「ゴルフ産業Q&A」待ったなし気候変動対策で 期待されるゴルフとEV普及の相性

「ゴルフ産業Q&A」待ったなし気候変動対策で 期待されるゴルフとEV普及の相性
Q1ゴルフ界に気候変動対策の具体案はありますか? 気象庁は6月27日、関東甲信越地方の梅雨明けを発表しました。観測史上最も短く、早い梅雨明けとなり、気候変動による地球温暖化を身近に感じます。大石さんは常々、ゴルフ界は気候変動問題に積極的に取り組むべきと提言されていますが、具体的な対策はありますか? A1ご質問ありがとうございます。 国内ではほとんど話題になりませんでしたが、2018年の「国連気候変動枠組条約締結国会議(COP24)」において、IOC、FIFA、20年東京及び24年パリのオリ・パラ競技大会組織委員会などが参加して、スポーツ界が一丸となって気候変動問題に取組む「スポーツを通じた気候行動枠組み」が立ち上げられました。 この枠組みの目的は、スポーツ活動は移動やエネルギー使用・競技場の建設・食事の手配などを通して気候変動を助長する面があると認識し、スポーツ界が気候変動問題に取組む模範的な活動を示すことで、スポーツが持つ人気と情熱により百万人単位のファンに気候変動対策を訴える活動を行うものでした。 具体的には、「より大きな環境責任を担うため組織的な取組みを行う」「気候変動の全般的な影響を削減する」「気候変動対策のための教育を行う」「持続可能な責任ある消費を推進する」「情報発信を通じ気候変動対策を求める」の「スポーツを通じた気候行動原則」を掲げました。この枠組みに対し、COP24の事務局は、「スポーツ部門が気候変動対策のリーダーになれる機会だ」と強い期待感を示しています。 残念なことに、宣言団体の一つだった20年東京オリ・パラ競技大会組織委からは、物品調達に関する「フェアトレード認証」などへの取組に関して、積極的なレガシーといえるものが十分に公表されず、6月30日に解散してしまったのです。 その一方、日本ゴルフサミット会議は、20年に「NO!プラごみポスター」と「ゴルフ界も廃プラ削減に取組もう!」とした趣意書を作成。全国のゴルフ場・練習場などに配布して、廃プラ削減などを呼びかけました。これにより、洗濯物用ビニール袋の廃止、生分解性プラスチックティ、水筒持参などの取組みを行うゴルフ場やゴルファーが多く見られるようになりました。 そこで本稿は、今後ゴルフ界が注力すべき温暖化防止活動の一つとしてEV(電気自動車)とゴルフの関連性について述べていきます。

ゴルフ場に充電設備を!

私は、身近な温暖化対策の一つとして、EVの普及と密接な関係にあるゴルフ場の「EV充電インフラ」があると考えています。 EUは6月末、気候変動対策の一策として「EU域内では35年までに二酸化炭素を排出する新車販売を禁止し、ゼロ・エミッション車(温室効果ガスを排出しない車)に限定する」ことを決めました。ちなみにEUでの21年の新車登録台数は約970万台で、うちEVは前年比6割増の約88万台となっています。その流れは日本も無縁ではありません。 時として「EVの普及」と「充電インフラ」の整備は「卵が先か鶏が先か」の議論になりますが、次のような状況からEVの普及は日本でも意外と早く進むと考えられます。 そのひとつは昨年8月、IPCCが「世界の気温は2018年時点の予測に比べて10年以上早いスピードで上昇しており、今後20年以内に、産業革命前に比較して1・5度上昇する」と発表。 さらに「人類の活動が地球温暖化を引き起こしている」と断定したことです。また、15年9月に国連サミットで採択された「SDGs」への理解と達成に向けた官民の活動が活発化。個人の生活様式も「エコロジー」や「エシカル」を意識するようになりました。 当初、国内で発売されたEVは1回の充電で走行できる距離に不安があったものの、前述のEUの政策もあり、最新のEVは搭載バッテリーの大容量化で走行距離500km時代を迎えようとしています。ちなみに「テスラ」の日本での販売台数は、20年の約1900台から21年には2・7倍の約5200台に増加しています。 ゴルファーに人気の高い「ベンツ」「BMW」「アウディ」「ボルボ」が、走行距離500km超のEVを発売予定。これまでEVにやや消極的だった「トヨタ」も「bZ4X」に続き、秋には欧州や中国で「レクサスUX300e」を発売するとしています。 去る5月20日には「日産」と「三菱」から発売された軽EVが、国や地方自治体の補助金を利用すると180万円台(東京都は130万円台)で購入できるなどから、1か月足らずで両車合わせ約1万4500台もの受注があったそうです。商用軽EVの発売も予定されるため、ゴルフ場の日常業務で使用する日も近いと考えられます。 8年ほど前、国産EVの搭載バッテリー容量が「40kwh」であった頃、「3kw充電器」が多くのゴルフ場に設置されました。日本ゴルフ場経営者協会(NGK)が率先する形で全国的な説明会を開き、関与しただけでも70コースほどで設置されました。設置コストは国と自動車4社からの補助金の活用で、ほぼ自己負担額はゼロとなり、1コースでの最多設置数は4基ほどだったと記憶しています。 最近のEVは、搭載バッテリーの容量が「80~100kwh」となっており、6時間の普通充電で200kmの走行距離を確保するためには、「6kw充電器」が必要となるため、今後、補助金を活用して充電器設備の更新が必要となるでしょう。 政府は30年までに、補助金制度を設けて「急速充電器」を3万基、「普通充電器」を12万基に増設するとしています。また、マンションでの充電インフラ設置は住民の合意形成が必要なため、遅れることが予想されます。マンション住まいのゴルファーがEVを購入した場合、ゴルフ場の充電インフラが大きな付加価値になるでしょう。エコと経営戦略の両輪で、ゴルフ場はEV時代への対応が求められます。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら