世界は3年にわたるパンデミックへの緊急対応から、ようやく通常経済に復帰しはじめた。この間、国内ゴルフ産業はコロナ特需のフォローに浴することができたが、それだけに3年間の「コロナ特需」の詳細を客観視する必要がある。一時的な好況に浮かれてはならない。
客観視するには市場データが必要だが、ゴルフ業界にはタイムリーかつ詳細に得られるデータは極めて乏しい。しかし筆者は以前より、少数ながらゴルフ練習場の来場データを分析する機会に恵まれた。コロナ前の2019年から2022年までの4年間、カードシステムを導入している練習場での「全来場データ」を分析したものである。
カードシステム導入のゴルフ練習場では、全来場者の利用料は現金ではなく、前払いチャージで決済される。そのためすべての顧客がいつ来場したかがコンピューターに記録される。いわば小売店のPOSレジデータと同じであり、市場分析の利用価値が極めて高い。
今回、情報開示の許諾を頂いたのは、関東以外某所の施設のものである。個人情報を含むので、開示情報は以下の5項目に限られる。
・顧客番号
・カード発行日(新来者年月日)
・4年間月別来場回数経過
・性別
・年齢
性別と年齢はヒアリング後の入力だが、この項目の不明者は5%未満と良質なデータである。
4年間1度でも来場した全顧客のデータであり、5万8840名となった。N数=5万8840で、国内ゴルフ需要の全体像を推量可能かは議論が必要だが、世の中にはこれより遥かに少ないN数でゴルファー動態を調べたものが多い。コロナ禍という異常事態を迅速タイムリーに詳細変化を分析し、将来予測を可能とするデータは他にない。
年間合計値の推移
4年間の単年度合計値推移を〈表1・グラフ1、2〉とした。
・来場数、実動顧客数(単年度来場顧客数であり、他調査のゴルフ人口に相当)は、2021年が最大であり、コロナ前の119%だった。
・新来数は2020年が最大でありコロナ前の129%。だが、2021年以降減少し、2022年は93%とコロナ前以下となった。
・年間平均利用回数(ゴルフ練習場活動率に相当)もコロナ前以下となった。
合計値推移からは、
・コロナ特需のピークは2021年。
・その原因は新来者の急増。
・新来者による来場数は2022年も維持されている。
・2022年の新来者は、すでにコロナ前レベル以下に減少した。
以上のことが読み取れる。
年齢別、性別詳細
ゴルフ練習場POSデータは、さらに詳細な分析が可能である。2021年の来場数の年齢別、性別構成率を〈グラフ3、4〉とした。
・2021年対2019年の年齢別来場数増減では、20~24歳の増加量が最大である。しかし、コロナ特需は若い新来者急増によるとは言い切れない。45~49歳を中心とする増加を見過ごしてはならない。
・コロナ後、女性比率が僅かだが高まった。コロナ禍の影響は女性にも及んでいる。
翌年継続来場率
当該年の来場回数による、翌年継続来場数の変化を〈グラフ5〉とした。
コロナ前後では、当年来場回数による翌年継続来場率の変化に差がない。ビギナーゴルファーが安定顧客となる閾値を、本稿では「年間12回来場」として安定・不安定とする。
コロナ前後来場経緯の顧客分類
コロナ前からの来場顧客か、コロナ後の新来顧客かを、新来カード発行年の来場回数により全顧客を以下の5分類とした。
1.コロナ後に安定ゴルファーとして新来場した。ゴルフを中断していたが、コロナによりゴルフを再開したとみなす。
2.コロナ後にビギナーゴルファーとして新来場した。
3.コロナ前から安定ゴルファーとして来場していた。
4.コロナ前からビギナーとして来場していた。
5.コロナ前は休眠していたが、コロナ後安定ゴルファーとして復活来場した。
以上5分類のコロナ前後来場経過を〈表2〉、2022年対2019年増減を〈グラフ6〉とした。
2022年の来場回数対2019年の増減では、
・コロナ前の既存安定ゴルファー来場数が▲12万716回と大幅に減少した。
・それを補う形でコロナ後の新来者による増加14万9821回が生じた結果、合計では4万5545回プラスとなった。
・コロナ前に休眠していた既存顧客のコロナ後来場再開2万94回も、コロナ特需と考えられる。
・コロナ特需は、両者合計で16万9916回である。
コロナ前の既存安定ゴルファーが来場回数を減らした原因
コロナ前の既存安定ゴルファー来場回数は、2020年以降年々大きく減少したが、その原因をPOSデータからは見いだせない。言えることは、コロナ後に回数増加した既存安定ゴルファーも存在したことである。年齢別の減少を〈グラフ7〉とした。40~59歳が目立つ。これらの顧客が今後回復するかを注視する必要がある。
まとめ
・コロナ特需は決して若者新来者ではない。
・増加の陰に、コロナ禍でゴルフ練習場利用を縮小したゴルファーも多く存在する。
・結果的に合計はプラスだが、全体ゴルフ練習場需要は「既存安定」から「新来不安定」へシフトした。
・今後来場量を維持するためには、不安定ゴルファーを安定化する施策が不可欠。練習場本来の使命、存在意義が問われる。
最後にPOSデータに表れたコロナ前後の安定化率実績を〈表3〉として掲載する。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年3月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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