プレー人口激減期(18-23問題)とゴルフ場(第24回) ゴルフ場経営者の皆様、こんな研究を一緒にしませんか?

プレー人口激減期(18-23問題)とゴルフ場(第24回) ゴルフ場経営者の皆様、こんな研究を一緒にしませんか?
コロナ環境下で一時的にゴルフ人口が増えているという報道もあるが、人口減少や少子高齢化の推移を見ると、今後もゴルフ人口の減少傾向が続くことは間違いない。この連載では、筆者が提唱する「18-23問題」(2018年~2023年にかけてのゴルフ人口激減)に立ち向かうための改善策や基礎資料に基づく提言を述べさせて頂く。

地方大、女子大、短大は経営的に厳しさが増している

厚生労働省が2023年2月28日に発表した人口動態統計速報によると、2022年の出生数は79万9728人で過去最少を更新した。2022年の年末「出生数が80万人割れの見通し」であるとして大きなニュースとなっていたが、実数が発表され、80万人割れが「確定」した。従来の予測より早いペースで80万人割れに到達したことで、現在、少子化対策が様々言われているが、今後も社会情勢の劇的な変化が無い限り、出生数のⅤ字回復は見込めないとの見方が多い。 国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2072年に出生数が50万人を割るとされるが、80万人割れのペースが予想よりも早かったことから、現在のトレンドが継続すると、2031年には出生数70万人割れ、2040年に60万人割れ、2052年に50万人割れに到達する可能性も指摘され、今後も少子化は益々深刻になって行く。 筆者が従事する「大学業界」では、2023年3月に恵泉女学園大学(東京都多摩市)、4月には神戸海星女子学院大学(兵庫県神戸市)が募集停止(閉学)することを公表している。18歳人口の減少などの背景から、大学業界では従来より『2018年問題』が指摘され、「地方大」「女子大」「短大」は「危ない大学」となる可能性が高いことは言われてきたが、今年に入って女子大の閉学が立て続けに発表された。 ゴルフ業界でも、2000年代初頭頃より、プレー人口の高齢化から大学業界と同じような問題意識を持ち続けてきたが、まだ、何とか持ち堪えている。本誌でもしつこく論じてきたが、従来のままのプレースタイルや経営方法では行き詰まることは確実である。業界内では「ゴルフ人口増加策」というワードがよく用いられるが、実際は増加する見込みは無いし、現状維持していくこともまず無理だろう。

相次ぐゴルフ場の廃業:ゴルフをしない周辺住民には無関係な施設であることが廃業加速の一因

日本のゴルフ場数のピークは2002年の2457ヶ所であったが、今日(2022年3月末現在)では2189ヵ所にまで減少している。廃業・閉鎖による減少は12年連続であり、既に268のゴルフ場が日本から消滅している。 最も古いデータが残っている1957年には116ヶ所のゴルフ場しかなかったが、この65年間で2000ヶ所を超える、凄まじい数のゴルフ場建設が行われてきた。しかし、ゴルフ人口は1992年をピークに30年間減少し続けており、2035年までに全国で約1000ヶ所、首都圏でも約150ヶ所のゴルフ場経営が立ち行かなくなるとの予測も出されている(齋藤、2012)。 既に廃業した268ヶ所ものゴルフ場跡地の多くが太陽光発電(メガソーラー)と化している。貴重な山野を拓き、健康づくりに寄与するスポーツ施設がせっかく建設されたのに、開業後僅か30年程で廃業・転用される状況が多く見られている。 日本のゴルフ場の9割以上は会員制を建前としているが、実際はビジター客によって成り立っているものが大半である。いずれにしても、現状では「ゴルフをする人だけ」のための施設であり、ゴルフをしない周辺住民にとっては無関係な施設であることも廃業が加速する一因でもある。

ゴルフ場とレモングラス:ゴルフ場が「地域に開かれた有用性の高い健康増進施設」になれる可能性

「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(久山町調査,厚生労働科学)では、2025年に約650‐700万人、2040年に約800‐950万人、2060年に約850‐1150万人の推計がされた。認知機能低下の主要因は加齢であり60歳頃から少しずつ衰えるとされている。 塩田ら(2014)は高齢者福祉施設入居者を対象に「レモングラス精油」や「レモングラス細胞水」の香りが交感神経を刺激し前頭葉内側近傍の血流量が顕著に増すことを証明した。また、中等度のアルツハイマー型認知症に予防・治療効果があることを示唆している。この研究は「レモングラス様」の精油や細胞水を居室の壁に塗布する方法で、植物を用いた検証ではないが、精油は植物から抽出された天然成分100%の液体であり、実際の植物でも同様の効果が期待される。

ゴルフ場に「居るだけで」認知機能改善(認知症予防)の可能性

プレー中にとどまっている時間の長い「グリーン」や「ティーイングエリア」周辺にレモングラスを生い茂らせれば、ゴルフをする人は脳機能(認知機能)も向上することを期待している。先行研究(精油)での検証に倣い、実際の植物(レモングラス)の香りを屋外で嗅ぐことでも認知機能改善が証明されれば、ゴルフをしない人をゴルフ場に招き「ゴルフ場に居るだけで認知症予防」になって行く可能性がある。 それが可能となれば、ゴルフ場周辺住民など、ゴルフに無関係の人もゴルフ場を有効に活用できる事例や社会的な仕組みに発展して行く可能性がある。それは、市民の健康とともに、ゴルフ場を有効活用する手立てとしても有用性が高いものとなる可能性がある。 日本には多くのゴルフ場(アメリカ、カナダに次ぐ、世界3位の多さ)が存在し、日本の国土面積の約0・7%、森林面積の約1・0%をも占めている。すなわち、生活圏内あるいは少し足を延ばせば、どの地域からもゴルフ場にアクセスできる環境にある。

〈ゴルフ場経営者の皆様へ〉

レモングラスが多数植生された空間で過ごすことの認知機能の改善について検証してみませんか? 会員の超高齢化は、プレー離れを招くかもしれませんが、ラウンドをせずとも、単にゴルフ場で過ごすことのクラブライフが、ますます定着して行く可能性があります。プレーをしない会員の過ごし方を考えることは、ゴルフをしない周辺住民を招き入れるヒントにもなって行きます。ゴルフ場の存在意義が高まるチャンスになるかもしれません。フィールド実験での条件設定や検証方法は我々大学研究者がお手伝い致します。意欲がおありのゴルフ場様がおられましたらご連絡お待ちしています。 (連絡先:kita@musabi.ac.jp、武蔵野美術大学教授 北徹朗)
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年5月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら