「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ場の「パーパス経営」と ステークホルダーを考える

「ゴルフ産業Q&A」ゴルフ場の「パーパス経営」と ステークホルダーを考える
Q1 ゴルフ場にとって「パーパス経営」とは? 最近、「パーパス経営」という言葉が目につくようになりました。パーパス=目的が、企業の存在意義という使い方をされているようですが、ゴルフ業界ではあまり聞かれませんね。この点について、特にゴルフ場経営にはどんなパーパスが必要なのか……。大石さんはどのように思われますか? A1 ご質問ありがとうございます。おっしゃるように「パーパス」は、最近注目されている言葉で「企業は何のために存在するのか、社会的にどのような意義があるのか」という事業の原点を明確にするものです。 もう少し踏み込むと「パーパス」は、株主を主体として利益を追求する旧型の経営スタイルではなく、取引先や業界、国や地球環境まで考えて、すべてのステークホルダー(利害関係者)と共生することを目指す「パーパス経営」の原点となるものです。 現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、国民の価値観と行動は安全や安心を基準とすることに変化しています。また、頻発する異常気象を身近に感じ、環境問題への意識も高まっているのではないでしょうか。このような状況に加え、IoTで全ての人とモノが繋がり、様々な知識や情報を共有できることから、働き方もリモートワークの導入等、多様化の兆しが生じています。 反面、我が国は、少子化と超高齢社会で急速な人口減少が進み、社会構造の変革によって、このままでは国内経済の規模は徐々に縮小せざるを得ない状況にあるとみられます。 このような状況を乗り切るには、「ディスラプション」がキーワードになると言われています。「ディスラプション」とは、既存のものを破壊するような革新的なイノベーションを意味する言葉で「創造的破壊」と訳されます。卑近な例に、ネットフリックスによる映画やドラマの配信サービスや、アマゾンによるネットショッピングの普及があります。自動車業界にもEVや自動運転の普及によって、大きなディスラプションが起きようとしています。 これまでの「情報社会」では、IoTによって知識や情報が集積され、情報強者が有利になる一方で、高齢者や過疎化する地方社会では十分に情報が共有されず、格差拡大の要因ともなっています。 このような状況を打開するのが、人工知能(AI)による様々な課題解決策を伴った情報の提供です。ロボットや自動走行等による人手不足解消、エネルギーの多様化による温室効果ガスの削減、健康情報管理による健康寿命の延伸や、ロボット介護による社会保障コストの低減等で、経済的・環境的課題と少子超高齢社会での課題解消に繋げようという動きが生じています。

ゴルフ場経営での「パーパス」を考える

ゴルフ場業界でも「ディスラプション」は起きようとしており、その波を乗り切るために必要なのが「パーパス経営」と考えます。 「パーパス経営」は、冒頭に記した「個々の企業が何のために存在するのか、社会的にどのような意義があるのか」を明確にする「パーパス」を定めることから始まります。 その過程で重要なことは、その議論を経営者側のみで行うのではなく、若年層や女性を含めた従業員も参画して、すべてのステークホルダーとの共生を目指すことです。 企業は「社会の公器」と言われる通り、その活動は社会を進化させるためにあり、環境問題・社会的不平等・生物多様性の喪失など、様々な課題が浮き彫りになった今日、従業員や社会を幸福な状態(ウェルビーイング)に導く原動力となり得るからです。 そこでゴルフ場のステークホルダーですが、国民全体の心身ともに豊かな生活を実現するために、株主に加え、地域社会・自然環境・ゴルファー・ゴルフ業界、そしてゴルフ場で働く従業員などが対象となると筆者は考えます。主なステークホルダーとゴルフ場との関係性を次のような視点で分析し、「パーパス」にどのように生かすかを考えたら良いと思います。 「地域社会」との関係では、地域の持つ様々なアセット(歴史・観光資源・祭事・産業・雇用情報など)を分析する。「自然環境」との関係では、地球温暖化防止・地域環境の保全などにゴルフ場の持つ環境保全機能の更なる向上と、その機能の発信ができているかを検討する。 また、「ゴルファー」との関係では、創業時の精神・慣習・今までの経緯などを踏まえて、次に必要なものは何かを検討する。そして「従業員」との関係では、従業員の能力を最大限に発揮してもらうための心身ともに健康で豊かな気持ちで働ける職場環境の整備が不可欠です。 その他としては、ゴルフ業界や関係省庁などの政策も加味する必要があるでしょう。 これ以外にもステークホルダーはいるでしょうが、上記の関係性をきちんと整理して、その上でゴルフ場の「パーパス」をどのように設定するか、この点が重要になってきます。もちろん、経営者個々によってゴルフ場の「存在意義」をどう考えるかは異なると思いますが、最も大切なことは、従業員や社会を幸福な状態に導く「ウェルビーイング」を成長の源泉にすることで、ゴルフ場が提供するサービスも輝きを放ち、ゴルファーを幸福な状態に導くことができるはず。このような循環を構築できれば、結果的にゴルフ人口も増えるでしょう。 「パーパス経営」は、自社の存在意義を社内外に発信して企業価値を高めるパーパス・ブランディングと、顧客の本質的なニーズを理解してベネフィットを提供するパーパス・マーケティングの両輪で成立します。  ちなみに、日本における「パーパス経営」の元祖は渋澤栄一と言われており、「論語と算盤」に象徴される「私益」と「公益」の同時追求「道徳経済合一説」が知られています。 多くのゴルフ場企業が、社是・社訓・社歌などで、既に企業目的を表明されていることと思いますが、時代の変化に応じて見直すことも必要ではないでしょうか。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年9月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら