「ゴルフ産業Q&A」利用税撤廃の「運動変化」に見る ゴルフ業界の議論不活発を考える

「ゴルフ産業Q&A」利用税撤廃の「運動変化」に見る ゴルフ業界の議論不活発を考える
Q1  「ゴルフ場利用税」改正要望のその後 例年、11月に入ると与党税制調査会などに対し、「ゴルフ場利用税」の存否問題について陳情活動が行われていました。ゴルフ場でプレーすると税金が取られる、いわゆる不公平税制の撤廃が目的ですが、直近ではそのような活動が行われていないようです。なぜでしょう? A1  ご承知の通り、「ゴルフ場利用税」の存否を含めた課題解決を求める活動は、全国組織のゴルフ関連15団体で構成される「日本ゴルフサミット会議」の中心的な課題として、毎年11月に開催される与党税制調査会に対してゴルフ界として陳情を行ってきました。 陳情の内容は、2018年までは「完全撤廃」でしたが、2019年からは、日本ゴルフ協会(JGA)の提案により、同協会の「ゴルフ場利用税廃止運動推進本部」が従来の活動を再検証し、廃止に至らない要因の排除に向けた活動計画を再構築する。それにサミット会議参画団体が連携するとの方針に転換されました。具体的には「ゴルフ場利用税撤廃」を前提としつつ「非課税措置の充実(対象年齢や対象競技の拡充)」に変更して活動が行われました。 その結果、「国民体育大会の公式練習・2020年東京オリンピックのゴルフ競技及び国際的な規模のスポーツ競技会のゴルフ競技(公式練習を含む)の非課税措置」が2020年度に導入されました。それ以前は、国際大会の出場選手にも課税する内容になっていたのです。 2020年度以降の要望は、ゴルフ場利用税を撤廃するという最終的な目標に向け、本税の「在り方の見直し」を要望するとして、JGAの「ゴルフ場利用税の在り方検討会」では、外部からの有識者も招聘して「法定目的税化」「名称の変更」「固定資産税に転嫁」など6案が検討されたようですが、2023年度の税制改正要望は行われていない。以上が私の理解している経緯です。 一連の経過について筆者なりの所感を申し上げますと、サミット参画団体が当事者意識を持って、「万機公論に決すべし」との姿勢が希薄だったことと、「ゴルフ場利用税」の知識が不均一のために、活発な議論の末に結論を見出すことが出来なかったことを憂います。 東京五輪・パラリンピックを巡る汚職事件も、議論を恐れない体質が備わっていれば、発生しなかったのではないでしょうか。本誌も日本ゴルフジャーナリスト協会の一員なので自由闊達な議論を期待します。 Q2 「ゴルフ人口は減少した」と今年も言われている? 総務省から5年に一度の「社会生活基本調査」が出され、10月には「レジャー白書」も発表されて本誌でも専門家による分析結果を公表しています。残念ながら、今年もゴルフ人口は減少したとの分析内容になってしまいました。ゴルフ人口の予測については「2015年問題」との表現から始まり、直近では「2025年問題」を危惧する見方があるように、少子化と超高齢社会で、2008年をピークに減少する日本の総人口と年齢別人口構成に基づいて急激なゴルフ人口減が起きるのではとの予測も発表されています。大石さんはどのように考えますか? A1  これは本当に回答が困難な問題です。なぜなら、ゴルフ場業界に籍を置く者としては、減少するとの分析結果を安易に受け入れるべきではなく、そうならないよう努力することを前提に考えるべきだと思うからです。したがって、そのような観点から回答しましょう。 前月号でも触れたように「日本は世界の大国の中で最初にスローダウンした国となる」と言われています。ここで言う「スローダウン」との表現は、「衰退」とか「後退」ではなく、加速するスピードが減速する状況のことだとご理解ください。 2020年、世界はコロナパンデミックにより、かつて経験したことのない形でのスローダウンに直面し、何も前進しないような感覚に陥ったのではないでしょうか。ゴルフ場業界も最初の数カ月間は初体験の「緊急事態宣言」発出と、コロナ禍への恐怖から、急激な利用者数の減少となり、バブル経済崩壊以降、脆弱な経営体質となっていたゴルフ場の閉鎖ラッシュを危惧する方も多かったのではないでしょうか。 しかし、5カ月を経過した頃から精神的・身体的なストレスを安全・安心な環境の中で解消しようとのニーズと、「身近でささやかな幸せを希求する」との価値観によって、ゴルフが身近なレジャーとして再評価されるに至り、ゴルフ場延べ利用者数が急増。この傾向は、一時の爆発的な増加ではないものの、28カ月が経過した現在もコロナ禍前に比較して微増する形で継続しています。  背景には、リモートワーク導入などの「働き方」、身体的・精神的ストレス解消のための身体的活動の有用性、人とのコミュニケーションの必要性、エシカル消費意識の向上などがあったと思います。 このような変化は、イギリスの「国家統計局(ONS)」が2020年夏に2500人を対象にした「コロナウイルスと英国への社会的影響」と題されたアンケート調査にも表れています。70歳未満の47%が「コロナパンデミック以降、生活によい変化があった」と答え、「一緒に暮らしている人とよい時間を過ごすことが増えた」56%、「生活のペースが緩やかになった」50%、「移動の時間が減った」47%、「家族や友人と連絡を取ることが増えた」42%、「運動する時間が増えた」が33%など。70歳未満の人が、コロナ禍によるスローダウンから生み出された時間を、個人の価値観に応じて有効活用している姿が窺えます。 逆に、70歳以上は「生活によい変化があった」が24%に留まり、「ウェルビーイングが大きく悪化」と答えた人が47%いました。 全体として、コロナ禍による雇用や収入への不安はあるものの、不要な消費や汚染を増加させてはならないとの倫理観、家族や友と楽しいことをして時間を過ごす価値観に変化しているようです。ゴルフは400年以上も多くの人に愛好されてきました。今後も人の心にマッチしたベネフィットを与え続けることが出来れば、減少予測を覆せるはずです。
この記事は弊誌月刊ゴルフ・エコノミック・ワールド(GEW)2022年12月号に掲載した記事をWeb用にアップしたものです。なお、記事内容は本誌掲載時のものであり、現況と異なる場合があります。 月刊ゴルフ・エコノミック・ワールドについてはこちら