを高めることは明らかで、対策としては「緑化廃棄物等のコンポスト化」と「有機肥料」の活用が有効と考えられます。 また、日米欧の金利差による円安が、輸入価格を総じて押し上げ、ゴルフ場の経営を圧迫しています。生活物価が上がれば、呼応して人件費の適正な上昇も必要で、そうしなければ人財確保がさらに難しくなってきます。「値上げ」に際しては、原因とコスト吸収策も含めて、丁寧な情報開示を行い、理解を求める姿勢が重要と考えています。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年7月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら