ゴルフ場来場者が帰宅の途に就き始める14時頃を想定した実験
夏場のプレー後、高温環境下に晒された身体を、入浴により再び体温上昇させた状態で駐車場へと向かっている来場者が多くいることが推測される。駐車場は、風が通り難い上に、多くの車によってさらに高温環境が助長されている。そこで、前号において「夏場には来場客が集中するチェックイン前の時間帯と、プレー後の帰宅時間帯に、駐車場に大型扇風機を配置しておくのはどうか」と提案したが、実際はどうなのかの検証を試みた。
〈実験条件〉
・実験日:2023年7月17日(月)
・実験場所:武蔵野美術大学駐車場(東京都小平市)
・気温(実測):40・5℃(14時)
・WBGT(実測):33・8℃(14時)
7月16日~7月18日にかけては「10年に1度レベルの高温の可能性」と報じられていたが、直近の推移を見ると、今後もこうした猛暑は繰り返し訪れることが予想される。実験当日はWBGT33・8℃であったが、31度以上は日常生活では「危険」、「運動は中止」とされる。実験当日は、このレベルをはるかに超える条件であった。
今回の検証では、来場者が帰宅の途に就く14時頃を想定して駐車場の状況について観察・実験した。
実験①:駐車場における「大型扇風機」の効果検証
〈実験手順・経過〉
・14時00分 大型扇風機を「強風」で稼働。路面温度が変化するかの観察(図1)。実験開始時の路面表面温度は60℃を越えていた(図2)。
・14時30分 図3のように、大型扇風機の直前部分のみが、僅かに温度が低下した。(60℃→55℃)
〈結論〉
猛暑下において、大型扇風機を稼働しても、路面温度は殆ど低下しない。来場者の往来を想定した路面温度低下を見据えた場合は、根本解決にならず、扇風機だけの稼働では殆ど意味が無い。
実験②:駐車場における「大型扇風機」+「打ち水」の効果検証
〈実験手順・経過〉
・14時30分 大型扇風機を「強風」で稼働。一般的なジョウロで2杯分の打ち水を実施し、路面温度変化の経過を観察。実験開始直後は、部分的に30℃台まで低下した部分も見られる(図4)。
・15時00分 「水たまり」は蒸発し、一見、路面表面はほぼ乾燥したが、図5の中央(Sp1/青い部分)は45・3℃、その下の黄色部分は47度であった。
・15時30分 打ち水した部分については40℃台にとどまり、50℃を超えることはなかった。打ち水をしていない路面部分は、観察終了段階でも60℃程度を維持していた。(観察終了時の環境:気温39・0℃、WBGT30・9℃)
〈結論〉
大型扇風機の稼働だけでは効果が低いが、「打ち水」を加えることで、少なくともその後1時間、打ち水無しの場合と比較して10度以上の路面表面温度の低下を維持した。
仮に「打ち水のみ」を実施した場合は、地表から熱い蒸気が立ち上るため、逆効果になる恐れがある。打ち水の際には、大型扇風機など湿度が高くならないように工夫することが必須である。
実のある対策で来場者の帰宅時間帯を快適・安全に乗り切る
スタート時間が早い来場者の場合、通常のプレースタイルでは14時前後には帰宅が始まる。その後、16時頃にかけて帰宅ラッシュとなるが、この来場者の帰宅ピーク時間帯を、少しでも快適・安全に乗り切るために、本稿の検証データが参考になれば幸いである。
今回の検証結果は、駐車場に限らず、ホールアウト時のカートの降車場など、アスファルトで固められた部分には効果的と言える。14時に「打ち水」をすることに加えて「大型扇風機」を併用すれば、15時過ぎくらいまでは10度以上の涼しさが持続する。15時以降は通常は自然に徐々に涼しくなって行くと思われるので、14時頃の1回の業務対応だけで、暑さが大幅に軽減される。
観察検証実験を試みた2023年7月17日は、東京都に熱中症警戒アラートが発出されていたが、東京以外にも、愛知県や大阪府など、今年最多となる32都府県にも熱中症警戒アラートが発出されていた。気象については毎年「観測史上最高」という言葉が頻繁に聞かれるようになっており、今後は実のある対策は何かを探ることがますます求められる。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2023年8月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。
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